MU 「恋愛撲滅倶楽部」見えない糸を現す力
2009年9月10日、MUの「片思い撲滅倶楽部」を観てきました。コミカルなテイスト。でも、偏光板を回すようにみえてくる、恋する想いの向こう側にぞくっとするような作品でした。
(ここからネタばれがあります。ご留意ください)
とある結婚相談所の話。ちょっとドライな女社長、会社設立に援助をもらった愛人関係の男に浮気をされて、その意趣返しに相手の女性を自分の会社に拘束してしまいます。ところが、その女性には恋愛の赤い糸が見えるというとんでもない能力があって・・・。
ちょっとしたドタバタ劇なのですが、それをただ笑ってみることができないのは、表層的な相性とか「べき」論で人を思う気持ちと、人を好きになるという自分でもコントロールできない内心の気持ちの乖離が鮮やかに描かれているから。
赤い糸は思う人へのベクトルのようなもの。表層的な相性でしかカップリングを行なうことができないはずなのに、赤い糸が見えるその女性がカップリングをすることによって、驚異的なレートでカップルが誕生していきます。しかし、相性の良さだけで人は満たされ続けるわけではなく、人の気持ちはうつろうもので・・・。
作・演出のハセガワアユムは、結婚相談所の経営というドライな側面を借景に、広告塔ともなるべき有名人のカップリングなどをエピソードとしてしたたかに織り込みながら、「恋愛」という概念と必ずしも一致しない「想う」気持ちをしたたかに舞台に浮かび上がらせていきます。その女性は、人に思われたいという気持ちはあっても人を想う気持ちが欠如している女社長に、赤い糸を観る力を渡す・・・。そこに見えたものの生々しさに愕然とするというか、ちょっと後ずさりしてしまうのは女社長ばかりではないわけで・・・。
しかも、刹那で現すだけではなく、その糸がからまったり外れたりすることまでを表現した物語の広がりに舌を巻いたことでした。
役者のこと、堀川炎は内心にある心のブランクを鮮やかに描いてみせました。動きに切れがあって、それゆえ彼女が演じる孤独にエッジの効いた深さがあって。観ているものにキャラクターの感情がまっすぐにやってくる。それは佐々木なふみの醸し出す人を想う気持ちの豊かさとぞくっとするほどの対比を作っていきます。佐々木の演じるキャラクターに込められた「天然」的な雰囲気にはひたすら瞠目、もう芸術的・・・。二人が絡むシーンにはさりげなく果てしなく深い奥行きが生まれておりました。
結婚相談所の職員たちの個性もしっかりと立っていたと思います。浅倉洋介のプロフェッショナルな部分には説得力があって、躁的な雰囲気にもよいノリが感じられました。男のいやらしさのじとっとした部分と、仕事にかかわるときの切れの対比がうまく切り分けられていて。川本喬介の神経質さにも実存感がありました。キャラクターの実直さがしっかりと伝わってくる・・・。ストレスをこういう風に負うと胃がおかしくなるよなぁ・・と、お芝居からきちんと連想させてくれるのです。石川ユリコが演じる新人社員のどこか普通な感じも細かい演技に支えられていたと思います。小心さと開き直りの部分のバランスもとてもよくて。
元吉庸泰はひりひりするようなキャラクターのコアを、切れをもった演技で現出させて見せました。女性を引き付けるような匂いを作り上げる一方で、ヒール的な部分とピュアさがきちんと見えるお芝居。うまく共存しているなあと感心。
チェリーボーイ的な雰囲気をうまく演じたのが松下幸史。会話する相手によって色をコントロールしながらキャラクターのピュアな部分と得体の知れない部分をそれぞれに舞台に存在させました。
声優を演じた大久保ちかは、松下と同じにおいをシンクロさせながら、彼女自身がもつ頑迷な部分とさらに内側にあるガラスのようなコアを作り出していました。「タレント」的な魅力というかカリスマ性も折り込みながら、素の部分を垣間見せるように演じていく。それがすごく自然にとけあって、ひとつのキャラクターとして観る者に伝わってくるのです。マネージャーを演じた辻沢綾香は今回も大好演。この人は観るたびにお芝居が豊かになっていくような感じがします。当日パンフによると40代という設定なのですが、彼女は実年齢をキャラクターの若づくりに置き換えて、その上にキャラクターがその人生で得たであろうなにかを雰囲気としてちりばめて齢を作っていく。色のはっきりしたお芝居ができる人で、でもキャリアを積んだ女性ならではの経験則が織り込まれたような緻密さは塗りつぶされることなく観客に伝わってくるのです。そこにはマネージャーを生業とする「仕事をする女性」が見事に現出しておりました。
成川知也はキャラクターのだらしない部分をウィットを持って演じながら、したたかに経営者としての懐の深さも折り込んでみせました。舞台のトーンを包括的にコントロールできる役者さんで、今回もしなやかなお芝居で物語の印象を構築していたように思います。堀川のキャラクターも佐々木のキャラクターも彼の芝居と絡むとくっきり見えてくる。相手を大きく生かす彼の才能を改めて感じた事でした。
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観終わって、「恋愛」とか「結婚」という概念を甲冑のようにまとっても、人が相手を愛する気持ちはそれぞれにビビッドなものなのだと、今更ながらに気がついて・・・。
カジュアルな雰囲気の中に人が「想う」気持ちの普遍性がしたたかに折り込まれ、口当たりがよく深さをもったこの作品。たっぷり楽しみ、心を豊かにして劇場を後にした事でした。
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コメント
きのうりいちろの、キャラクターっぽい留意する?
投稿: BlogPetのr-rabi(ららびー) | 2009/09/19 14:03