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佐藤の、「肩の上で踊るダンシングガール」 四肢の先までのテンションであらわすジェンダー

8月1日、マチネにて「佐藤の、」第一回公演、「肩の上で踊るダンシングガール」を観ました。場所は新宿眼科画廊。「佐藤の、」はこゆび侍の女優、佐藤みゆきが主宰を務めるユニット。今回が旗揚げ公演です。

この人の演技力は、こゆび侍の前回公演でも、彼女の客演するさまざまな舞台でもたっぷり体験しているだけに、今回の公演も大変楽しみにしておりました。

(ここからネタばれがあります。十分にご留意ください)

受付・開場がかなり遅れて、開演時間の10分前。制作の方が謝っていらっしゃいましたが、実は怪我の功名みたいな部分もあって、早めに来た観客にとってはあまり場内での待ち時間がなかったことがありがたかったりもしました。場内はいると役者はすでに板についているというか、とある状態でスタンバイをしている演出だったので、それを目にしながら長時間開演を待たされるのはちょっとダレる感じになったかもしれません。

脚本:成島秀和 演出:広田純一

結婚も近いというような同棲中の男女、朝目覚めてみると、男性が女性になってしまっていたという奇想天外な物語。脚本がすごくしっかりとしていて、男性の意識と現実の乖離に始まり男性が現実を受け入れていく姿や、女性の心情が違和感から女性同士の感情の共有へと変わっていく姿、そしてその先にある二人の関係までが見事に描かれていきます。

時々声を発するインコが、エピソードが積み重なっていく中でのそれぞれのとまどいや、行き詰まる感情をすっとリセットしているうちに、次第に男女の愛情と女性間の友情の似て非なるニュアンスが強くしなやかに浮かび上がってくる。同じ感覚だから分かりあえるものがある一方で、同じジェンダーだからこそ満たしあえないものがすごく自然なトーンで伝わってくるのです。

台本の良さを具現化する2人の役者の出来も非常によかったです。まず、根岸絵美が演じる女性になった男性の表現がすごく緻密。単に脚を広げて座ったから男性といったそんなラフなものではなく、足先へ力の入れ方から、男性的な想いがよぎるときの表情の強さ、さらにクッションをいじるときの指の具合にまでジェンダーを表現するテンションが貫いている。しかも、その演技が上滑りにならず、キャラクターの内心にシームレスに結びついているのです。女性の声色でありながら母親との電話で女性の話し方をを演じるという不可思議なシチュエーションに違和感がないのは、観客が彼女の中の男性を見せつけられているから・・・。最後の女性を強調した容姿でも、なおかつ観客にがっつりと内なる男性を見せることができる根岸の表現力には瞠目するばかり。

一方の佐藤みゆきも根岸の演技に合わせて絶妙に想いの色をを変えていきます。男性であった恋人が女性になるという違和感から次第に相手を見つけ出していく部分を強くわかりやすく表現する一方で、いったん状況を理解した後は同じ時間の中、女性同士のシンパシーのようなものと男性としての相手に対する想いを細かく演じ分けていくのです。同じシーンの中であっても、根岸からやってくるジェンダーの比率に染められるように表情から指先の動きまでが微細に変わって、彼女の内なる想いが観客に注ぎ込まれていきます。呼吸ごととも思える想いの出し入れには、ありえないシチュエーションを現実にするに十分な密度と解像力があって・・・。具現化するためのお芝居のテンションが、根岸の演技同様に四肢の先にまで滑らかに貫かれているような感じ。

ふたりの秀逸な演技の重なりから、肩車をする力やトイレの男女の選び方といった物理的なエピソードの実存感や滑稽さが、ことごとくナチュラルに伝わってきます。別腹、化粧・・・、「女性同士でとてもたのしい」という感覚がすごくヴィヴィッドに感じ取れる・・・・。そのクオリティはさらに先にある女性の「だから一緒に暮らせない」という想いを、よしんば男性の私にまでも理性ではなく感情の部分で理解させてしまうのです。

どんなに相手を理解していても、同性としての共感と異性にむけての愛情にはどうしても同居できない部分がある・・・。理屈ではなくて真理だと思いました。演出家や役者たちが紡ぎあげた時間の余韻に浸りながら、男女の関係の切なく、だからこそ素敵な不可思議さに想いを馳せたことでした。

「佐藤の、」次の展開がすごく楽しみです。

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