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国道58号戦線「反重力えんぴつ」カジュアルな形骸化

2009年8月20日、シアターサンモールにて国道58号戦線「反重力えんぴつ」を観てきました。

劇団初見。

(ここからネタばれがあります。十分にご留意くださいませ)

脚本・演出:友寄総市浪

開場時間からすこし遅れて劇場に到着。入口側から舞台の手前と向こうにしつらえられた客席にはさまれて舞台には古びたアパートの四畳半の部屋とトイレ、さらに長めの廊下。座席選定をちょこっと迷ったり・・・。

イーゼルに原稿用紙を置いて男が絵を描くがごとくに小説を書くという冒頭シーン。主人公の女性が文句だらだらでモデルを演じる・・・。それが、一転して彼女がモデルとなり一人の男を原稿用紙にスケッチするシーンへと変わります。

世界で一番重たいものは・・・。

そこに次々と仲間が集まってきて・・・。四畳半は実は学生運動の活動家たちのアジトに使われていたりする・・・。

学生運動独特のにおいが時代祭のように残されているなかで、今の描き方に歪みが感じられない・・・。戦場で死に物狂いで戦うための技術であった武術がそのままスポーツになったような感じ。儀式化した会合の始まりがすごく滑稽で秀逸。

組織の内部にはちょっと体育会系の雰囲気があったり、ありがちな人間関係のもつれが現出したりするのですが、物語が進んでいくうちにそのゲーム性が明らかになってきます。一方でゲームを支えるもの、爆弾がすごくお手軽に作られてしまうあっけんからんさや、形骸化していても過激派がいなくなるとちょいと困るような力の影にも「今」の隠れた部分が垣間見えて。形骸化した学生運動のカジュアルさに加えてどこか戯画化されたような存在感が構築されていきます。

組織の中で再び問われる世界で一番重たいもの・・・。組織のロジックのなかで示される答。その一方で主人公の女性が描く絵の中には違う答えがあって。

「反重力えんぴつ」は手品。ふっとその場の心を和ませるもの。でも、宙に浮いた鉛筆は昔の学生運動のように思想とかロジックの重さを描くことはないのです。

思想やロジックの暴走が組織っぽいものの歯止めをすっとばすのではなく、もっと自然な思いがカジュアルにさえ思える質感でカレーパーティのスタートスイッチを押すところにぞくっときました。彼女の世界で一番重いもの、あるいは世界にとって一番重いものが「今」にすっとマッチして・・・。

友寄総市浪のしたたかな時代のすくいとり方にじわっと瞠目したことでした。

役者もなかなか魅力的でした。伊神忠聡にはどこかクールな印象があって、かりそめのリーダーシップが組織の存在感をうまく醸し出していました。福原冠が演じるイジメられキャラも組織の色に深さを与えていて。ちょっとした小心さがうまく表現されていたと思います。芳川痺はキャラクターの立ち回りの軽さと裏腹なキャラクターの芯のぶれのなさをうまく表していました。加賀美秀明のどこか人を喰ったようなずるさには舞台の見え方をするっと変えるような力がありました。力みなく切れを持った演技が観客の視点をさらっと物語の別の側面に導いていました。

岡安慶子にはどきっとするような表情の美しさがあって彼女の演じる今っぽさと学生運動のミスマッチをうまく浮き立たせていました。一方で彼女の実態が暴かれる終盤の表情にお芝居の奥行きも感じて。細井里佳の作り上げる知的な雰囲気も魅力的で仕草が綺麗なところも学生運動のイメージとしたたかに乖離していて、岡安同様にうまく芝居の色を作り上げていました。

新井秀幸は怪演。トークショーで舞台は2度目であるようなお話がありましたが、その演技の濃淡のなさがすごく効いていて。融通の利かなさ加減に不思議な実存感があるのです。田中美希恵のパワーにはびっくり。強くて破壊力のあるお芝居。でも強さでキャラクターがぼけないのです。一見飛び道具的なのですが終盤には実直なお芝居でキャラクターをうまく収束させていたと思います。

ハマカワフミエはこれまでにも何度か観ていますが、そのたびに同じ感覚で違う色を見せられて。京の町家のようなもので入口の印象は狭いというか同じような感じなのですが、内側の部屋数というか引出がすごく豊かな感じ。観る側にとって良い意味で油断がならないのです。今回も成熟途上の女性を雰囲気に保ちながら、イーゼルをはさんだ会話の絶妙な質感やタイミングの内にぞくっとくるようなキャラクターの感性を忍ばせておりました。

この作品、お世辞抜きに面白かったのですよ。相応のボリューム感がある一方で時間をまったく感じずに見入ってしまった。でも、その一方で終演後の拍手をしながら、自分の内側にある奇妙な納得感の存在や違和感のなさにとまどいを感じたり。なんなのでしょうね・・・。

なにはともあれ、とても気になる劇団に出会ったことだけは間違いありません。

PS:終演後友寄氏とコマツ企画主宰のこまつみちる氏のトークショーがありまして、こちらもなかなかに興味深かったです。それほど場のテンションは高くなかったのですが、こまつ氏がしらっと尋ねることが、実は舞台の核心をしっかり突いていて・・・。こちらも時間があっという間。色は淡く中味の充実したトークでありました。

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