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「向日葵と夕凪」「ギドクラッチ」たっぷりの見ごたえ

凶事のお話しからで申し訳ないのですが、実は金曜日が従兄弟のお葬式でした。某飲料メーカーに勤務して、健康診断で再検査の指示が何度も出ているのを無視して働き続けたとのことで、病院に行った時には非常に厳しい状態になっていたそうです。

人間、健康が一番だと痛感することしきり・・・。一方で、所詮人間の命には限りがあるのだから、自分のしたいことをしなければとも感じて。で、土曜日には偶々用事があっていったビックカメラでドラクエⅨを衝動買いしたり・・・。先週はお葬式と極上のお芝居、さらにはダーマの神殿での転職への迷い(ドラクエの話です)が混在した、ちょっと不思議な一週間になりました。

で、ドラクエⅨは死ぬほどWeb上を賑わせているしお葬式の話をここに書くのもなんなので、良質なお芝居のお話を・・・。

・「向日葵と夕凪」七里ガ浜オールスターズ

8日に観劇しました。

脚本 日々野克己 演出 瀧川英次

男優たちのしなやかなお芝居から醸し出される時間と女優たちのまっすぐに語られる心情の深さに取り込まれてしまいました。

とある海辺の街、一人の美術教師の死からゆっくりと何年もの時間が浮かび上がっていく。めぐり合わせの偶然と、めぐり合ったものから浮かび上がってくる想いの普遍性。それほど長いお芝居でもないし、物語も特に奇をてらったものではありません。でも、観客の手のひらにのせられたズの物語に詰まった登場人物たちの想いが深くしっかりとして驚かされる・・・。

男性たちの想いに若いころへのノスタルジーが薫るのと対照的に、女性たちが会話の中で明らかにしていく想いは内に深く根を張っていくような強さを感じて。

8つ離れたという設定のふたりの女性の会話は本当に見ごたえがありました。それぞれの学生時代に共通に経験した事象もさることながら、その先にある人を想う気持ちの普遍性を伝えきる二人の演技に息を呑んで。互いの想いの語り方には飾りがなく、むしろ朴訥な印象さえあるのですが、一方でやわらかく強く露出してくる内心にはぞくっとするような生々しさがあって。やがて、二人の会話から病院の前でたたずんでいるそれぞれの姿が風景のように現れ、さらにはその後二人が過ごしてきた時間が舞台の密度を支配します。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            一方男優が演じるキャラクターの想いの表層が経年変化していく姿は、どこか洗練を感じさせる語り口で表現されていきます。二人の役者に生まれたテンションに彼らに流れた時間が表現され、さらには彼らの心に残るものが透けて見える・・。同じ時間に対する男女間の対比、特に「想う心」の男性と女性の質感の違いが終盤の舞台に立体感を与えて。

物語の綾にも引き込まれ、もうひたすら見入ってしまいました。

役者のこと、山崎ルキノからやってくるヴィヴィドな想いの表現にまず瞠目。想いがこぼれはじめる時の表現がすごくナチュラルで、しかもそこからのお芝居にしっかりとしたボリューム感があるのです。緻密に重ねられていく表現に時間の尺を湛えた一人の女性の姿が浮かび上がっていきます。感情の揺れの瑞々しさに目を見張る。デリケートな心の動きがボリュームに負けないしなやかさをもって舞台に映える感じ。キャラクターのどこかにある依怙地さのようなものも、すっとその雰囲気に折り込まれて・・・。しかもその秀逸さは舞台を独り占めするのではなく共演者の演技をしっかりと生かしていく。

松本美香は初見ですが、彼女にしか出しえないであろう個性を感じて・・・。愚直ともおもえるまっすぐな台詞回しが観客に積みあがると、そこには常ならぬ感覚が醸成されていきます。どこか麻のようにさばさばとした雰囲気を持ちながら、昔の日々の熱が次第に増してきて、最後にはくぐもった炎の色が彼女の言葉の内側にはっきりと感じられるようになるのです。山崎の演技の秀逸さともしなやかに絡んであれよあれよという間に彼女の世界の取り込まれてしまいました。

山本佳希のお芝居には折り目正しさと滑らかさがあって、でも女性たちのお芝居に内側の色が変わっていくようなしなやかさを同時に感じました。自然体のお芝居のなかで松本の演技からやってくる密度の満ち干を内側に収める大きさをさりげなく舞台に作り出す。そのときの安定感がすごいのですよ。山本の演技がぶれないことで松本のお芝居から伝わってくるものが間違いなくあって・・・。夕凪を眺めるときの視線がとても印象的でもありました。

瀧川英次のお芝居には切れがありました。そして、山本が松本の演技にたいしてそうであったように、瀧川の演技も山崎のお芝居の行く先をしっかりと支えて見せました。軽い語り口のなかにどこか生真面目な部分があって、その生真面目さが物語のスパイスのようにもなっていて・・・。

向日葵の咲く公園に吹く風や夕凪に輝く海、海辺のいごこちのよさそうなバーに流れた時間。その味わいに心がゆすられたことでした。

・「キドクラッチ」ドリルチョコレート

作・演出 桜井智也

9日ソワレにて観劇。中野アクトレは初めて。不思議な居心地の良さがある劇場・・・。

物語はすこしさびれた海水浴場の海の家。そこの経営主のおばさんとバイトの男、さらには何人かの客が現れて・・・。

馴染みの男性客に初めてらしいカップル2組。

枠がどこかはずれた会話劇がとにかくおかしくて・・・。根本にあるのはボケと突っ込みだと思うのですが、女性たちの話のベクトルの歪め方や男性たちの諦観がかみ合わないはずの会話を絶妙に成立させていく。とにかく会話の中身の飛び方というか外し方が並はずれていてそれだけでもう十分魅了されてしまう・・。

というか、あの会話のかみ合わなさやものすごい切り返しは櫻井作劇ならではのものかと・・・。

男女のカップルが男性どおし、女性通しに別れて会話をして・・・。そのかみ合い方に不思議なロジックが浮かび、観客をなっとくさせてしまうのです。サリバン先生とヘレンケラーの比喩なんてゾクっとくる。私的には本当にツボで・・・。

そこに、おばさんの昔の恋心と七夕を連想させるような物語が重なっていきます。妙にチープでロマンチックな色遣いで、ゆく夏の哀愁までがきちんと作られていく。で、すっと良い話にまとまったかと思いきや、その物語の屋台崩しみたいなことをさらっとやってくれるわけですよ。

ほんと、すごいなと思います。

櫻井智也の切れ味は相変わらずするどく、狂言回しよろしく物語をすすめていきます。ぞくっとするような突っ込みが舞台のトーンを作っていく。それをさらっと受け流す小椋あずきのお芝居にはなんともいえないゆとりがあって、物語の世界に不思議な実存感を与えていきます。おばさんを演じきることによってロマンスを抱く姿をきっちりと浮かび上がらせる。どこかピュアな部分をしっかり残すところに彼女の演技を深さがあって。

有川マコトの記憶喪失的な部分にもすごくよい味があって。最後に法則を崩す部分のあざとさをすっと消し去るような懐の深さを感じました。繊細に演じられたずぶとさというか、ある種超然としたニュアンスにいやみがなくて・・・。

ふた組のカップルも見ごたえがありました。近藤美月の飛び方にほれぼれ。何か突き抜けたようなお芝居に不思議な安定感があって。キャラクターにぶれや破綻がまったく感じられない。貫くような強さが芯にあって、それがすごくしなやかにみえるのです。それを支える川島潤哉のお芝居にも底力を感じました孤高のつっこみみたいな部分がすごくよい。前回のソロ公演での印象が強い彼のさらに別の一面をみることができて、彼の役者としての間口の広さを感じたり。

吉田久代の色も舞台に広がりを与えていました。強さが目立つのですがどこか常識的な匂いがきちんと織り込まれている。声質もなんかよいのですよ。それを受けた中川智明の存在感には力みがないのがすごくよくて。こういう役者ざんが一人いると舞台全体によい密度が生まれるように思います。

MCR、Co-richの舞台芸術祭でグランプリを取りましたね。まあ、私も受賞作や他の候補作をいくつか観ていて大接戦ではあったろうなとは想像するのですが、当該作品を観て櫻井氏にしか造りえない世界があることを再実感していたので、この受賞はうなずけるものでありました。でも、10月の公演はチケットが売れるでしょうね・・・。とりっぱぐれがないようにがんばらなければ・・・。

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コメント

有川マコトさんだよね。役者さんの名前間違うのはちょっと失礼。

投稿: ぐみ | 2009/07/22 17:45

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