村井美樹のmono*mono語りVol.1 新しいテイスト
7月20日ソワレにて村井美樹のmono*mono語りVol.1を観ました。場所は目白庭園内の赤鳥庵。
目白駅からちょっと入った場所にこんなところがあるなんて・・・、東京は懐が深い。豊島区立だそうですけれど、こういうところがしっかりメンテされるところが東京の都市力なのでしょうね・・・。ちょっと感心。
内容的には落語を一席と、太宰治作の小説のリーディング(パフォーマンス)でしたが、どちらの作品にもじわじわと観客を引き込んでいくような力があって・・・。
超満員の客席に雰囲気も整って、村井美樹ならではの世界を楽しむことができました。
演出:吉川敏詞。 落語については春風亭百栄師匠が監修をされています。
・金明竹 たっぷりの拍手に押されるように出囃子に乗って登場。枕も無難な感じ。春風亭百栄師匠にとんでもない名前をつけられたというくだりから、すっと噺に入ります。 前半のバカ小僧とのやりとりは、女性が演じるということで旦那の役回りがおかみさんに振りかえられているのですが、このおかみさんがすごくよい。いやみのない色香に加えて、ちょっとした感情の動きや、後半に垣間見せる小狡さにまでも不思議な実存感があるのです。演じるという部分での女優としての力量が生きているのでしょうね、むっとしたときの表情などに感情がしっかりと折り込まれていて。 一方の小僧も今様に仕立てられていて、それが加賀屋からのお使いの言い立てと不思議にマッチする・・。 その言い立ての部分が、大向こうを唸らせるほどに見事でした。くっきりした発声にあざとさを感じさせないイントネーションで、流れるように語られていく。3度の言い立ての早さもそれぞれに絶妙にコントローされていて。グルーブ感すら感じるほど・・・。これで客席が一気に暖まりました。そこからの旦那とおかみさんの珍妙な会話は彼女の手の内という感じ。ふくらみが高座にうまれて、落ちもすっと決まったことでした。 ・燈籠 太宰治の作品。 がらっとふすまが開き、ちょっと伝法に呟く思い・・・。冒頭のどこか投げやりな感情表現がさらっと観客を物語の世界に引き入れます。淡々とした前半の語りに主人公の日々の鬱屈がに折り込まれていて・・・。行き場のない気持ちが吹っ切れると、盗みから交番での開き直りの部分での主人公の箍の外れたような昂揚が一層鮮やかに演じられていきます。 主人公が持ち合わせている性格のようなものが、語られる言葉を凌駕した空気として観客に伝わってくるのです。 だから、鬱屈した雰囲気を覆すような電球の光のエピソードにも沁み入るような力があるし、スノッブな手紙を投げ捨て窓を開け放って叫ぶシーンが鮮烈であっても唐突には感じない・・・。夏から秋にかけてのひととき、風鈴の音に目覚めた女性の、感情の抑揚がやわらかに余韻として観る者に残るのです。 役者の力量からすると、さらにひろがる余白はあるとおもうのですが、でも、作品に内包されている主人公のヴィヴィッドな感情は十分な密度で表現されていたように思います。 *** *** *** この企画、Vol.1とのことですが、継続されれば、興味深いものが生み出されていくように思います。村井美樹の持つ引出しはまだまだたくさんありそうで・・・。年に1度くらい、彼女のライフワークとして会を重ねていくことができれば、今回のテイストがいずれは独自の境地へと昇華していくような気がするのです。それは彼女にとっても、観客にとっても大きな財産となるのだろうし、彼女から溢れたみずみずしい才がこの一度の公演だけというのは、あまりにもったいない気がするのです。 R-Club
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