JACROW「明けない夜」サスペンスの向こうにみえるもの
2009年7月19日ソワレにてJACROW「明けない夜」を観ました。場所はシアターサンモール。
JACROWのお芝居ってそんなに昔から観ているわけではないのですが、観たお芝居すべてか惹かれるものがあって・・・。今回も当然という感じで観てまいりました。
(ここからネタバレがあります。十分にご留意ください)
脚本・演出 中村暢明
物語は昭和30年代後半、とある中小企業の社長宅。そこで起こった幼児誘拐事件の顛末を描いていきます。
舞台美術がすごくしっかりとしていて・・・。テレビやステレオが当時の富裕層の雰囲気をうまく醸し出している。また、舞台の下手側に見えない玄関や廊下、さらには階段が設えてあるようで、来訪者の気配や音が舞台に見事に反映する仕組みになっています。この音が観客に事件の緊迫感や現場の実存的な感覚を大きくひろげてくれる。
舞台上では二つの時間が流れていきます。事件後の捜査の進展と、事件に至る3か月前からの出来事と。時間をさかのぼる表現にはスクリーンが使われ捜査が進行する現在と時間を切り分けていく。警察の捜査と事件に至る数ヶ月前からのエピソードが、交互に重なって事件を浮かび上がらせていきます。家庭の事情、中小企業の現実、さらには警察内の事情が絡み合いその内側で翻弄される人々の姿がじわじわと観客に伝わってきます。
シーンごとの密度や切り方のセンスがすごくよいのですよ。観客が物語を見失うことのないように客観的な事実を漸次積み重ねながら、一方で役者たちの醸し出す心の動きをがっつりと感じることができるのです。
やがて、事件は小さな糸口から破綻を感じることもなくしっかりとした足取りで解決に向かうのですが、でも事件の真実が明らかにされることがこの物語の終焉とはならないのです。謎解きが終わっても、誘拐事件の顛末から垣間見える、人間たちの光と闇、あるいは希望と業のようなものから目を離すことができない。
どこにでもあったであろう小さな会社や家庭に内包された悲劇にいたる必然がしっかりと伝わってきて、鳥肌がたつような想いで終幕の暗転を迎えた事でした。
役者のこと、
刑事たちの熱をがっつり持ったお芝居にまず感心しました。本庁の若い刑事を演じた狩野和馬は目鼻立ちがしっかりした演技で舞台に高いテンションを与えていました。感情の揺れが切れ味よく演じられる一方で刑事としての冷静な判断に唐突さを感じさせない。人物像がすごく明確なのです。その上司役を演じた今里真が表現する、警察の利害と真実の追究の狭間に立ったキャラクターから漏れ出す冷徹さにも見ごたえがありました。所轄側の刑事を演じた祥野獣一には現場の実直さが織り込まれつつ警察組織が持つ雰囲気も醸し出して・・・。その上司を演じた立浪伸一の本庁との確執や警察の利害を押し出す演技には底力があってキャラクターの気持ちがよくにじみ出ていたと思います。
被害者となる社長夫婦のふたりの役作りも見事なものでした。仗桐安は二代目社長の視座から見えるものや価値観を力みなくしなやかに表現してみせました。キャラクターの内側の弱さと自己肯定からやってくる狡さの露出がしたたかに露出して物語を動かしていました。蒻崎今日子が表現する女性的な「業」には有無を言わせない力量がありました。ただ、強いだけではなく繊細に表現された感情にはぞくっとするような孤独のにおいや自制できないようないらだちが編み込まれていて・・・。好演だったと思います。その家のお手伝い役を演じた前田彩子は、夫婦との関係をうまく現しながら、キャラクターが持つ正直さを表現していました。単に従順な感じだけではなく、すこし頑固なほどの愚直さが小さな仕草や言葉から伝わってきました。
元従業員役を演じた田中まことには良い意味でのけれんがありました。シーンを跨いでの豹変ぶりには息を呑んだ・・・。でも豹変前の演技がきちんとできているから、その豹変を観客はすっと受け入れることができる。キャラクターの根の部分が揺らいでいないというか、彼女の変化は観客をきちんと道連れにしてくれるのです。
会社の従業員を演じたヤナカエイスケには存在感がありました。昭和の職人気質のようなものが丁寧に表現されている・・・。物語を回すだけでなく、時代の色もしっかりと作り上げていたと思います。岡本篤はやや盲目的な純朴さをうまくキャラクターに織り込んでいました。キャラクターがもつ一途さにかすかな小心さがうまく表現されていて・・・。
堀奈津美からは想いの色や、その想いと現実の乖離に戸惑う気持ちが、時系列ごとにまっすぐにやってきました。回想シーンごとにあらわれる想いから、内なる瑞々しさが褪せて不安に変わっていく姿が少しずつ、でも細部まで確実に伝わってきて。その積み重ねがあるから、観客は最後のシーンの淡々とした部分に恐ろしく透明感のあるリアリティを感じることができるのです。吉水雪乃が演じる日常生活のなかのひとときが、堀の演じるすべてが瓦解した心に生じたひとときと交わる光景に、登場人物たちの「業」が重なり合ったドミノ倒しの終焉がすっと浮かびあがってきて・・・。ぞくっとしました。
橋本恵一郎は、粘り強い演技で物語の外側を括ってみせました。キャラクターが心に抱える宗教への盲従から、彼自身が経験したであろう苦悩がボディーブローのように観客に伝わってくる。物語の進行とともにぎこちないとさえ思える宗教の勧誘ぶりに、彼が逃げ込まざるを得なかった価値観が浮かび上がり、さらにはそうするしかなかったであろう彼自身の内心までが伝わってくるのです。その地味で秀逸な演技は、蒻崎が演じる社長夫人の逃げ場のない絶望と重なってラストシーンでしっかりと生かされました。
悲劇というのは、登場人物達の行動全てに必然がないといけないし、誰一人怠惰ではいけないのだと思います。それを満たし、「悲劇はくりかえされる」ことへの達観にまで至ったこの作品、まさにJACROW演劇の真骨頂かと・・・。
個々のキャラクターを別の角度から見せてくれるという外伝も是非にみたくなったことでした。
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コメント
本業で舞台のレポートを執筆している方ですか?
あまりの素晴らしさにびっくりしました!!
自分は、今年はまだ『R2C2』という舞台しか見ていません・・・
世の中には、たくさんのお芝居があるんですね!
投稿: さとゆう | 2009/07/25 12:57
組織って…なんだろう…?
投稿: BlogPetのr-rabi(ららびー) | 2009/07/25 13:50
さとゆう様
コメントありがとうございます。
もちろん、本業で舞台の感想を執筆しているわけではないのですが、お世辞にでもそういっていただけると励みになります。重ねて御礼を申し上げます。
東京のお芝居、本当に数が多いですよね・・・。
毎日、何十本というお芝居が上演されているようで・・・。
面白さに任せて追いかけていると、年間100本なんていう、勤め人にはあるまじき観劇件数になってしまいます。
うれしいような、困ったような今日このごろです。
投稿: りいちろ | 2009/07/27 15:17