桂文三 襲名披露興行@国立演芸場
桂つく枝さんが桂文三師匠となられたその襲名披露興行を観てまいりました。場所は国立演芸場。大阪に引き続いての襲名披露とのことです。
桂三若 : カルシウム不足夫婦
柳亭市馬 : かぼちゃ屋
笑福亭鶴瓶: 青木先生
桂三枝 : ぼやき酒屋
(中入り)
襲名披露口上 (柳亭市馬・笑福亭鶴瓶・桂文珍・桂三枝/司会 桂きん枝)
桂文珍 : 茶屋迎ひ
桂文三 : 崇徳院
そりゃ、なんといっても今日の主役は文三師匠ですから、若手から脂の乗り切った師匠連まで、手練の芸でそのための花道をしっかりつくります。
まずは三若さんが上方落語のどろくさいところを上品さを失わずに語りきって場内を暖めて見せました。目鼻立ちがはっきりした語り口で客をあきさせない力があって、しかもしばらく前に見たときよりも一層噺のテンポの取り方などの安定感が増したような・・。
市馬師匠が江戸前の与太郎噺で高座の幅を広げます。登場人物がみんな心根の暖かさを感じさせる噺で、なおかつ「上を見て商売をしろ」と諭すところに、襲名してももっと上を目指せという市馬師匠のエールが含まれているようにも思えて。
鶴瓶師匠はマイペースという風情を崩さず、自分の主演映画などを枕にもってきて。襲名披露の高座であることなどほとんど関係ないように噺をすすめます。でもね、古い名前からの巣立ちとかやんちゃをすることへの慈愛が場内を包むような噺なのですよ。こう表立って言葉にしないなかで、そこはかとなく師匠一流の気遣いを感じさせるような高座でありました。
三枝師匠にとっては率いる一門の慶事、文三師匠は文枝師匠が亡くなられてから一門で初めての襲名なのだそうです。そこでいたずらにはしゃがず、渋くじっくりと客を沸かせる噺で中入前を支えるところに上方落語協会の会長としての度量を感じました。本当にしっかり客を捉えてくれるというか、ああいう空気の作り方、さすがだなと思います。
襲名披露口上もいろんな意味で見ごたえがありました。いきなり「文枝襲名」とおもいきり外して見せた市馬師匠、相撲甚句の見事さで会場を魅了し尽くします。鶴瓶師匠、社団法人と財団法人がごっちゃになったところは素かもしれませんが、けっこうしどろもどろな風を装って文珍師匠につなぐところに、一門に華を持たせる照れ隠しにも似た繊細な心遣いを感じて。文珍師匠が綺麗に足慣らしをしてきゅっとっ空気をを引き締めて・・・。最後に三枝師匠が文枝師匠の遺言ネタで手のひらに会場丸ごと載せておいて見事にごろんと転がしたり。そんな中でも一門がみな賛成しての襲名だったことや、文三師匠が芸人としての資質をしっかりと持ってはることが不思議なくらい実直に伝わってきます。司会のきん枝師匠もええ味をだしてはるのですよ。 まあ、米團治師匠の時のような凛とした緊張感やきらびやかさはなかったですけれど、どこか洒落と温かみがあり、なにより文三師匠の伸びしろがたっぷりと伝わってくる襲名披露口上でした。
口上後の文珍師匠は、廓がでてくるはめもの入りの噺で高座に華を作り出して・・・。登場人物に愛嬌があるのがすごくよい。こう、場内を暖色系の古典の色に作り変えて。
で、文三師匠が演じたのは「崇徳院」、そりゃ見事なものでした。襲名披露の高座ですから、多少なりとも緊張はされていたとおもうのです。でも、そこでつぶれるのではなく、うまいことハリのようなものに変えていくのが師匠の力。安定したテンションで進んでいく噺は花嫁捜索の5日間の重さをしたたかに客に伝えてくれる。それがじつにスムーズに相手に巡り合った時の溢れるような高揚感につながっていくのです。スピードや勢いに頼らずに、表現の質感を積み上げて、最後には言葉で表現できないような感情で観客を満たしていく。鏡が割れるのはおちへの段取りなのですが、そういう感じがまったくしない。きちんとそのようになるだけの流れが構築されていて・・・。出色の出来だったと思います。
まあ、襲名というのも、文三師匠にとっては通過点のひとつに過ぎないのかもしれませんが、一方で文三落語の土台がしっかり固まった感があるのも事実なわけで・・・。その上にさらなる建物がどのように現れてくるのか、聞く側にとって5年、10年、それ以上の楽しみができたような気がするのです。
なにはともあれ襲名披露興行は特別な何か・・・。ほんまにええもんを見せていただいた気がします。
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