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二騎の会「一月三日、木村家の人々」・時間堂WIP

2009年5月31日、こまばアゴラ劇場にて、二騎の会「一月三日、木村家の人々」を観ました。作:宮森さつき、演出は東京デスロックの多田淳之助

(ここからネタばれがあります。十分にご留意ください)

梅雨のどんよりとした雲の下、アゴラ劇場には細かい細工がいろいろと・・・。お正月の雰囲気だったり普通の民家のたたずまいだったり・・・。

土足厳禁とのことで劇場の入口で靴を脱いで・・・。そこにも細工があって・・・、で、場内に足を踏み入れてびっくり。中は絨毯が4枚敷かれたどこにでもありそうな一戸建ての居間。靴を脱いでいるので、本当に誰かの家にお邪魔しているような錯覚を覚えて・・・。会場時ふすまが半開きになっていて、なんとなく奥の部屋があることで、家の広さが感じられて・・・。

開演時間が近くなるとそこに長女が現れて、客席に会釈をして(これがさらに観客を「どこかの家にお邪魔した感覚」にかえていく)七輪を二つ机の上に並べてダンシング・オールナイトを歌い始めます。で、なんと部屋の窓に目張りをして七輪に火を入れるのです。そして七輪のひとつを認知症の父が眠る部屋に持って行って。無理心中の準備を始めます。そこに、いとこが偶然訪ねてきて。

追い返そうとする長女、いとこは叔父が認知症であることすら知らないらしい。さらに長男夫婦と次女が帰ってきて無理心中は止められて・・・。

一つの家族や親戚というくくりのなかでも介護に対する温度差が露骨に表れていきます。仕事も捨てて介護をせざるを得なかった長女とあくまでも自分の生活を守りながら協力しようとする長男や二女。その場に観客を惹きこむような手法に、シリアスな状態に追い込まれた兄妹やいとこ、それぞれの想いの軽重やすれ違いがあからさまに伝わっていきます

しかし、この舞台がいたずらに重たいだけの物語に陥らないのは、一見関係がないような家族のリアリティをそぎ落としていないからかと思うのです。この兄弟には素の時間がちゃんとある・・・。次女の演劇の話などにコメディの要素を編みこんだことで、カオスのようになった兄弟たちの想いに風が通り、家族の想いがほぐされて浮かび上がってきます。

長女が家を飛び出すときにトイレットペーパーで扉の音が出ないようにすることにもどきっとするような具体性があるし、長男夫婦がちょっとぬるめの改善策を話して姉の胸の中にあるものと乖離する姿からも、揺れながら父親との距離を調節していくような姿が見事に表現されて。長女が使い捨てのカイロをもらってくるエピソードも心にしみた。1月3日という設定もしっかりと効いていたような。

さらには父と離婚した彼らの母の設定になんともいえないペーソスがあるし(手紙の内容を誰かが朗読したりしないところもすごくよい)、それを伝えにきたいかにもという雰囲気のホストが実は元介護職員で、煮詰まった家族に冷静なアドバイスをするところからも、介護者を抱えた家族の視野が端的に現われて・・・。

長女を演じた木崎友紀子の演技から抱えてしまったものの重さが痛いほど伝わってきます。長男を演じた小河原康二の自分の妻や子供を守る立場と長男としての立場の混在もすごくナチュラルで・・・。その妻を演じた森内美由紀も義理の娘としての長女との距離を実存感をもって表現していたと思います。次女の村井まどかが表現する父親や介護との距離もなにかすごくよくわかる。ドライな部分と生真面目なところがしっかりと重なり合って伝わってきました。・・・。いとこを演じた佐藤誠は家族の想いのすれ違いをうまくコントロールしていて・・・。長女への想いの表現もとても秀逸。ホストを演じた島田曜蔵の突き抜けて演じる勇気はみごとな限り。キャラクターの放埓なだけではなくどこか生真面目な価値観を流されずに演じきって見せました。

最後に餅を焼いているときにふすまの向こうで父親が観ているのではという・・・。そこになんだか家族それぞれの父親に対する一番根っこの心情があふれているようで、笑いながらほろっとしてしまいました。それはつらくていとしいひととき。心にやわらかくたくさんの気持ちが去来したことでした。

多田演出のしなやかさ、やっぱり心に残ります。

PS:

5月29日、時間堂「花のゆりかご、星の雨」のWIPを観てきました。もちろん内容は書きませんが、とても優しくしなやかさをもった時間に浸ることができる作品。

息をのむほどに繊細な時間があって、物語の展開に鋼のような強さがあって・・・。

公演の終盤に見に行くことにはしていたのですが、合わせて、前半にも予約をしてしまいました。観れば見るだけなにかがやってくるような予感がします。

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