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年年有魚「SURROUNDED ALWAYS」繊細な距離感、そして秀逸な紙アート

2009年6月5日、新宿眼科画廊にて年年有魚の「surrounded always」を観ました。このお芝居、評判を聴いて、たまたまスケジュールがとれたので小雨降る中行ってまいりました。

(ここからはネタばれがあります。十分にご留意の上お読みください。)

作・演出:森下雄貴

会場のギャラリーは白を基調とした空間、作りつけのカウンターを利用して向こう側がキッチンでこちらがダイニング。で、なんだか居心地が良いのですよ。壁に飾られたオブジェが雰囲気を浄化しているような感じがして・・。画廊の洗練が良い意味で感じられる空間でもある・・・。

靴を脱いで場内に入り中が住宅の一部屋というのは先日観た二騎の会とおんなじなのですが、こちらはもう少し舞台と客席が明確で、客観的に物語を見られる感じ。場内に入るとウェルカムドリンクのサービスがあって・・・。紅茶、本当に美味しゅうございました。で、喫茶店のマスターよろしく飲み物を作っていた男性がそのまま、その家の主人としてお芝居に入っていく。たおやかな気持ちをそのままにお芝居に入ることができて・・・。

でも、すぐにちょっと変わったテイストが観る側にやってきます。飲み物を作っていたのはこの家の旦那さんで、奥さんがデッサンのヌードモデルをしていて、終わるのを待っているらしい。奥さんの友人があからさまな好奇心を持ってどんな心情かとつついてくるのを気にならないふりで受け流すのですが・・・。

やがてデッサンが終わって、先生と生徒が出てくる。その個性が強烈で・・・。女性たちは前述の奥さんの友人も含めて思ったことが思慮より先に口に出るタイプ。ちょっとデフォルメされた会話のなかに、強烈な個性が浮かび上がる・・・。それに比して夫婦の会話がすごく淡泊というか、あたりさわりがないのです。登場人物たちが回りを巻き込むように会話を作っていくのに対して、主人公夫婦の会話は地味にかみ合わない・・・。

最初は倦怠期の夫婦をスケッチしているのかとおもったのですが、そうではなくて、倦怠の域にまで至ることができない夫婦の実像が垣間見えてくるのです。まわりが個性を表せばあらわすほど、主人公夫婦の内側に横たわるデリケートな距離が露わになっていきます。

やがて、男性の生徒を駅まで送りにいった妻の帰りが遅いことから、夫の心の揺れが表面に浮かんで・・・。妻のヌードモデルへの自発的な願望であることが示されたり、壁にかかっている紙アートを取り替えにきた弟に夫がしかけた盗撮カメラが発見したり・・・。二人の心に巣食う修羅の姿が浮かび上がります。昨今はやりの言葉でいえば「婚活」を経ての結婚、システムに流されるようにして結婚したふたりの重ならない何かがやわらかくみえてくるのです。

役者のこと、夫を演じた上出勇一は夫のキャラクターをがっつりと作り上げていました。やさしさが醸し出す微笑みと揺れる心を隠すために演じる微笑の端境を絶妙に演じきっていたと思います。妻を演じた平田暁子は清楚な感情表現に内心をしたたかに織り込んで見せました。感情の細密な揺れがとてもしなやかに重なっていく・・・。どういえばよいのだろう・・・・、口当たりと異なる彼女の内側の色も、点描画を見ているように観客にきちんと残る・・・。

妻の友人を演じた前有佳の好奇心の露出の仕方には微笑えましい強さがあって・・・。露骨な好奇心の表現が鼻につかない程度に下世話なテイストを残しつつ、すごく自然なキャラクターを現出させていました。トツカユミコは絵画教室の先生を怪演。どこか人の話を聴かない部分があるキャラクターなのですが、それを押し切って自らの感覚を正とするようなパワーがベースにあって・・・。観客をしっかりとひきつけていたと思います。声と間の取り方がすごくよいのです。松下チヨコのお芝居にも底力がありました。演技に質量を作れる役者さんだとおもうのですが、同時に、瞬発力のあるお芝居も随所にあって。ダルメシアンのオブジェをつけたときの切れには目を惹かれました。

川本浩介のお芝居にはしなやかさがありました。相手ののお芝居を受けるときの力加減が観ていて気持ちよい。完全にうけるのではなく、一瞬の間で相手の演技に広がりをつくるような感じがあって。南場四呂右は実直な演技だったと思います。どこか朴訥な感じのなかに意思をしっかり持ったキャラクターの実存感が物語全体をしっかりと引き締めていました。

ラストの夫婦二人のシーン、そして夫の行動。部屋に飾られたなかむらきりん氏制作のオブジェたちからあふれだすイメージと夫婦のどこかぎこちない会話に不思議な調和がうまれて・・・。その空気が観ているものの心をそっとゆらすのです。

間違いなく、心に残るものがある・・・。魅力のある劇団にまたひとつ出会うことができました。

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終演後、なかむらきりん氏のオブジェを近くで拝見することができました。やや大きめな馬と鹿、そしてダルメシアンの首像、少し小ぶりで創意豊かな動物をモチーフにしたオブジェたち。

手作り感の強い質感に惹きこまれてながめていると、彼らからやってくるイメージがすっと広がって心の内側に豊かにニュアンスが満たされます。キリンの首から咲いた花から草原の光を夢を感じ、カバの大きく開けた口に咲く花(写真)からは明るい想いがやってくるような・・・。鼻の先に樹を生やしたゾウには希望を感じるし、お芝居に使われたダルメシアンに見つめられると、ちょっと切なくなったり・・・。

見続けているうちに最初と違った感じでもう一度心惹かれる。うまくいえないのですが、忘れていた色がもどってくるような感じ。

特別に許可をいただいて作品のひとつを撮影をさせていただいたのですが、素人写真の悲しさ、作品のすばらしさがうまく伝わらないのが残念。(作品の写真集を拝見させていただいたのですが、その中のオブジェたちからは、実物とはまた異なるニュアンスがあって、作品の広がりを感じた)。

なかむら氏のHPがありましたので、リンクを貼り付けておきます。

SPANK POSSIBILITY STUDIO (http://www1.neweb.ne.jp/wb/spankposs/

本リンクに問題があるようでしたら削除いたしますのでご連絡ください


なかむら氏の作品、普通に展示されていても充分に魅力的なのですが、今回のように演劇のなかでもある種のニュアンスを確実に物語ってくれる・・。いろんな表現とのコラボレーションの可能性を秘めていると思います。
さらにいえば、高い芸術性と平易な洒脱さが両立しているというか・・・。たとえば汎用の空間に飾ってあれば、それだけで場所の空気に透き通った潤いをあたえてくれそうだし。下世話な話になりますが、こんな作品のそばでコーヒーを楽しめる喫茶店があれば結構素敵かも・・・。

心に残る物語と良い美術・・・。良いものを見せていただきました。
細かい雨は相変わらず降り続いていましたが、豊かな気持ちで帰り道をたどったことでした。

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