「楽屋~流れ去るものはやがてなつかしき~」女優の風格にまで至る
2009年5月30日、ソワレにてシス・カンパニー公演「楽屋」を観ました。
場所はシアタートラム。場内は立ち見が出るほどの大盛況。
(ここからネタばれがあります。十分にご留意ください)
作:清水邦夫 演出:生瀬勝久
まず舞台美術がとてもよくて・・・。左右に投影される文字が前方からは見にくかったものの、ちょっとなにかが出そうな感じの古び方が舞台から感じられて。壁や床もよく工夫されているなと感心。照明もシックで美しくて。
そんな中で冒頭の渡辺えりと小泉今日子の会話が抜群によいのですよ。
ふたりの掛け合いには落ち着きと広がりがあって、良い意味での厚さと質量を感じる。渡辺の自虐的な部分やプライド、小泉の所作が醸し出す女優の美。ふたりが時折はさむ伝法な言葉遣いがすごくチャーミング。排気量の大きいエンジンがゆとりを持ってその場の空気を満たしていく感じ。下世話な部分を楽しむように演じる一方、劇中劇の凛とした表現は客席をまるごと彼女たちが描く架空の舞台に導く力があって。渡辺のちょっと古風な風情も、小泉の内側にあるいたずら心や自らの喉をつくような激しさもそのお芝居からじわっと観客に伝わってくる。
この時点であとからやってくるシーンのハードルが凄く上がっているように感じて、正直大丈夫かと思ったほど。でもその心配は全くの杞憂でした。
村岡希美が大好演なのですよ。デフォルメされたお芝居のコントロールが絶妙なのです。舞台で演じられる時、きちんと観客席を魅了するだけの力が演技から感じられて、なおかつ渡辺・小泉がちょっと肩をすくめるようなダメさを含んだ「かもめ」がしっかりと現出していることに驚嘆しました。それと生きている女優の「華」を村岡はしっかりと作り上げていて・・・。これが物語に深さを創出していくのです。
セリフを忘れて、プロンプターの仕事がしみついた渡辺や小泉にさらっとフォローされるところも、薄っぺらいボケではなく彼女の人間臭さとして広がっていく。頭のてっぺんから足先まで女優を背負っている姿に生きているものと亡霊の落差が見事に作り上げられて行きます.
そして、最後に登場する蒼井優の「かもめ」のすごさ。素直でまっすぐな表現は演じる役者の若さを伝え、台詞が積み重なる中であふれ出てくる包み込むような力が村岡の「華」を凌駕していく・・・。安定感も他の3人と遜色なし。舞台が進む中で豊かで筆舌に尽くしがたいようななにかが蒼井の「演技」からやってくるのです。また村井との絡みでの間の取り方のうまさ、コメディエンヌとしてのセンスも抜群。噂には聞いていましたが、この人ただものではありません。彼女の死の受け入れ方からは観客の心を浸潤するに十分な瑞々しさと深淵を思わせる時間の闇がやってきます。
生瀬演出が、4人の女優をしっかりとコントロールして、3人の亡霊と一人の女優を見事に解き放ったということなのでしょうね。こういう贅沢な舞台を前から2列目で観ることができるのは幸せな限り・・・。
カーテンコールの時、4人の女優の立ち姿の美しさに目を奪われました。単純に容姿だけでも眼福ではあるのですが、それだけではない何かが舞台からやってきて・・。これだけの密度をもった舞台を作り上げた自信みたいなものなのでしょうかねぇ。自信が気品を醸成し気品が風格を作り上げる。そう、静かに頭を下げる彼女たちには風格がありました。
よしんば立ち見であったとしても、この舞台、観る価値は十分にあるかと・・・。
14日までの公演ですが・・・、お勧めです。
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コメント
Are you crazy????
投稿: pinpin | 2009/06/26 18:34