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MU「JUMON(反転)/便所の落書き屋さん」太さが醸しだす繊細

2009年5月27日、渋谷LE DECO(4F)にてMU「JUMON(反転)/便所の落書き屋さん」を観ました。客席は超満員。

(ここからネタばれがあります。十分にご留意の上お読みくださいませ)

脚本・演出はハセガワアユム。LE DECOの空間にL字型の客席を作って・・・。入場したとたんに緩やかな密度を感じるのは、舞台の椅子やスチールの家具が前回公演と同じような感じだからかも。前回の公演も本当によかったですから・・・。

その開演前の期待感、裏切られることはありませんでした。

「JUMON(反転)」

以前に上演された時と男女の設定を反転し一部改変したとのこと。一人の女性と共同生活をおくる男性たちの家があり、新入りの男性がその家にやってくるところから物語が始まります。仲間に入れてほしいと彼は言う。最初は無関心を装っていたその家の住人たちも、彼を受け入れる気持ちになって・・・。住人たちの性格や抱えるもの、さらには欠落しているなにかが明確に伝わってくることで、彼が受け入れられていく過程に説得力が生まれて・・。

そこに女性たちが被害者の会として抗議に押しかけてきて、家宅侵入で男たちにつかまります。3人の女性がそれぞれに異なる事情を持っていて。同床異夢というか、個々の裏側に見えるエゴが表現されていきます。

エピソードの積み上げ方が明確で、なおかつ役者たちのキャラクターの表わし方がしっかりできているので、ハーレム屋敷と括られてしまうその家の内側に満ちたひとりの女性を核とした共同体への想いが無理なく伝わってきます。一方被害者の会側の女性たちの行動と裏腹にシンプルな想いも伝わってきて・・・。

愛の形の新旧が交差する中で、子供を孕んだ共同体リーダーの女性の想いがすっと浮かびあがって・・・。

印宮伸二が薄っぺらさな部分を維持しつつ心の空白をうまく表現していて・・・。そこからドミノのように住人たちの個性が浮かんできます。成川知也のすこし母性を含んだような度量の表現が絶妙。坂本健一のナイーブさは単なるリスカ以上のインパクトを観客与えます。小野哲史の怪しさには妖しさといかがわしさがほどよく入り混じっていて。浜野隆之の内側に入り込むような感情表現も生々しく客席に伝わってきて好演だったと思います。

被害者の会会長を女装で演じた小林タクシー、不思議な存在感があって。最初こそ笑ってしまいますが、彼から伝わってくる彼女の想いには男性が演じることでの歪みがない。すごくナチュラルな感じがするのです。宍戸香那恵は戸惑いのなかの一途さが力みなく表現できていて。長岡初奈から伝わってくるパワーには被害者の会のアクティブな面がうまく表されていたと思います。

佐々木なふみは男性たちの愛情を背負うだけの裏付けを作り上げてみせました。アンニュイと達観と伝法な部分が渾然と伝わってくるのです。しかもそれぞれの仕草を貫く愛情がきちんと横たわっていて、観客に染み透ってくる。この人はやっぱり凄い・・。

終わり方にも余韻があって・・・。なにか複雑に心に残る作品でもありました。

「便所の落書き屋さん」

こちらは新作だそうです。どこか少年コミックのようなテイストを持った作品。そのなかに「今」がうまく織り込まれていました。有料トイレに寝泊りをする少年、そこにトイレの落書きについての伝説を信じて書き込みにやってきたカップルは元同級生。

物語の意外な広がりにそのまま引き込まれてしまいます。元同級生や美人美術教師の存在、さらに兄弟の確執などどこか定番の匂いがする設定なのですが、それだけではない魅力がこの物語には内包されていて・・・。

見せ方がうまいと思うのですよ。演出が本当に観る側をそらさない。それぞれのシーン、表層的には異なる雰囲気に満たされているのですが、全体に漂う香りのようなものがあって観ているものがその中にうまく誘い込まれていく。観客の持つイメージを借景にする部分と芝居の中で積み重ねて作り上げていくもののバランスが良くて、舞台からやってくるものを観客は咀嚼することなくがっつりと取り込めるのです。

浜野隆之が演じる少年の貫くようなストイックさがまず目を引きます。佐々木なふみの酔っ払いの美術教師や成川知也の20歳離れた兄の個性にもしなやかなふくらみがあって客を物語からそらさない。少年が命を救った女子高生、清水那保の観客を揺らすような「無垢な善良」さが瑞々しくて、その色が物語にしなやかな厚みを作り出していく。彼女には何かを凌駕するような透明感を舞台に与える力があって・・・。その女子高生の彼氏を演じた小野哲史も独自の雰囲気を醸し出して好演。その他の高校生たち、印宮伸二、坂本健一、宍戸香那恵、長岡初奈も単なるにぎやかしとしてではなく一人ずつのキャラクターがみえる形でシーンを構築して舞台の密度を上げていく。

小林タクシーはこちらでもどこか胡散臭げなキャラクターを演じるのですが、その雰囲気を背負いながらヒールにならず誠実なイメージを観客に残していくところが・・・・すごい。

物語に終わり方にも、重さはないのにあとを引くような質量があって・・・。

*** ***

2作を観終わって。

それぞれに短編とは思えない充実感がありました。コンテンツがすごくしっかりとしていて。でも観疲れしたわけではない・・。もしさらにもう一本見せてくれると言われたら是非に観たいという食欲がしっかり残っていて・・・。不思議。

ハセガワアユム的な見せかたのうまさって絶対あると思うのですよ。客が物語を深く観るために必要な部分を見極めるセンス、そして本当に見せるべき部分をためらいなくしっかり見せ切る潔さ。前回のMUでも感じたのですが、間違いなく常ならぬものを彼は持ち合わせているとおもうのです。

次回のMUは9月、シアターモリエールでとのこと。こちらも是非に観たいと思います。

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