中屋敷「学芸会レーベル」の底深さ&「切れなかった14才❤りたーんず」プチ感想
2009年5月1日「切れなかった14才❤りたーず」の「学芸会レーベル」を観ました。作・演出は中屋敷法仁。場所はこまばアゴラ劇場。
当日中屋敷法仁氏は名古屋で公演中ということで、制作の方が前説を実施。
(ここからネタばれがあります。十分ご留意ください)
舞台は幼稚園。昨年幼稚園を追放されたというみゆき先生があらわれて・・・。
前半からリズムに乗った舞台の展開にぐいぐい惹き込まれていきます。先生>園児>父兄という人数構成が物語の風通しを良くしている感じ。生徒を少なくして「学芸会」を演じる側より運営する側にスポットを当てて物語が構成されていく。先生間の戦いがお遊戯によってなされるところがわかりやすくてすごい。お遊戯の表現力にはシンプルで抵抗できないような魅力があって、観ていてすなおに舞台の色に染められてしまうのです。「グー・チョキ・パーで♪」と言われた瞬間に舞台と観客が一つに同化させるような不思議な空気に支配されてしまう・・・。
「お口チャック」で相手の攻撃を封じ込めるのには笑った。こういうの理屈抜きに好きかも。
お遊戯にそこまでの力が秘められているから、「学芸会」を演じるのではなく「学芸会」に取り込まれてしまうという物語の前提にも説得力があって・・・。で、学芸会が始まってからの展開、まるで落語の言いたて(たとえば黄金餅での葬列の行程)のようなグルーブ感に酔いしれました。全部を把握しているわけではないかもしれませんが、赤ずきんに始まった物語が
うさぎとかめ・浦島太郎(玉手箱をからめて)⇒シンデレラ・鶴の恩返し・花咲か爺・水戸黄門・笠地蔵・こぶとり爺さん・一寸法師・かぐや姫・ジャックと豆の木・一休さん・・・・
などの間を疾走していく。しかも、物語が単純につながれていくわけではない。登場人物たちの、感情や愛情がしたたかに物語のつなぎに織り込まれていくのです。その繋がりの終焉からはカオスまでが浮かんでくる。。
そりゃね、なぜハッピーターンがおやつとしてスポットライトをあびるのかはよくわからかったりもする。物語の運びがちょっと強引かなと思う部分もあります。でも、そういう遊びや無茶を楽しいと思えるのは物語に芯がしっかりと埋め込まれているからだとも思うのです。中屋敷作劇のしたたかさの一端を見たたようにも感じて・・・。
役者のこと、伊東沙保のお芝居にまずやられた。これまでも彼女の舞台は何度か観たことがあるのですが、これほどの躍動感を持った彼女の演技は初めてでした。川田希もカニクラとは異なる演技で魅了されました。演技にふくよかさがあって、舞台の空気を豊潤にする力を感じた。大道寺梨乃の演技が醸し出す保母の雰囲気には実存感があって、なおかつ演技の切れにも惹かれて。萩野友里からやってくるある種の硬質な感じが舞台全体を締めていたような。
三澤さきの演技は舞台上の幼稚園にナチュラルな実存感を与えていたと思います。その実存感が奇想天外な物語に根を持たせるための枠組みになっていたような…。同じような役目を田中佑弥も担ってい、支え切っていたように思います。
永島敬三の軽妙な演技は舞台にスピードをつけていました。川口聡の粘度のある演技も子供のいたいけではない部分がよく表現されていて。子供の心の陰影もうまく具象化されていたと思います。武谷公雄のお芝居にも子供の実存感みたいなものがうまく現われていました。
今村圭佑の存在感もすごかったです。切れを見せるお芝居ではないのですが、なんというか、舞台上での不思議な支配力があって・・・。お芝居に十分な質量を与えていたと思います。
それにしても、終演時の満たされ感、なんなのでしょうね・・・。軽い疲労感と駆け抜けた爽快感のようなものが残っていて。充実感を超える何か・・・。この何かがあるから、中屋敷作品、やめられないのです。
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終演後、名古屋と東京をインターネットで結んでのアフタートークショー。作者の想いは箱根の山を越えてきちんと観客に伝わっていたとおもいます。ただ、スクリーンの中屋敷氏の反応が少々遅いのが難点といえば難点で、そのずれ感がトークショーの熱をやや下げているような気がしました。よい試みだとはおもうのですけれどね、もう少し流暢に通信ができるとがあると、大向こうをうならせるようなやり取りができたのではと思います。
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帰り際、6人の演出家すべてを観たご褒美に福袋のようなものをいただきました。
杉原さんの招待券は京都でのお芝居で、その時点で京都にいることはまずないので断念。中屋敷さんのミニ戯曲はちょっとたのしい。柴さんからはちょっと昔のコミックが入っておりました。篠田さんのビールはなにかお人柄がでているように思えて(おいしく頂戴いたしました)。神里さんのDVDは観ていてお芝居がよみがえってきた。白神さんの小さなブラシはマジで役に立っております。こういうの、なんかすごくうれしい。
「切れなかった14才❤りたーんず」、ほんとによい企画だったと思います。6作品(篠田さんと白神さんの分は2回観たので8公演)それぞれから優劣の比較をしようがない独自の色が感じることができたし、客入れの雰囲気や前説を演出家がやること、さらには共通の雑誌を発行したりと演出家間でのトークショーや一定の統一感を持って演じられることでのふくらみも間違いなくあって。
スタッフワークもすごくしっかりしていたし、スタンプラリーや幕間の企画も楽しくて。よしんば劇場の座席が多少つらくても、すごく気持ちよくお芝居を見ることができた。また、シンプルな汎用性というか様々な広がりへのゲートウェイ的な場を作った舞台美術の佐々木文美さんの功績も大きかったように思います。
この企画、いろんな相乗を生んだと思うのです。作り手側のことはトークショーで語られていることくらいしかわからないのですが、たとえば私にしても、それぞれの演出者の個性や力をがっつり味わうことができたし、白神さんや杉原さんという初見の演出家の才能を知ることもできた。
あとから語り草になるくらい、いろんなことが繋がりひろがった企画だったと思うのです。
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