Dull Colored Pop ショート7 Aプロ
5月2日、ソワレにてDull Colored Pop「ショート7」のうちAプログラムを観ました。場所はPit 北/区域。
主宰の谷賢一氏が自らの短編を2回に分けて再演するという企画です。この公演、楽しみにしていたのですよ。Bプログラムは3日マチネで観る予定。加えて5月6日のマチネでもう一度Aプログラムを観る予定・・・。
狭い階段を下りていく。この劇場、舞台が近い・・・。まあ、しいて言えば座席がきついのが若干難なのですが、何とか耐えきり、迫力のある舞台を満喫することができました。
(ここからネタばれがあります。十分にご留意くださいませ)
上演順に作品の感想を・・・。
1.ソヴァージュばあさん
黒澤世莉演出バージョンを4×1h Projectで観た作品。その時にも強い印象を受けた作品です。冒頭のシーンの質感がかなり違っていて、一瞬戸惑う。しかし、兵士たちが家事の手伝いを始めるころにはすっかりその世界に取り込まれていました。
黒澤演出と谷演出では生き残った兵士の立ち位置が違うというか、その物語が語られる視座が異なるように感じました。黒澤演出がその惨劇をすべて受け入れた上での割り切れなさをベースとして語られる物語だったのに対して、谷演出ではもっと近い時間と距離でその惨劇が語られていくような印象があって。結果として黒澤演出ではやわらかく浸潤するようにやってきたソヴァージュばあさんや兵士の想いが、谷演出では切っ先鋭くやってくる。谷演出の方が兵士たちからやってくる感覚も今様で、ソヴァージュばあさんの行為に至るまでのカオスのような感情も生々しく伝わってきます。その分、観客が物語全体を俯瞰できるところまで来たときの、兵士たちに訪れた理不尽さやソヴァージュばあさんの自らの行為に対する諦観のようなニュアンスは弱くなっているようにも思えたり・・・。
ただ、描き方が異なっても役者の演じ方が違っても、ソヴァージュばあさんが自らの感情をどうしようもできなくなる姿が観客を巻き込んでいく時の色は同じで、そこに作品の持つ普遍性を感じるのです。
出演:堀川炎、和知龍知、佐野功、堀越涼
(黒澤演出時の出演は菊地美里、上野友之、坂巻誉洋、坂口辰平)
黒澤・谷両氏とも贅沢なほどに良い役者を揃えて。逆に役者を揃えないと描けない世界なのかもしれませんが。
2.Bloody Sauce Sandwich
舞台のカラフルさにまず目を惹かれます。フロアや机の上のゲーム。
主人公の女性によってメルヘンチックに語られる朝の風景。そして股間からふき取られる血の生々しさ。
そこに姉の声が響いて、目ざめ。世慣れした姉の言葉。供されるサラダ。悩み事を聞き出そうとするする姉からは、むしろ姉のキャラクターや生活が伝わってきたり・・・。でも、そんな朝がルーティンとなり、主人公の事情が示されるなか、幻影が現れて・・・。
姉役の佐々木なふみの演技には強い実存感と安定感があって、現実の朝の光景と客観的な主人公の姿を素の色で浮かび上がらせる・・・。その色がしっかりと与えれるから、観客は主人公が姉を遮断していく姿にも滴るようなリアリティを感じるのです。ハマカワフミエのテンションをしなやかに保った演技が、主人公が抱えるものの密度をしっかりと支えていきます。千葉淳が演じる幻影のまとわりつくような感触と姉を主人公の内から葬り消し去っていく電動ノコギリの回転音、主人公の内心に浮かぶ色は観客にまで重く覆いかぶさっていくよう。
出演:ハマカワフミエ、佐々木なふみ、千葉淳
それでも主人公に繰り返し訪れる朝。彼女が語る風景の変化、淡々した表現から浮かび上がる彼女の心の滅失にぞくっと鳥肌が立ちました。
最初は生臭いほどに鮮やかに見えたトマトジュースの赤が、最後には妙に色褪せて感じられた・・・。そこまでに観客を浸潤する力量を持った作品でありました。
休憩
3.15分しかないの
初演を前回の15minutes madeで観ています。その時の強いインパクトが、再見でも遜色なくやってきました。
初演時には1列に並んでの分身たちのやりとりだったのですが、今回は位置がスクエアになったり自由な動きまでが加わって。その分彼女からあふれるような心の移ろいや揺れがより瑞々しくなったような・・・。
デジタルっぽく三つのシグナル間の多数決のようにして決まっていく彼女の内心、ロジックは変わらないものの今回はそれぞれのシグナルが表現しうるバリエーションが増えて、その分心の面積というか揺れる振幅が広がったようにも感じました。
とにかく3人の女優たちの演技の切れが抜群で、その切れで彼氏のウェットな部分に揺れるナイーブさを現出させるところがまたすごい・・・。個々のシグナルを点から線、さらには揺らぎの幅として機能させる役者たちの表現力に改めて感嘆してしまいました。
このメソッドで違うシチュエーションも観てみたいような・・。
出演 : 堀奈津美、桑島亜希、境宏子、千葉淳
4.アムカと長い鳥
冒頭、アムカへの語りかけ。長い鳥の尾っぽ。最初に空気が作られて、なにかに幽閉されているようなイメージが会場全体を包んで・・・。観客はその中に漂うような主人公を息をひそめて見つめてしまいます。
危ういバランス感が肌から染みいってくるような感じ。清水那保はしなやかな密度のコントロールで観客を主観と客観のボーダーにとどめながら、時間を進めていきます。
お風呂の時間。テレビかラジオをザッピングするタイミングに満たされない苛立ちが浮かんで・・・。
携帯電話での会話から、浮かび上がっていく素の世界。電話の向こうからやってくる友人の今と、狂ったチューニング音のように認知されるこちらがわの子供の泣き声。苛まれながら友人の電話を切る・・・。内側に生まれた脆さが会話から膨らみ、表皮を残したままの理性を依存が凌駕していく。
歯止めのないオーバードース。逃げるために依存し、依存しきれないなかでさらに依存していく・・・。手を放してしまったような中途半端な慰安とさらなる崩壊。
観客として不思議な感覚がありました。彼女の内側にどんどん染められ惹き入れられるのですが、それでも、片足が客観の域に残ったような感じで、主人公を外から見ていたりする。で、あいまいさのなか、役者が作り上げるキャラクターが言葉にできないような感触を置いていったり・・・。
なんだろう、逃げ場がない落下感・・・。ちょっと違う・・・。
うまく言えないのですが、揮発しない感覚が残る作品でありました。
もちろん褒め言葉です。
出演:清水那保
*** *** *** ***
終演後、谷賢一氏とアロッタファジャイナの松枝佳紀氏、さらにはアロッタファジャイナの女優安川結花さんも加わってのトークショーがありました。
このトークショー、趣向があってキャバクラで行っているという設定にしてあるのです。出演女優の方のドレス姿が実に美しくあでやかで。で彼女たちがトークショにちゃちゃを入れていく。それも正面切ってではなく、ときにはしらっと、時にはささやきで場を作るのがおかしくて・・・。
で、彼女たちのプレッシャーをかいくぐっての主宰者どおしのトーク内容からは、松枝氏と谷氏の演劇に対する熱さがきちんと伝わってきて興味深かったです。二人の想いが完全にマージしていないようなところに、それぞれの才能や劇団の個性を感じたりもして・・・。
それよりもなによりも、安川さんが真中にいて二人が似ているとけれんなく言い放ったところが、めちゃくちゃおかしかった。ビールの飲みっぷりも観ていて本当に気持ちがよくて・・・。やっぱりこの人ただものではない。
まあ、観客にとって気を抜くことのできない作品の連続でしたから少し疲労を感じたものの、とてもふくよかな気持ちで帰途につくことができました。
Bプログラムも実に楽しみ・・。王子と駒場東大前を往復するゴールデンウィーク。けっこういいかも・・・。
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