切れなかった14才❤リターンズ「少年B」心に映るもののリアリティ
4月19日ソワレにて「少年B」を観ました。場所はアゴラ劇場。切れなかった14才❤りたーんずシリーズの2本目の観劇になります。作・演出:柴幸男。
(ここからネタばれがあります。十分にご留意くださいませ)
ちょっととりちらかった感じの舞台。入場するとすでに役者がひとり舞台の中央に立っています。とり散らかっているように見えるのはたくさんの服のため。床だけではなく、舞台奥の鉄パイプにひっかかっているものがあったり・・・。
開演前から男はなにかを演じている。客席側ではそんなことお構いなしという感じで客入れがすすんでいく・・・。そのうちに他の役者も現れて・・・。客入れが終わるとそのまま居続けの男のセリフで舞台が始まります。「僕の話をしよう」と彼は言うのです
服がひとつのキーワード、前半は少年の一日が服であらわされる時間をベースに表現されていきます。パジャマから学生服、放課後の私服・・・。同級生との漫才、女子とのふれあい・・・。ルールが明らかになっていくにつれ、舞台に宿る世界のバリエーションが広がっていきます。親友、自分の才能にかかわる自尊心、同級生の女子に対して本当にしたかったこと、自分をバシリに使うような別の同級生のこと・・・・。とても変わった同級生とのかかわり、現実に起こったことに、爆発するような内心の気持ちが混ざって表現されたり・・・。夜の思索が闇の言葉としてやってきたり。
それは、男の心のスクリーンに投影される学生時代の、息が詰まるほどに忠実な描写・・・・。現実と想いの境界線が取り払われて、包括して浮かび上がってくる時間の断片・・・。宇宙人をやっつけるような幻想も、合唱コンクールの指揮者に祭り上げられてクビになりその日学校を休んた現実も、男の脳裡に去来するのと同質の風景として観客に伝わってくるのです。
さらに世界は「今」とリンクしていきます。友人やいじめっ子の服が変わり、記憶の風景が30代後半の「今」に塗り変わっていく・・・。親友はラーメン屋になった。コンビニのオーナーとして昔の高飛車な雰囲気が一転してしまった腰の低いいじめっ子もかなり鮮烈、変わった友人は刑務所の塀の中・・・。そのなかで、同級生の女の子がずっと制服姿のままであることにも、内心の描写としてのリアリティを感じる。
彼だけが参加しなかった合唱コンクールとクラスメイト達の今、クラスメイトがそれぞれに大人の道を歩いていく中、ひとり少年の時と同じように役者としての夢を追っている彼自身の現実と、どこかオーバーラップしているようにも思えて。
不安が色濃く舞台を包む中、30代中盤の彼の葛藤が、同級生の女の子との会話や独白のような少年の彼への語りかけから溢れてきます。何とか自分を支えている彼・・・。登場人物が全員で合唱曲を歌い始めます。今度は彼もいっしょに歌う。一人ずつその場を去り彼一人が残されて・・・。
暗転の中、さらに役者を続ける彼の心の内が、深くやわらかい痛みのようなものを伴ってやってくるのです。カーテンコールの拍手をするうちに、主人公の重さをそのまま渡されたような感じが次第に広がっていく。
役者は以下のとおり。
井上みなみ、大柿友哉、岡部たかし、玉井勝教、山田宏平
アフタートークで井上みなみの年齢を知ってびっくり。10代中盤にしてこの演技の安定感とは末恐ろしくも楽しみな・・・。他の役者も細部まできっちりとした表現がなされていて、作品の解像度をがっつり維持していたと思います。
それにしても、柴幸男の才・・・。先日のtoiを観た時にも感じたのですが、彼の作品には独自の切り口や視点からくっきり浮かび上がってくる情景があって・・・。その視る力というか発想と描写力にはひたすら瞠目するばかり。今回も、最初は戸惑いながら舞台上の世界と対峙していたのに、終わってみれば作品の精緻さとリアリティにひたすら心を奪われてしまっていました。
toiの作品群にしても今回の作品にしても、観るたびにその視座や表現の切り口のフレキシビリティに凌駕され続けていて、今後の柴作品も腰を据えて追いかけたい気持になりました。
R-Club
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