ポかリン記憶舎「humming3」 自然な時間をささえる力
4月5日ソワレ、祖師ヶ谷大蔵のカフェ、MURIWUIにてポかリン記憶舎「humming 3」を観ました。
劇団初見、名前は時々小耳にはさんでいたのですが・・・。
会場はビルの屋上に建てられた本物のカフェ。その壁に張り付くように座って様子を観る感じ。2列の客席に桟敷と立ち見、みんな壁によりそって・・・。
(ここからネタばれがあります。十分にご留意ください)
入場するとすでに、役者が演技を始めています・・・。窓際でパソコンを観ている男、壁で本を読んで時間を過ごしている女性・・・。作・演出の明神慈さんが着物姿で明るい客入れを・・・・。フレンドリーな感じで場を仕切っていきます。そして、観客が収まったところでお芝居が始まる・・・。
別にカフェの照明が変わるわけでもなく観客のいる場所の明かりが落ちるわけでもない・・・。まるで観客がその場に居合わせただけという風情で現実と等質の時間が流れ始めます。
カフェの女主人が頼まれていたケーキを駅前のお蕎麦屋さんにとどけるということで、常連と思えるパソコンの男性に留守番を頼む。留守番の間にやってくる客やかかってくる電話・・・、それらがが時間に模様をつけていきます。
ミュージシャンの男を連れてきたそのカフェでライブをさせたい恋人、お互いの想いのずれが観客の目をひく。周りからわかってもその女性には見えないこと、その姿が空気を作る。そばやの息子と留守番の会話のナチュラルさ・・・。女主人に呼ばれたというミュージシャンと常連客の会話からやわらかく浮かび上がるその店に流れ続けている時間の長さ・・・。
たとえば、ミュージシャンの恋人が置きチラシを頼むシーンや、帰ってきた女主人がなにげに持っている特売のティッシュを下げて帰ってくるところ、ちいさなトリガーに染まった空気の色が淡く強く場内に拡散していきます。要はそんな時間の数知れない積み重ね・・・。その場所に宿った刹那、そして積みあがった時間、知らぬ間にコップ一杯にまで満ちたような日々。最後の一滴を落としたような終盤の女主人のカムアウトにあふれ出すものが観客の心を絶妙に揺らす・・・。
常連の客にとって何の前触れもなくそれまでの色が不可避に変わって行く瞬間、でも一呼吸おいてきちんとした必然が添えられて、積み重なった日々へのいとおしさが観客へもじんわりと伝わってくるのです。
役者のこと板倉チヒロのナチュラルさがとてもよい。彼が作る空気には空間全体を染めるようなオーラがあって、そのコントロールが絶妙。女主人を演じた中島美紀には時間をしっかりとまとうような包容力があって、物語にしたたかな実存感をあたえていました。恋人たちを演じた小杉美也子に内包されている一途な想いと政井卓実が演じる彼女への想いのギャップもうまくその場の色にマッチしていて,それぞれに好演だったと思います。日下部そうのとまどいにもきちんと女主人との時間を浮かび上がらせるだけの力があり、そば屋の息子を演じた比佐仁や最初のシーンで日常のカフェの色をつくった女性(太田みち/石山裕子のダブルキャスト)にも気負わないよさがあって。
やわらかく自然に流れる時間を支える秀逸なセンスやパワーが作品全体に満たされていて、演じられた時間から過去と未来にひろがる登場人物たちの世界に心を惹かれてしまうのです。
終演後、駅までの帰り道がまだ舞台の続きに思えたりして・・・。こういう現実と距離感のないお芝居って、なにかあとをひくのですよね・・・。ちょっとせつないけれどどこかに心地よさを秘めた世界・・・。で、間違いなく何かが心に沁みた。悪いことではないのですけれど。
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