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MCR「シド・アンドウ・ナンシー」受け身の洗練

4月24日ソワレにて、MCR「シド・アンドウ・ナンシー」を観ました。場所は下北沢駅前劇場。作・演出:櫻井智也


予約していたチケットを受け取って入場しようとすると、奥の入口からといわれて・・・。今回は対面舞台なのです。


(ここからネタばれがあります。十分にご留意ください)

劇場の中央に設えられた舞台はモノトーンを基調にして両端にシドっぽい男性と戦前のムービークイーンのようなナンシーの絵が大きく描かれています。おしゃれっぽい雰囲気と中央に敷かれた畳に布団のミスマッチ。パンクっぽい客入れの音楽・・・。


開演すると舞台には安藤が寝ている。そのそばに女性・・・。安藤はやくざらしい。その横に座っていた女は、安藤に危ない仕事をするなと言います。そして、安藤が持っていたチャカで安藤を脅したりもする・・・。ロシアンルーレットもどきのことがはじまったりもします。そこにでっぷりと太った女性が現れ、さらにたっちゃんと呼ばれる安藤の学生時代の友人、辰巳が現れて・・・。彼は毎日300g太る奇病にかかり、もうすぐ死ぬだろうと医者にも匙をなげられたという・・。彼は、昔話していたバンドをやろうというのです。


そこから安藤の学生時代と今が交互に舞台を行きかいます。学生の頃からどこかやる気のなかった安藤と、自分のスタイルを貫いていたたっちゃん、そこに別の友人たちを加えてエピソードが語られていきます。一方今のシーンでは、たっちゃんたちに彼を慕う男も加わって、さらにはやくざ事務所での組長や兄貴分とのエピソードも挿入されて物語が膨らんでいきます。


ひとつずつのエピソードは時折気持ちよくゆるいのですが、一方でMCRらしいトーンや密度があって、観客はすんなりと舞台にひきつけていく。絶妙なフォーカスの当て方やはずし方、唯我独尊的な登場人物の行動や、奇抜なぼけに輪をかけて膨らますようなつっこみ、でもそれらが重なり合う中で、登場人物たちの生まれついての色が浮かび上がって・・・。


なんというか登場人物たちには学生時代から定められた色とか運命のようなものがあって、いろんな出来事があっても、彼らはなるがまま、彼らの色のままにそれらを受け入れていくのです。そこには、無気力とは違うなにかが漂っていて・・・。組体操の熱と「先が見えないし、何もない先がずっとつづいているような絶望」の間で揺れ動くような時間がの感触がすっと伝わってくる。


幸の薄さを絵にかいたような女性や妙な突っ張り方をする組長の描き方から、やわらからな笑いが導かれ、物語の広さが生まれていきます。学生時代の友人たちが、再びそれぞれの人生をよぎるタイミングや姿にもどうしようもない実存感があって・・・。心地よく笑い、ストーリを楽しみ・・・。でも終わってみれば人生の流れの中で自然にやってきてしまうものと、それを0ではない程度の邂逅とともに受け入れる感覚が鮮やかに観る者の心に残存しているのです。そこに内包されているぞくっとくるような軽さに、櫻井作劇の秀逸さをあらためて実感したことでした。


役者のこと、中川智明が「安藤」はキャラクターを十分に作り込んでいて大好演、舞台の屋台骨をしっかりと支えていました。「たっちゃん」を演じた辰巳智秋には理屈を超越したような強さがあり、その若いころを演じた小野紀亮にはも辰巳の演技を納得させるような芯があって・・。「安藤」の彼女を演じた上田楓子の微妙な突き抜け具合も絶妙だったと思います。たっちゃんの彼女を演じた石澤美和は、体躯を生かした演技を前面に出しながら裏で微妙なニュアンスを込めるような感じがあって・・・。櫻井智也の突っ込みも相変わらず切れがあり、観ていてわくわくしてしまいました。


友人たちを演じた江見昭嘉、渡辺裕樹のお芝居には安定感がありました。江見の中庸な部分は舞台の色を安定させていたし、渡辺が終盤女房を借金のかたに差し出すときの表情に込められた一瞬の卑しさもうまいなあと思います。福井喜朗のマイペースにも不思議な説得力があって・・・。不思議な説得力といえば、北島広貴の暴力団組長にも表現できないようななにかを感じました。否定できない嘘っぽさというか。おがわじゅんやの子分が作りだすずるさのリアリティともうまくかみ合って、やくざの世界をしっかりと薄っぺらくしていく。それが「安藤」の内面を浮かび上がらせていくような感じがあって妙に感心してしまったことでした。


幸薄い女「伊達」を演じた伊達香苗がつくる負の力も見事でした。弱さを演じるわけではないのです。負を引き込むような力をしたたかに演じ上げていく。それが倖の薄さとしてやわらかく舞台の色になるのです。


舞台装置の工夫や、伏線の組み方のうまさ・・・。まあ、ほんの数か所、台詞のタイミングのかぶったような部分はあったものの、良質な役者の演技に1時間40分の上演時間、すこし切なくでどこか研ぎ澄まされたような世界にドップリひたりこむことができて・・・。


派手でも重くもないけれど、あとに何かが静かに残るMCRのお芝居、今回も堪能させていただきました。


***  *** ***


終演後にトークショーがあり、櫻井氏が質問に答えるという形で今回の芝居について説明。櫻井節で、主宰者としての作劇意図や想いがわかりやすく説明されていたと思います。おがわじゅんやさんとのやりとりにMCRが普段持っている雰囲気がそこはかとなく伝わってきて。シンプルですがよいイベントだったと思います。


R−Club


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