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「アントン・猫・クリ」断片が再び形になるとき

2009年4月16日、こまばアゴラ劇場にて「アントン・猫・クリ」を観ました。仕事を切り上げて劇場に急行。4月下旬から5月上旬にかけて6作品が上演される「切れなかった14才❤リターンズ」シリーズの初日。場内は満席でした。

劇場の1Fにもシリーズに関わるいろんなディスプレーがあって、観ているだけでも楽しい・・・。新しいシリーズが始まる日ということなのでしょうか、開場を待つ人がたむろする劇場周りの雰囲気にもちょっとわくわく感が漂います。篠田さんの本棚には舞台の精緻なモックアップがあったりして、思わず見入ってしまったり。

(ここからネタバレがあります。十分にご留意ください。)

場内は総ベンチシート、満席です。舞台背面には鉄パイプが格子状に組まれていて、ところどころ重なりがあって・・・。そこに長方形の白布がつるされています。舞台全面上部はたしかに篠田さんの本棚にあったのと同じ感じ・・・。

客電が灯った状態で女性が登場。舞台正面中央で言葉がならべられていきます。まるでスケッチブックに素描画が描かれるように街のパーツがひとつずつ姿を見せる。気が付けば街の姿から洗濯のシーン、料理の仕草・・・。後方の白布がスクリーンとなって、その光景のタイムスタンプが表示されて・・・。ランダムに現れる時間、4月から6月にかけてのひとときが切り取られ重なりあっていきます。通りの風景から家があらわれ街が浮かび上がり、やがてその世界に男性が加わって、時に二人の世界が重なる。断片的な言葉と動作の素描がコラージュされて街の広さや二人の生活、さらに彼らの半径にある街の様子が瑞々しく観客につたわりはじめます。自転車にから見える街並みには光や風も感じられるくらい力があって・・・。

日々の暮らしにしても、言葉や動きにリズムがあって、断片的なシーンを埋めていく時間がしっかりと存在する。背景の映像も実に秀逸で、文字のシェイプや動きの表現がすごく豊か。・・・。文字がしっかりとニュアンスを作り街を構成する。分割された言葉の間を満たすように文字から生まれた街の空気が入り込んでくるよう。夜の帳が下りてくるシーンには実際の日暮れを包括したような力があって・・・。

一方で白布に隠されたように鉄パイプの格子が2重になっているところもうまい工夫で、女性が上に登るとアパートのペランダのようなイメージが具体性をもって観客に届きます。そこから派生するイメージの具体性が、舞台に満たされた時間の中でなかですっと浮かび上がる。

アパートに餌を貰いにやってくる猫の話。いくつもの名前で呼ばれる猫の動線に束ねられるがごとく繋がっていく街。猫にカニカマを与える時間の和らぎや猫嫌いのおばさん、さらにはアントンとかクリとか呼ばれる猫を紐にしてネットワークのようなものも生まれていて・・・。

終盤、動けなくなった猫を結び目に、さまざまな記憶がパッケージされ詰め込まれていくような感覚にも体がぐっと取り込まれる感じがしました。

まあ、初日だし、その日のお昼のゲネプロが初めての通しだったとかいう話もトークショーでは出ていましたので、今後何度か上演されるうちに色合いが円熟していくのだと思います。でも、そうでなくても、個人的にはこの作品、べたな言い方になりますが、すごく好きです。猫の動線につながるように現れる日々の断片の瑞々しさが、すっと見る側を浸潤していく。観終わった後、登場人物たちのその街に暮らすという普段さがしっかり残っていて、そこに生きていることへの飾らないいとしさにじわっと包み込まれるような感じがするのです。

作・演出 :篠田千明 出演:カワムラアツノリ 中村真生

映像:天野史朗 舞台美術:佐々木文美

この作品が今後どう熟していくのか、かなり見たい・・・。連休中になんとかもう一度観に行けるとよいのですけれどね・・・。

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前述のとおり終演後、トークショーがありました。ひとつのメソッドを確定させていく大変さのようなものが伝わってきて、すごく興味深かったです。

また、会場では、リターンズという雑誌と称するパンフレットの親玉のようなものが販売されています。戯曲も入って読み応えがすごいです。付録のようについているミニサイズの絵本、けっこう好きかも・・・。

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