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カスガイ「リビング」風通しのよい情念

2009年4月26日、カスガイ「リビング」を観ました。この作品、3月末にワークインプログレスを拝見させていただいています。

で、その時と物語の骨格は変わっていないのですが、終演後の印象にはかなり違いがありました。WIP時は物語を外から眺めていたのが、本番では、特に後半、物語の内側に封じこめられてしまったような。

Img012

(ここからネタばれがあります。十分にご留意ください)

舞台はとあるマンションのLDK。下手がリビング、上手にしっかりとしたキッチンとダイニングスペースがしつらえてあります。しっかりと作り込まれた舞台装置。天井のボードの並べかたがちょっと個性的で・・・。部屋の両端の曲線が、舞台にに心地よい閉塞感を与えています。太い板が乱雑にせり出してくるような天井も目を引く。でも、なんというすきっと居心地がよさそうな空間。

開場された時、すでに舞台上では住人たちがモノポリーに興じています。客入れ中に舞台中央奥FAX電話が鳴るのですが、留守応答のメッセージが開演前の諸注意になっているくすぐりがなんとなく心地よい。

ひきこもりになった女性とその弟の家、弟が姉のケアのためにとある組織から女性を派遣してもらうところから物語が始まります。すでにそこには、姉に拾われたり姉を慕う男性二人と弟の恋人と称する女性が同居していて・・・。

開演前の雰囲気を生かした冒頭のシーンから、チョロQを走らせるようにちょっと時間を引き戻す工夫も旨いと思う。大きな枠を作っておいてそこに登場人物たちそれぞれの位置のようなものを積み上げていく感じ・・・。ひとりずつに事情があって、主人公となる姉弟の生活に入り込んでいく。

暗転が小気味よく挿入されて物語が研ぎ澄まされていく。物語の区切り方、うまいと思うのです。それぞれのシーンのつながりに無駄がなく、異なる色や密度が積み重ねられ厚みが生まれていく・・・。ひとつのシーンが他のシーンへの確実な質量になって、登場人物たち個々の事情が立体的に色を帯びていきます。そこから小さなエピソードや言葉が絡まり合い、登場人物たちの間に複雑な密度が醸成されていく。当初は姉弟が他の住人たちに侵食されていたように思えていたのが、次第に姉弟に彼らが吸い寄せられたようなイメージに変って・・・。さらには、登場人物が抱えているものが明確になるにつれ、絡まりあうそれぞれの重さからにじみ出してくるような真実が、そのまま姉弟への重さとなって二人にのしかかっていく。そしてなにかが満ちた時、カオスのように奇妙な同居生活のバランスがコップから水があふれるように崩壊していくのです。

終盤、同居人たちが出て行ったあとの姉弟二人の時間。同居人たちの重力に彼らが守っていた距離感というか枠が失われ、それぞれから流れ出たコアが混じり合っていきます。相手を思う心と自分の抱えるものの間でボーダレスに溶けていくような姉弟の関係、お互いに絡まり合い、愛情とリヒドーの引けない線上で発する熱が強く深く観客を惹き込んでいきます。

二人が出した結論。そのマンションをたたんで二人はそれぞれに暮らし始める。理性で閉じ込めたものが、姉と別れた瞬間に弟へのしかかる・・・。叫び・・・。そのなかでリヒドーが解放されて・・・、終幕。

カーテンコールで拍手をしながら、素に戻った劇場の雰囲気と裏腹に、姉弟を中心に登場人物たちがそれぞれに抱えたものの重さはさらに深く心に広がっていった事でした。

役者のこと、弟役を演じた須貝英が圧倒的・・・。終盤の感情の露出にも息を呑みましたが、それまでの姉や周りとの距離感の作り方もすごく秀逸で・・・。内心に隠して自分を守ろうとする気持ちとエゴの混在が、他の人物とのかかわり方の中でけれんなく伝わってくるのです。姉役の渡邉安理の演技にも秀逸な質感がありました。それぞれの登場人物にぶつける感情の色が彼女の心の空洞のようなものを浮き上がらせていく。強さを持って内心を隠そうとする演技のこまやかさが、そのままキャラクターを晒す密度につながっているように感じました。

川村紗也の演技にはしっかりとした芯のようなものがあって、ぶれない存在感が特に後半での物語のフレームを支えていました。また、演じるキャラクターにすっと艶を与えて姉弟との関わりの構図に説得力を与え、さらには姉弟との距離の作り方で二人の父親への感情をしなやかに引き出していたようにも思います。深谷由梨香の硬質な演技にも惹かれた・・・。凜とした切れ味のある演技で表面を強く支える一方で、渡邉との演技などではすこし表皮を薄くして生々しいキャラクターのコアを垣間見せる・・。その質感の違いで他のキャラクターの色を引き出すような部分もあって演技の奥行のようなものに舌を巻きました。

姉に引き入れられた男を演じた加藤敦の存在にも不思議な説得力がありました。怪しいキャラクターを概念を超えて空気として表現しながら、そのバックボーンにある葛藤にも実存感を作り上げていて・・・。玉置玲央の演技にはいつもながらの切れがありました。その切れをしなやかさに変えて一瞬に空気を作ってしまう力量はいつものことながらすごいと思う。

姉を慕ってやってきた害虫駆除業者を演じた村上誠基の作り上げるキャラクターにはぶれがありませんでした。実直な想いの表わし方はそのままに観客に伝わってくるし、一方で舞台にリズムを作るような演技も着実にこなして・・・。後半に深谷演じる心理療法士の言われるままに用意した買春代の5万円をばらまいてしまうシーンがあって、WIPの時にはその浅ましさが滑稽に思えて噴き出してしまったのですが、今回は笑うことができませんでした。村上の演技はキャラクターの内心をすっと浮かび上がらせ、さらには彼の抱えるカオスまでも伝えきって・・・、WIP時には外側を見せていたキャラクターの内側に観客を引きずり込んでしまうのです。そこまでに芝居を昇華させる村上の力量にも感心してしまったことでした。

それにしても、良く作り込まれた舞台だと思います。玉置玲央演出に構築された舞台の芯にぶれがないというか、お芝居にバミのようなものがなく、精度を持った透明感が舞台を貫いている。そのクリアさのなかで人物間の温度が明確に観客に伝えてられていくのです。

また登米裕一の脚本もしたたかだと思うのですよ。シチュエーションや会話にウィットがありシーンの一つずつには際立った重さがないので、観ているほうも気持ちよく物語に取り込まれてしまう。でも、その口当たりの軽さとは異なり、重なり合っていく物語からは魔法のようにさまざまな色が浮かび上がっていくのです。発想の広さにあざとさがなく、よしんば虫のかぶり物を出しても、それをさらに物語の色に変えていくような手練があって。しかもその先にある彼の世界には個々のシーンを凌駕して強く惹きつけられるものが生まれ、確実に観客を捉えていく。
アフタートークで聴かせていただいた、作者と演出家のせめぎ合いのお話も興味深く、でもお芝居の感覚はそのままに、言葉にできないようなものを心に溶かしながら家路をたどった事でした。

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