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ラクゴリラ 情もテイスト

遅くなりましたが、2009年4月5日、半年に一度東京にやってくるラクゴリラを見ました。場所はいつものお江戸日本橋亭。この会ももう4回目。だんだんに観客が増えているようで、なにかうれしい。臨界点まではもうすこしありそうですけれど、ある日突然チケットがプラチナ化する会になる予感かずっとしていて、またその世界に一歩近づいたような・・・。

・ 桂さん都  「つる」

前座の位置とはいえ、それなりの経験を積んだ噺家さんではあるわけで、枕も落ち着いて場をしっかりと作ります。芯がぶれないから、聴いていてものびやかな感じがします。

噺をぐっと加速させるようなギャグっぽいくすぐりがあって。悪い試みではないとおもうのですが、きちんとそのくすぐりを受けるというか突っ張りきるような噺の構成まで手が回ると噺の格がもう一段あがるように感じました。

でも、座を温めるだけではない力は間違いなくあって、会全体のクオリティにしっかりと貢献した高座だったと思います。

・ 笑福亭生喬  「隣の桜」

この噺は初めて聴きました。家の境界線問題では「たけのこ」ってなネタもありましたが、こちらのほうがはめものなども聴いて噺が膨らむ感じ。

生喬師匠が持つ硬質な語り口が、噺にでてくる主人と小僧の関係や隣家との付き合い度のようなものをくっきりと浮き立たせます。噺にピントがしっかりとあっている感じ。だから、隣の武士が宴会の風景を節穴から覗こうとしたり塀越しに見ようとしたりする風情に違和感がないのです。武士の人間臭さが観客に客観的に伝わってくる・・・。

笑福亭一門のちょっと泥臭い感じが、小粋なよいスパイスにすら思えて・・・。噺がもつウィットのようなものをたっぷりと楽しませていただきました。

・桂つく枝 「親子酒」

間もなく襲名を迎えるつく枝師匠・・・。高座にあがってこれまでのことを振り返るなかでしばし言葉を詰まらせていらっしゃいました。弟子入りのころのエピソードを語る時、師匠との思い出がよみがえられたのでしょうね・・・。新しい名前に変わるにあたってのいろんな想いが率直に伝わってきて、これは聴いているこちらもあきませんでした。こういう情っていうのはほんまにまっすぐに涙腺にやってくる・・・。

噺に入って・・・。枕があとをひいたのか、つく枝師匠の「親子酒」としては100%ではなかったと思います。本当にまっすぐな力が出た時のつく枝師匠の高座であればもっと突き抜けるようなノリを持った噺になったのではと思う・・・。うまく言えないのですがちょっとくぐもりのようなものが噺に混じっていたような。

ただ、そのくぐもりが「親子酒」に別のテイストを与えていたようにも感じました。平素はカラッと揚げてだしていただく魚を西京焼でいただくようなおいしさがあって・・・。

これも間違いなく「親子酒」の味と得心させる力を持った高座でありました。

仲入り

・桂こごろう 「書割盗人」

こころう師匠も襲名が決まったということで、こごろうという名前についてのよもやま話を高座でひとくさり。仲入りが入っているとはいえ、つく枝師匠の作った色はけっこう大変なものかとおもうのですが、おなじように昔話を使いながら、自らの人柄をすっと滲ませてうまいこと場の空気をひっくり返していきます。この辺にもこごろう師匠の底力を感じる・・・。

まあ、噺自体は何度も聴いたことがあるのですが、とにかくリズムがよい。なにか次々に描かれていく家財道具を聴いていくだけで不思議にこころが浮き立っていくようなグルーブ感があるのです。

貧乏を突き抜けたような骨の太さが登場人物たちにあって、その世界に観客もすらっと引き込まれてしまう。全然関係ないのですが、「あんなこといいな、できたらいいな♪」みたいなノリが心に響いてさえ来て・・・。

突っ切るような噺の勢いがすごくよくて・・・。魅了されてしまいました。

・林家花丸 「天神山」

本日のトリ役は花丸師匠、こちらも端正な語り口に一門の飲み会の雰囲気のネタで前の師匠たちをちくっと刺してみせる・・。で、ひっぱることなくすっと噺に入っていきます。こごろう師匠の空気に逆らうのではなくうまく利用しているような感じがなんか粋で・・・。

この噺も私は初めて聴きました。物語の導入部分は野ざらし(上方で言う骨釣り)のような感じなのですが、その色もしっかりと借景にして噺が進んでいく。中盤のきつねを買い取るところの描き方がなんともいえず暖かい・・・。なけなしのお金できつねを買い取るその情の出し方も一方売る側の欲と情の天秤にもなんとも言い難い味があるのです。なにげに聴いていましたが、多分分銅を1gおきちがえただけで噺のニュアンスがかわってしまうような場面、繊細ななかにやわらかく熱を与えていくような語りの運びで、薫り立つようなリアリティをその場に浮かび上がらせて・・・・・。

ここできっちりと噺に引き込まれているから、終盤の語りが実に深い余韻をのこしてくれるのです。

上方には人情話が少ないといわれますが、これは心にすっと重さをのこすネタでありました。

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ラクゴリラ(お江戸へ出没Version)の次回は10月、文三襲名の口上もよていされているそうな・・・。

夏を飛び越えて秋が楽しみになるお話でありました。

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