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バナナ学園純情乙女組「ワタシだけ楽しいの」は役者が支えきる

3月14日12時30分の回で、バナナ学園純情乙女組~落としまえ公演~「アタシだけ楽しいの」を観てまいりました。場所は王子小劇場。本日3回公演ということで、当初おはぎライブのおまけがないということだったのも影響していたのでしょうか・・・、満席にはちょっと足りない感じ。でもそんな事とは関係ない役者たちのパワーに圧倒されつくしました。

(ここからネタバレがあります。十分にご留意ください)

バナナ学園純情乙女組初見。

作は柿喰う客の中屋敷法仁。彼の作品はつい先日横浜で柿喰う客の本公演としてみたばかり(「恋人としては無理」)。その時にはひとつのキャラクターを何人もの役者で作り上げていくような手法でしたが、今回は当て書きのように役者ひとりずつにキャラクターが割り振られていきます。出演・演出は二階堂瞳子。彼女は4×1hProjectの中屋敷演出にて、「月並みな話」のハナを怪演しているのを観ています。

で、今回の物語はというと、1年生と2年生、生徒会と風紀委員という2つの軸での対立抗争のお話。そこに、アイドル部設立をめざす勢力が加わってみたり、とんでもない先生達がからんだりみたいなな・・・。まあ、一応クエスト風の物語の幅をつくろうとしたり、策略やかけひきなども取り入れてみたり。でも一応筋は通っているというものの、ストーリーの流れで感動できるかというと正直難しい。

にもかかわらず、このお芝居、ちゃんと観客の心にのこるのです。それはシーンごとに役者が積み上げるものにしっかりとした個性とニュアンスがあるから・・・。それぞれのシーンに退屈がないというか、役者たちが表現する重さや質感などがきちんと絵図になっていて、観ていて飽きない。しかも役者の勢いに観客もテンションをもらって一緒に次のページをめくってしまうみたいな不思議なノリがこの舞台にはあって、で、気がつけば、舞台上のありえないような価値観に同化して、冷静に考えるとよくわからない物語の中で、ルールともいえないルールや「必然」に納得していたりする・・・。乗る前にはジェットコースターが楽しい理由なんて一つも思いつかなくても、おつきあいで乗せられて「乗ってしまったら楽しまなければしょうがないものね・・。」とか言っているうちに「キャアキャアいっていても本当は好きかも」みたいなことを内心に浮かばせるのと同じ魔力がこのお芝居にはあって・・・・。その魔力を目一杯役者たちが築き上げている。全部で21人、そのなかで埋もれる役者がひとりもいないのです。わずか60分強の舞台なのに・・・。

とにかく突き抜けていたのが、坂巻誉洋・・・。そのなめらかな演技は群を抜いていました。演技にグルーブ感というか舞台の世界をぐっと高揚させるような力がある・・・。とにかく舞台をぐいぐいと引っ張っていくのですが、一方でしっかりと舞台の広がりをコントロールするようなしたたかさもあって、観客が安心して身をゆだねられるのです。解き放たれた彼の力量と舞台を構築する彼の技量を一度に観たような・・・。

二階堂瞳子にもさすがと思わせる切れがありました。台詞もそうですが所作の切れがすごい・・・。コンサバティブなメソッドでもモダンダンスの躍動感でもない身体表現の武器を彼女は身につけていて、ナチュラルに安定した彼女の世界を作り上げていくのです。しかも芝居や動きに力みがなくすっと人を引き付けるところもあって、気が付けば彼女の芝居に観客が乗せられてしまってる感じ・・・。

また、前回カムヰヤッセンの公演で観た野上真友美にも存在感がありました。「レドモン」で彼女のお芝居を見た時にも思ったのですが、この人の演技の「間」とか力加減は本当に絶妙で・・・。多分天性の才能なのでしょうね。今回のような戯画的な作品でも、雰囲気をつくってしっかりと観客に伝えていく確実な力を感じた事でした。彼女のお芝居には、もっといろんな役柄を観てみたいと思わせる、なにかふしぎな魅力があります。

カムヰヤッセンの劇団員である甘粕阿紗子にも舞台にくっきりと色をつける力があって舞台のカオスを吸い取っていたような。彼女の台詞には描く世界に輪郭を立ち上げるような切れを感じました。小林史緒には内面を透かして見せるような演技のうまさがありました。ある意味地味な役まわりなのですが、周りの喧騒に左右されずしっかりと自分の演技を貫くお芝居に彼女の地力を感じた事でした。高村枝里の作る雰囲気にも境地というか個性があってなにかよい。加藤真砂美の凜とした演技も舞台の色をぐっと強めていた感じ。キャラクターの気の強いところを表面だけではなく、もっと深いところからにじませるような部分があって。

前園あかりのお芝居には無駄がなく・・・、なんというのかこの人のボディーランゲージには強い伝達力があって、表情の切れというか豊かさ、それと小さな所作などがあわさって演じるキャラクターの心情がくっきりと伝わってくるのです。一番前の席からで申し訳なかったのですが何度も彼女之演技を見つめてしまいました。

紺野タイキの持つ雰囲気には不思議な奥行きがあって、小島明之鈴木康太、さらには藤原裕樹小川貴大緑川陽介などの演技にも舞台で絵になる以上のオーラがありました。彼らの動きはよしんば静止していても観客のなかで静ではなく動と映るのです。そのテンションが舞台全体の熱を上げる大きな力になっていたように思います。

アイドル志望役の山口航太、河野愛、野口裕貴の3人もタイミングをしっかりと持った演技で好演でした。アイドルと看板を出された瞬間に突っ込みを入れたくなるような雰囲気を前面にだしておいて、ちゃんとアイドル的ななにかを内側にすかし見せている・・。しかも、ステレオタイプなキャラクター表現ではなく、まるで昔の3人組アイドルの衣装色のようにそれぞれの個性がしっかりと提示できていました。

教員役の3人にもありあまる個性がありました。梶尾咲希が描く女性のだらしなさのような部分にはラフに見えて緻密なバランス感覚を感じました。美しい肢体を晒すような衣装でやっぱり胸元に目がいってしまうのも事実なのですが、それとは別にラリっていながらふっと素にかえるような一瞬の表情で舞台をキュッと締める力も持ち合わせていて・・・。柴田薫には艶の清濁を自在に操るような力があって舞台をほどよく暖色に染める。香り立つような色香を作っておいてどこか素の部分をちらつかせる演技が舞台の勢いをより豊かにしていたように思います。野田孝之輔の非現実性もなかなかに舞台に馴染んでいたように思います。女性とか教師とかいう役の無理さをはねつけるように役に一途な感じがこれまたすごくよいのです。

そして、浅川千絵・・・。彼女の役名は□□□・・・。舞台をトランプ遊びのテーブルと考えると彼女はジョーカーのような役回りで何物にも染まらず、でも舞台を凌駕する存在になったりする。ファブリーズのようなものをさんざんに持たされたり吹きかけられたりするところも暗示的で・・・。で、彼女は物語に介在することなくそれこそ匂いを消して動き回り、一方で舞台の存在すべてを背負うのです。彼女の語るコメンタリーのような台詞がカオスにつつまれた舞台の霧を吹き払ったり熱を冷ますうまい工夫になっていたりもして・・・。飄々と演じる彼女もただものではないような・・。舞台に存在する彼女に違和感がまったくないのです。

まあ、かなり無理無理で物語は収束して・・・、でも、なにかすごく心地よい満腹感が残るのですよ。理性は困ると言っているけれど、でもまた続きがあるとうれしいみたいな・・・。

あかん、抜けられないかもしれない・・・。

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この劇団には終演後「おはぎライブ」といわれるおまけがつくことがあって、たまたま私が見た回だけは公演時間の関係でないスケジュールになっていたのですが、なんと急遽ダイジェスト版をやるという・・・。「本編よりむしろこちらを見てほしいので・・・」という二階堂瞳子嬢のお言葉(暴言にならないところがこの劇団の徳というか・・・)のあと、15分ほどのパフォーマンスを見せていただきました。

これ、すごい・・・。

全員が女生徒の制服で歌い踊るのですが、数の力に役者の動きの鋭さが加わって、しかも知らないというのは恐ろしいもので、かかってらっしゃいとばかりにたまたま最前列の比較的中央で観ていたものだから、全員が舞台狭しとシンクロで踊るのを見るだけで、もうただただ圧倒されつくして・・・。酒巻さん、弾けてました・・・。

しかも年齢層の広い観客をカバーするためか、ピンクレディーやハロプロのナンバーをオリジナルの振り付けを尊重しながら歌い踊ってみたり・・。

「アイドル振り」という言葉はもう死語なのかもしれませんが、そこには良い歳をしたおじさん(=私)までをときめかせるだけの確かな力があって・・・。しかも、役者が行うことだけにうたい踊るその表情がめちゃくちゃ良いのです。舞台上のどの一瞬を切り取ってもしっかりと絵になっている。さらには、なぜかSMでおなじみの亀甲縛りまで始まって・・・、意味がわからないけれど面白い。

まあ、このイベントの追加でそのあとの待ち合わせにちょびっと遅れたりして、友人にお昼を奢らされましたが、そんなもの屁のように(失礼)安いと感じたことでした。

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