阿部ノ生命VOL.1「河童のブルース」素材のよさを生かす料理人の凄腕
3月19日、空間ゼリーの阿部イズムが作・演出・出演するというコント集、「河童のブルース」を観ました。場所は昨日「mixture#1]が上演された池袋GEKIBA。同じ舞台を借りてのワンナイトショーとして開催されました。
(ここからネタばれがあります。十分にご留意の上お読みください)
阿部イズム氏のコントは空間ゼリーが以前クローズドで行った催しの中で観たことがあって、その時から彼のセンスには強く惹かれていました。彼の秀逸なアイデアは空間ゼリーの役者たちというものすごい武器を与えられて、ぶれや遊びのない非常に高いレベルの空間を現出させていたのです。テンションやリアリティを構築した上での巧みなずれやはずし方。パーティの座興のように演じられてはいましたが、そんな生半可なレベルではなかったです。
だから今回の公演はとても楽しみにしていましたし、旗揚げ公演としてはけっこう高いハードルを設定して観に行ったのですが・・・。公演はそんなレベル設定などたちまち粉砕してしまうほど見事なものでした。
CAST:斎藤ナツ子・佐藤けいこ・半田周平・猿田瑛・西田愛李・阿部イズム・大塚秀記
阿部作劇って笑いのメソッドにすごく忠実・・・。、そこに独創的なアイデアを積み上げていく感じ。だから、役者の確実な演技力がそのまま舞台に花開いていくのです。冒頭のコント(私は河童の女の子)でも斎藤ナツ子と西田愛李の言い争いの場面に遊びがないから、人間の世界になぞらえての河童の世界での借金とりたての奇妙な現実感が生きてくる・・・。で、その現実感が斎藤ナツ子のとんでもないカムアウトの可笑しさにつながっていきます。安定した彼女の演技は単にギャグというレベルをはるかにこえたシュールな実存感を現出させて・・・。下卑にもなりかねないネタをさらっと尖った笑いに変えてしまう。しかもその間、西田愛李が舞台をきちんと作り続けているのです・・・。西田愛李の演技力は観るたびに進化していて、前日に観た「mixture#1」でも、奥行をしっかりと持った演技に引き込まれてしまいましたが、その力が今回の舞台でもけれんなく発揮されていて・・・。だから舞台の空気が揺らいだり切れたりすることがない。その場が一発ギャグのお披露目大会となることなく、設定された世界観がどんどん膨らんで観客を巻き込んでいくのです。
空気をしっかり作るという点では佐藤けいこの力量にも瞠目しました。5人の男女が自らを妖怪だといいはるその無理さ加減がとにかく笑えるのですが(妖怪人間大集合)、そのなかで彼女は口がきけない陰気な女性をじっくり演じ続けるのです。大塚秀記の押しの強さや半田周平のわけのわからないクール感、そのなかで佐藤けいこが雰囲気をしっかりと作って舞台を守っていく。他の役者がテンションを上げればあげるほど佐藤けいこの実直な粘りが生きてくる。彼女の表現力の緻密さは風船を膨らます選手の所作でもしっかりと現れていたのですが(世界大会)、一方で場を作り上げる力もすごい。歌謡ショーのプレゼンター(副賞と致しまして)でも、デフォルメされた演技を地道につづけていくのですが、それが猿田瑛の受賞の当惑をしっかりと支えていく・・。最後におっさんがプレゼントされた時、なおもルーティンを続けていくことでおっさんのポジションみたいなものが奇妙に定まったのがまたおかしくて・・・。繰り返しという笑いの基本を忠実に守りながら、一方で破天荒にものごとをエスカレートさせていく阿部のセンスもすごいと思ったし、それを具現化させる佐藤にも常ならぬ力を感じた事でした。
阿部の才能は舞台を膨らませるだけでなく逆にスパっと世界を切り捨てるところにも表れます。子供を守ると約束していた中年男が銃を突き付けられてあっさりそれを許してしまうというネタにしても(孤独)、大塚秀記の銃を突き付けられた時のずるさやあいまいさの絶妙な表現と西田愛李演じる子供の裏切られ感をそのまま暗転で切り落として大きな笑いに変えるセンス。半田周平ががっつり作り上げる鼻につく自尊心をもった男を猿田瑛に思いっきり気持ちを作って全否定させスパっと切り落とすすごさ。(僕はクールなナイスガイ)これもまた演じる役者が最高の出来で・・・。阿部が構築したユニークな口説き言葉を一つの形にしていく半田の空気の作り方には力みがなく、それゆえ、猿田の質量をを最大にした上での全否定の言葉が波動砲のように効くのですが、そこでスパッと暗転をいれることで笑いがさらに二乗になる。暗転になってから次のシーンまでに笑いを治めることができないほど。猿田の何秒かのお芝居も光ります。それまでの彼女が明るめの演技をしっかりとこなしていただけに、このお芝居の迫力には息をのみました。
でも、阿部の才能にはさらに奥行きがあって・・・。一番ぞくっときたのが不動産屋役を彼が演じた時。そのセリフは観客を圧倒していました。(ニコニコ不動産)大塚秀記と斎藤ナツ子の新婚夫婦が醸し出す雰囲気に、ぐいぐいと切れ込んでいく阿部の切っ先が常ならぬ世界を作り出していきます。慇懃な語り口と裏腹な大塚を踏みつけるような態度や斎藤を凌辱するような言葉、そこからの大塚と阿倍のがちんこにはぞくっとするほどの見ごたえがあって・・・。斎藤も阿部の言葉を受けて二人の突き抜けるような演技に密度を与えていく。このシュールさ、尋常ではありません。この一本だけでも木戸の元を十分にとったようなもの・・・。
暗転後、夫婦のシチュエーションが繋がって斎藤ナツ子のところに大塚秀記があいさつにいくという別の作品に・・・。つなぎのみじかい芝居でもこの二人だと世界がちゃんと作れていて・・・・。で、踊る家族というギャップにつながる。(マイケルジャクソン一家)。家族の踊りを見守る大塚の当惑がすごくいいんですよ。一緒に踊ろうとして白い目で見られるところも実に笑える・・・。この人が時間をコントロールしながら作りだす世界の大きさというか広さには瞠目するばかり。
また、上記の作品以外にもはずれがないのがすごい・・。。
台本の粒がそろっていたのはもちろんなのですが、役者の動きが切れているのは見ていても本当に麗しいというか、舞台の格を上げてさえいるように思える。隅々までしっかりと演技がカバーしているので作品に破綻がない・・・。(ロックバンド)の斎藤ナツコや(マヨネーズ隊)のメンバーのように舞台が崩れないように歌い踊りきれる役者は強い。
まあ、この公演にジャンルをつければ「コントライブ」ということになるのかもしれません。でも、作品が今回のようなレベルに至ると、一般のコントというイメージを超越してしまっているようにも思えて・・・。いわゆる演劇とのボーダーはないような気すらします。たとえば、不動産屋のデフォルメされた内心には15MINUTES MADEの舞台で表現されたされた世界との差をまったく感じないのです。
空間ゼリーとして秀逸な役者を彼に与え公演をバックアップした主宰の坪田氏の慧眼も光るところ。これだけの作品を旗揚げで上程してしまった阿部イズムにとって、Vol.2の上演には広い意味での精進が求められるのかもしれませんが、でもかれにはさらなるクオリティを紡ぎだす資質は十分にあるような気がします。
よしんばコントという看板の下に今回の作品が生まれたとしても、才能にみちた作家に力をもった役者が出会えば、看板では括れないほど作品が生まれる。巡り合えた観客にとってもそれは幸せな出会いなわけで・・。
メモも兼ねて上演作品のリストを・・・。
①私は河童の女の子②副賞といたしまして③ロックバンド④はじめて⑤世界大会⑥チョコレートの精⑦マヨネーズ隊⑧孤独⑨チャンピオン婆⑩ニコニコ不動産⑪マイケルジャクソン一家⑫俺はクールなナイスガイ⑬妖怪人間大集合⑭河童白書
今後も彼の動きには注目していこうと思います。
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