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劇26・25団、108に思わず膝を・・・。

3月12日ソワレにて劇26・25団、「108」を観ました。場所はアトリエ ヘリコプター。勘が悪くてねぇ・・。タイトルのこの数字、観終わってしばらく歩いてからやっとピンと来てしまいました。といいながらそれが正しい解釈かどうかもわからないのですが。・・。

(ここからネタバレがあります。十分にご留意ください)

劇場に入ると、三角に客席に張り出したような舞台。その2辺に小椅子の客席があって後ろに舞台の壁と平行にひな壇状に椅子が並べられています。

早くついたので、後ろのいす席の前から2列目、中央通路わき(下手ブロック)をゲット。座った瞬間本当に舞台が見やすい・・・。まさに良席。

私が過去に演技を拝見して瞠目した役者の方も何人かいらっしゃっていて。

そのうち、席もほぼ埋まって・・・。客電が落ちて物語が始まります。

冒頭、舞台の中央になにかが下りてくるのがわかる。それは、でかい蜘蛛・・・。舞台の隅にいた女性が驚き、その大蜘蛛をたたきつぶそうとする・・・。そこから、場面が変わってそれは夢のシーンだと判明。物語が動き出します。

舞台は保育園の職員室。保母と園長の女性がなにかを練習しているみたい・・・。どうやらその保育園を題材に映画の撮影をしたいというオファーが新進の監督からあったようなのです。

彼女達の会話の中から、体育会系の雰囲気や女性の思想信条のようなものが浮かんでくる・・・。どこかに強い偏りのにおいがして・・・。園長がしっかりとその色を作り出し、保母たちも従属している感じ・・・。また、なんらかの問題を起こして週刊誌などにも叩かれているようで・・・。でも、彼女たちの中では結束というかそのやり方を貫き通すパワーもあるみたい・・。

しかし、映画監督がやってきて彼女たちが観察の目にさらされると、自壊するようにじわじわと彼女たちの内側がさらされていきます。男女の平等といいながら、実は男性となじめなかったり、女性が固有に持つ個性を隠そうとしたり・・・。実際には世間から受け入れられていないような風情も浮かび、彼女たちの標榜する理想の裏側にあるものがにじみ出てくる。

さらには、何度もコールされるアルソックの警備員や園児たちに定期的にパフォーマンスを見せるというマジシャン、今どき珍しいほどの東北訛りをまき散らす保育園見学と称する女性の存在がからんで、それらの核にある園長のどろっとした業のようなものが舞台に広がっていきます。鎧をまとうように男勝りのイメージを貫き通しながらも、カバーしきれずに姿をさらす幼女のように稚拙で傲慢な彼女の本心。それはあるいみ純粋ではあっても、決してけがれないものではなく、むしろ異性を拒絶する心や弱いものを征服しようとするような大人になりきれなさを隠すために薄汚れ、それがために成熟しない自己中心的な欲望や残酷さもコントロールしきれずにいて・・・。その垣間見せ方が実に秀逸で、観る者を彼女の闇にぐいぐいと引き込んでいくのです。

保育所のシーン間に挿入される蜘蛛女との会話も良く工夫されていて・・・。地獄の話など、落語の「地獄八景・・・」が頭をかすめるようなユーモラスさすらあって・・・。最初、シーンの意味がよくわからず保育所を満たす緊張感の箸休めくらいのイメージで観ていたのですが、終盤、それまでのシーンで繰り返された蜘蛛女の言葉が園長の言葉にすりかわる瞬間、思わず「あっ」っと息を呑みました。本当にインパクトがあるシーンで・・・。

園長役の赤萩純瞬は演技の間口がひろいというか、強さと弱さの落差を出せる役者で、さらにキャラクターが自らを見つめるときの距離感をその場に合わせて演じかえるような器用さもあって・・・。栄養士役の林佳代と保育士の吉牟田眞奈が表現する園長との関係というか、緊張感の表現もうまいと思いました。張りつめた空気が園長がいなくなるとすっと解けるのですが、その空気の緩み方がすごくナチュラルなのです。

保育士を演じた清水那の想いの出し入れも観客を惹き込みました。映画監督に想いを寄せられるに足りる魅力をやわらかく表現しながら、一方で小さな動作やほんのすこしの言葉の感じでデリケートな想いを観客に伝えていく。なにげなく観客に入り込んで透明感を持った広がりをいしっかりと残していくような・・。微細な心の揺れを伝える感情の切っ先のコントロールに、彼女が持つしたたかな演技の手練を感じたことでした。

蜘蛛を演じた赤崎貴子も自己中心に舞台を進めている風情を作りながら、実は絶妙に赤萩との距離を見切っての安定した演技だったように思います。赤荻との時間のどこかざらつきを持ったウェット感がこの物語のコアを見事に形成していたと思います。

園児の母を演じた高橋ゆうこの流れるような演技は観ていてなにかふしぎに癒される・・・。こう、うまく言えないのですが、結果的に「演じているところ」を演じてみせた彼女の演技、あざとさを排した保育園側との距離の表現ががなんともいえずよいのです。池田ヒロユキ須藤眞澄のマジシャンが醸し出す悲哀というかというか売れない芸人の弱さやさもしさもうまいなと思いました。警備員を演じた杉元秀透の人のよさも観客にある種の安心感をあたえていたような・・・。彼の演じる普通さがボディブローのように園長の心の闇を照らしだす光になっていたように思います。

映画監督を演じた永山智啓はこの一年弱で5本のお芝居を拝見しているのですが、(15minutes:MU:競泳水着:あひるなんちゃら・・・、で今回)一度もはずれなし。彼の役どころって表だって物語の中枢を占めるわけではないのですが、動かしがたいような存在感が必ずあって・・・今回も園長を崩れさせる視線のような存在を観ているものがぞくっとくる程の力量で演じきっていました。ほんとうにこの人がいると作品が締まります。

冒頭の「108」の話の繰り返しになりますが、この数ってお正月の鐘の数とおなじだと大崎駅への帰り道、突然に気が付きました。それが園長と蜘蛛の会話にむすびついて、なにか凄く納得してしまった。人の煩悩は毎年清めてもなくなることはないもの・・・。まあ、この題名解釈が正しいかどうかはわからないのですが、根拠もなく指を鳴らしてしまったことでした。

ほんと、仕事帰りにとても良い時間を過ごせたと思います。

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