カニクラ「おやすまなさい」、ボーダーをさまよう甘美な時間
2009年3月21日マチネにて、カニクラVol.01、「おやすまなさい」を観ました。会場は五反田アトリエヘリコプター。
カニクラは川田希と宝積有香のユニット。Vol.1と言いながら今回3度目の公演だそうです。(Vol.0とVol.0.5を経ての今回公演)。私は初見。
会場に入ると対面舞台で4列の客席が左右にそそり立つ感じ。満席というわけではなかったですが、8割以上の客席が埋まって芝居がはじまります。
(ここからネタばれがあります。十分にご留意ください)
作:前田司郎 演出:岩井秀人
舞台には布団、ちゃぶ台に近いようなテーブル。読み散らした雑誌雑然とした部屋・・・。
闇の中のままで開演。声がします。やがて淡い光が舞台を照らして・・・。そこから、眠ろうとする人と眠れない人の、ちょっと不毛にも思える会話が始まります。
ひとりは頭が痛いと眠ろうとする。ひとりは眠れないまま時間をさまようかんじ。目覚めさせようとする人と眠りに戻ろうとする人。駄弁ともおもえる会話がゆっくりと場内を満たし始めます。
羊の数え方のおもしろさ。キャベツを紫にするはなし・・・。そのうちに眠ろうとするものの眼も醒めてきて・・・。
海を暗示するものが部屋にはいっぱいあることに気がつく・・・。貝、ヒトデ、・・・、。
まるで、闇に眼が慣れてくるように聞こえてくるもの。二人の女性たちのとりとめない会話が時には弾み時には途切れ・・・二人の話は際限なく広がりそうで、でもどこかに吸い込まれてもいくようで・・・。
そこにみえてくるのは眠りと覚醒の境界線。そしてその間を揺れながらただよう夜の長さ・・・・。コンビニへ生を観にいくところから死のイメージまでを上下のボーダーにして浮いたり沈んだりしながら時間を漂っていくような・・・。理性がまさる時間と土にまで帰る死の領域・・・。どんどん増えていく貝は生きているような、あるいは死んでいるような・・・。外側から不思議な歪みをもって語られる光景。海の底でゆらぎたたずむようなイメージが空間全体に広がっていきます。
逃亡するサザエ・・、毒を振りまくエイのジレンマ・・・、目の前で牛乳を飲まれる牛・・・。物語全体に広がっていく話がいくつもあって。夢と現実を跨ぎながらステップを踏むようなイメージがいくつも語られて・・・・。やわらかくやってくる閉塞感と孤独感、呻き、諦観・・・・・・、そして慰安。それらは、すごく細密な未明のまどろみのスケッチのようにも思えて・・・。
役者の二人の演技にはしっかりとした技量と安定感がありました。眠れない人を演じた川田希にはさまざまなイメージを語るに足りる瑞々しさがありました。宝積有香はしなやかに影を作り、川田の演技に色を与えていく・・・。ふたりとも演技にゆとりというか広さがあって、観客が同じ感覚を包み込まれるように受け取れる感じ・・・。
彷徨しその行き着く先、眠ってほしくない時のあいさつとして芝居のタイトルが語られて・・・。溶闇する舞台にすっと静寂がやってくる・・。
ライトが明るくともったカーテンコール、すっと夢から覚めたような心持ちで拍手をしておりました。
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終演後、青年団の柴幸男氏と出演のふたりでのトークショーがありました。
舞台の説明があったり、ちょっとした裏話があったりで、観客が本編で受け取ったイメージに厚みを持たせてくれて・・・。なんでも、前田司郎の脚本ではここまで死の匂いはないのだそう。岩井秀人の演出が広げていったのだそうです。
すごく手作り感のあるトークショーだったのですが、作品の理解も一段と深まって・・・。とても実のあるアフタートークだったと思います。
ちなみに、カニクラの次回は柴幸男の作・演出とか・・・。これは楽しみです。
会場を出てみると雨がすっかりあがって気持ち良い青空。それは夢から覚めた朝のようにも思えて・・・。
春めいた風にふかれながら大崎までの道をぷらぷらと歩いたことでした。
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