mixture#1 実直な見せ方に浮かぶ差異
3月18日ソワレにて、空間ゼリーLabo Vol.4、mixture#1を観てきました。3人の作家による30分程度の短編戯曲を深寅芥が演出するという企画、場所は池袋GEKIBAです。
(ここからネタバレがあります。十分にご留意ください)
前に3列ほどのベンチシート、後ろにいす席があります。場内は満席、手作り感のある舞台でのドラマの始まりを待ちます。
全作品の演出 : 深寅芥
「らくがき」 脚本 山本 了
保育所の職員室が舞台。先生と親たちの風景が描かれていきます。モンスターペアレンツの姿、保育士たちどおしの連帯感、それぞれのプライベートな部分・・・・。物語を広げるというよりは、一つずつのアイテムが順番に提示されていくような感じ。
個々のアイテムが繋がるときに観客にやわらかい物語のふくらみが伝わってきます。スムーズというわけではなく、曖昧にエピソードが引っかかっていく感じ・・・。強いインバクトがあるわけではないのですが、でもなにか残る・・・。物語の実存感からふっと枠を越えたようにやってくる個人間の関係性にやわらかく息を呑んだり、保母と母親双方の苛立ちに浮かぶ谷間のようなものや女性と保母のボーダーのあいまいさなどが、実直なトーンで積み上げられていきます。舞台全体のトーンとは裏腹に、日常のなかに何気に常態化した非日常の感覚がゆっくりと観客に降りてくるかんじに惹かれて・・。
終演後の場面転換のときには、舞台の場に居合わせた感のなかに見える登場人物の想いをそれぞれの肌ざわりで感じていた事でした。
出演: 平田暁子・西田愛李・川嵜美栄子・桜井せな・鈴木智博・宮ヶ原千絵・江賢
「2008年11月。」 脚本 今村圭佑
徹夜仕事のなかで、ふと思い出す過去。仕事にすこし煮詰まった今がすっと昔の記憶へとスライドしていく。「永遠」と「奇跡」、二つの要素が重なり合うところにある一つの風景・・・。
それは、特別な時間ではなく、まるで山のように重なり合った時間から現れたひとひら・・・。でも、男女二人の友人と共に過ごした最後の時間でもある・・・。
友人たちとの最後の思い出、どこかもてあましたような時間のトーン、3駅分も歩いた疲労感・・・、たわいない会話、会話、会話・・・。感慨もなく過ごす3人が醸し出す時間の密度が絶妙なのです。それらの時間が永遠と奇跡の重なりにあることを知らしめる二つの概念の硬質で機械的な台詞回しの秀逸さ。やわらかく広がるその時間へのいとおしさが「今」をすっと染め替えていくことに、観ていてなんの違和感もない。まさに、観客もろともにその世界に引き入れられる感じ。
でも、物語にはさらには奥があって・・・・。後輩の女性と徹夜をしている「今」もまた永遠と奇跡の交差点になりうることへの暗示から、観客の視野がすっと人生の大きさまで広がっていく。昂ぶることなく、不必要に醒めることもなく演じられていくその気付きは、絹のような質量で観客を包み込んでいく。
戯曲のすばらしさにも心を惹かれましたが、それを舞台の上に具現化していく細かい技量にも感心しました。前述の「永遠」と「奇跡」が醸し出す概念の半透明感、雨や踏切などの音の使い方のインパクト・・・。それらのひとつずつが、演じられる時間の背景に強い実存感を与えていくのです。その実存感があるから概念があいまいにならずに深く鋭く観客を捕らえる・・・。
次の作品までの舞台転換の間、ずっとその余韻に浸りきってしまいました。
出演:中村卓也・日向小陽・川添美和・岩田博之・大川智弘・大城麻衣子
「パンドラ」 坪田 文
冒頭のモノローグで語られる梅干のエピソード。味はあるのですがすっぱさがまずイメージによみがえり、さらに食べてもすっぱいというところがこの物語を暗示して・・・。
昔、学食で偶然出会って、そのまま仲間になったという6人の男女。冒頭の男がロンドンから帰ってきてみんなに話があるというので呼び集められます。場所はサービス最悪な居酒屋・・・。その雰囲気の悪さにいらだつ仲間たち。しかも男は遅れてやってくる・・・。
その男のアクの強さの表現がすごくよくて、それゆえにメンバーたちの彼への距離感がすごくナチュラルに感じられるのです。役者たちの演じる人物の内心がその男が放つ個性に照らし出されて鮮やかに浮かび上がってくる。男の持つ価値観のゆがみや偏屈さ、他の心情を省みない無神経さ・・・。それらが個々に表現されるだけでなく、ランダムに融合して男の風情が醸成されていく・・・。その表現の豊かさから、集まりから離脱していく(要は帰ってしまう)他のメンバーの心情も、「ある理由を持って」という以上に交じり合った色で伝わってくるのです。心情だけでは割り切れないような感情の色が絶妙に加味されて、メンバーそれぞれの男への想いにステレオタイプではないなにかが浮かびあがってくるのです・・・。
旨いなあと思う・・・。
最後まで残った女と、男の会話が実に秀逸。なんというか、物語の枠からさらにはみ出したようなユーモラスさすらあって・・・。居酒屋の店員の対応も後半になって物語に緩急をつけていく。
まあ、本来の空間ゼリーコンビでの作・演出ですから、演出家にもちょっと遊び心が加わったのかもしれませんが・・。作品のもつ色の鮮やかさに目を奪われたことでした。
出演:半田周平・岩田博之・成川知也・西田愛李・二川原幸恵・奥山すみ玲・江賢・平田暁子
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短編集のような演劇としては、今年だけでも4×1hProject、15MINUTES MADEと2本観ていて、どちらもとても印象の強いものでしたが、今回のmixture#1には、また別のテイストを感じました。4×1hProjectは、演出家や役者の作品の色づけの仕方というか表現に魅力があったし、15MINUTES MADEでは時間という枠に集約された表現の力に面白さが合ったのですが、今回は同じ演出家ということで、舞台に現れる戯曲のテイストの違いやそれぞれの作品に対する演出家の創意工夫の仕方が面白くて・・・・。
アフタートークでは、今回の作品を書いた3人の作家が登場。それぞれの作劇の仕方や、15MINUTES MADEの作品と今回のような30分作品の尺の違いによる作り方の違いなどの話題がでて、それも興味深かったです。
このシリーズ、mixture#2以降も実施したいとのこと、また今後の楽しみがひとつ増えました。
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