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faifai「MY NAME IS I LOVE YOU」言葉の表現力>語学力

3/8 マチネにてfaifai「MY NAME IS I LOVE YOU」を観ました。会場はGOTANDA SONIC.五反田から歩いて5分ぐらいのところにあるビルの一回です。

建物の前で受付をしてもらい、閉ざされたシャッターの前で並びます。ありそうでなさそうな開場待ち時間・・・。曇り空だったのですがなにかほんわりうきうきとした感じがする。外国人の方もちらほら、この公演のリピータをされている方もいらっしゃるみたい・・・。

(ここからネタバレがあります。十分にご留意の上お読みください)

開場時間になるとシャッターがあがっていきます。ウィンドウにはハート型の折り紙がたくさん飾ってあって、その一つをとって下さいと言われる。それが公演のパンフレットになっているのです。なにかとてもキュートな感じ。

場内のベンチシートもなにか手作り感があって。場内のディスプレイにもポップな感性が満ちていて・・。ステージを2方向から囲むような客席。舞台の背後には大きなレンガを組み上げたような壁、よくみると段ボールの箱を白っぽく塗ったものが積み上げられています。

しばらくの間は客入れタイム。フレンドリーな感じでスタッフが観客を誘導していきます。英語と日本語が適度に混じったりして・・・。なにか雰囲気が良いのです。そして舞台が始まる前の前説が始まります。今回のパフォーマンスは英語がメインになるということで、日本人に対して基本的な内容を説明するという。これがすてきにぐだぐだで・・・。英語がたどたどしかったり、説明にあやうさがあったり・・・。それと伝えようという意志のギャップが空気を作る。スムーズではないし英語的にはちょっと違っていても方向性に狂いがないみたいな、自由度の高さというか居心地のよいルーズさ・・・。それは言葉ではなくパフォーマンスだから作れる雰囲気でもあるような・・・。

やがてライトが落ちて本編が始まります。作:北川陽子、演出:篠田千明

テクノカットにしようと美容室に行こうと思った青年のモノローグ。9.11並みのすごい衝撃をうけたという。怪我をした鳩を見た話・・・、脳が割れてピンクのものが半分見えているけれど、それでも鳩は生きている。そこから渋谷の街の出来事へと導かれて・・・。全てロボットのダッチワイフや半分人間のダッチワイフ、さらには風俗を生業とする男によって、性と愛情と金銭のバリエーションが語られていきます。さらには未来からやってきた人間の女性の感覚までが織り込まれて・・・。それらのダッチワイフを操る男は未来にいって渋谷に大学を作るという・・・。冒頭の青年は愛と性を結び付けられないまま、男から女性を買おうとしたり・・・。

女性がボイスチェンジャーを使いながらひとりでク・ナウカよろしく男女のセリフを英語で語り上げて、それが物語の表層や骨格を作り上げていく。そこにコラージュされていく役者たちの身体表現や日本語でのつぶやき、さらには叫びまでが、次第に英語で語られていく物語のコアを包み隠すように厚みを持ちはじめて・・。その中に男女間の想いのすれ違いやギャップ、半分人間の少女の満たされなさまでもが次々にすかし絵のように現れていきます。英語で語られるセリフと役者が語る日本語の乖離から生まれるニュアンスの生々しさ。登場人物の具象化する世界が次第に瑞々しさを増していく。

終盤、半分ロボットで半分人間の女性の想いが語られようとします。でも、そのたびに雑踏のようなノイズに言葉が削られていく。観客は女性の想いを半分抱いたままそのノイズと映像に弾き飛ばされて次第に街の光景を俯瞰するようになります。そして、性のロボットと性を売り買いする男、未来から来た女性、さらには主人公ともいえるロボットの性と人の心を持つ女性の感情が無数に埋もれた街の景色を想い、ダッチワイフの感情の普遍性に目を見開くことになるのです。

役者のこと、まず「半分人間のダッチワイフ」を演じた大道寺梨乃が圧倒的。身体的な切れのなかに織り込まれた想いの出し入れがとてもしなやか。表面的な表情を安定して作りながら内側に宿るせつなさで観客の心を浸潤していました。また、「ロボットのダッチワイフ」を演じた野上絹代の身体表現には大道寺の切なさを際立たせるようなドライさがありました。「未来から来た大学生役」の中林舞には表現の厚みがあって、キャラクターの持つ愛情を十分に表現していたよう思います。

「テクノの好きな大学生」を演じた天野史郎の滑らかな身体にも瞠目、身体をかたげることによって現れてくるニュアンスがしっかりとあって。「風俗で生計を立てている男」を演じた山崎皓司のパワーはロボットや女性をコントロールする秩序にしっかりとした裏付けを与えていたように思います。またVoice(英語での語り)を演じたOlga NAGIの演技はクールかつ着実で、舞台の骨組を安定して支えていました。

舞台美術もよかったです。前述のとおり、ダンボールを白っぽく塗りレンガのブロック然と積み上げたその壁面の荒さというかルーズさのようなものから、役者たちの演じる世界のあやうさを感じられる。、その積み上げ方やひとつだけ箱を塗り残しているあたりが、物語の香りしたたかに醸成していて・・・。また、大きく描かれている2匹のハチ公にも程よいインパクトがあって。佐々木文美氏は先日の4×1Hourやキリンバズウカの美術も担当していた舞台美術家、彼女の才能は一つの境地を築きあげつつあるように思います。衣装や映像にも安定した秀逸さがありました。

終演後ボーナストラックがあったのですが、その表現もほんとうにヴィヴィッド・・・。篠田千明の台詞にのせた想いが、天野、山崎の身体の表現で大きく広がり、それが観客に下りてくるようで。

faifaiはこの夏、ハンガリーで公演があるそうです。言葉に頼らない今回のような作品はボーダレスに世界に受け入れられるような気がするし、このクオリティは今回のような言葉の使い方でも、いや今回のように言語をあやつるからこそ大きな広がりとして海外でも受け入れられるような気がする。

本編終演後Bonus Trackまでの間に何度も出演者の歓声が上がって、なにかよいニュースが快快にもたらされたよう・・・。(どこかに招聘された?)

フードコーナーのサングリアもびっくりするほど極上の味がして、このパフォーマンスも将来語り草になるような予感がして・・・。

本当にすごいものって今回のようにさりげなくやってきて、大きな何かをこそっとのこしていくのかも。たとえばこのパフォーマンスのように・・・。

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