15minutes made #5 カタログなんてとんでもない
3月14日ソワレにて、mrs.fictions主催の15 MINUTES MADE Volune 5を観てきました。開場は池袋シアターグリーンBOX in BOX THEATER。
6劇団が15分のパフォーマンスを競うというこの試み・・・、前回(#4)を観てすごく面白かったので、今回もだいぶ前から楽しみにしていました。
私にとってはバランスよく、本公演を見たことのある劇団が2つ、本公演を見たことはないけれど名前はよく知っている劇団が2つ、初めてお名前を聞く団体が2つ・・・。
2列目ほぼ中央、ほんの少しだけ下手側の席に陣取って・・・。なにか開演直前まで両脇の席がずっと空いていていたのですが、開演直前に左側、休息後には両方埋まって・・・・。
(ここからネタバレがあります。十分ご留意ください)
開演の15分前に主催者側からのとても好感度の高いあいさつがあって、舞台横に置かれた15分計が動き始めるのは前回と同じ。ただし時計が前回よりこじんまりした感じがしたのですが錯覚でしょうか・・・。それと、ちょっと残念なことに前回少し見にくかった(暗かった)上手奥のスクリーンは今回も同じようかも・・・。
とはいうものの、前回とはまた違った舞台デザインに目を惹かれて、わくわく感いっぱいで開演を待ちます・・。
Mrs.fictions 「松任谷由美物語」
客電がやや残された状態でギターを持った女性がひとり立ち・・・、故郷を離れるところから物語がはじまります。それは自らの状況を松任谷由美のデビューまでの物語になぞらえた、一人の女性の話。
どこか表層的な中に、どきっとするような女性の呼吸を感じる。ステレオタイプなサクセスストーリーを仕付け糸で縫いつけるように語る中に自分の夢と現実のギャップを隠しているような、その淡々としたところが不思議にヴィヴィッドで・・・。
警官の持っているデビル槍がとても嘘っぽくてよかったり・・・。同棲中の風景に流れる「チャイニーズスープ」のまったりとした生活感もとても効果的だったと思います。それと、無音のオーディションの何十秒にとてもひきつけられて・・・。
物語の行く末はなんとなく放置されているのですが、その中途半端な行き詰まり感にこそリアリティが眠っているような感じもしました。
【作】岡野康弘
【演出】生駒英徳
【出演】岡野康弘、夏見隆太、松本隆志、大澤夏美、阿部恭子、川口聡、鈴木啓司、
The end of company ジエン社 「私たちの考えた終わる会社の終わり」
全編、ある種の空気の重さに支配された舞台。死んでいく会社に対する熱のようなものが登場人物によってバラバラにずれているところに、なんともいえない雑然とした閉塞感が浮かんでくる。そこはかとない社長の甘さやそれぞれが自分の立場でしかものを考えないような姿が折り重なって。
ベクトルを失った登場人物がさまよい、全体像がつかめないような苛立ちがうまく醸成されていたとは思います。またそれぞれにすれ違う女性たちに囲まれてなすすべのない社長の周りで「竜胆湖xxx」だけがぴたっと整合するところが妙に生々しくて・・・。
ただ、しいて言えば、表現力がさらなるものを引き寄せるには、もう一味何かが足りないような気がするのです。それがないから舞台上に構築された感覚になにか不要なよどみのようなものが浮かんでしまうような・・・。まあ、そのよどみも味のうちといえばそのとおりなのですが、たまたま私にはちょっと馴染みにくいテイストだったように思います。
【作・演出】作者本介
【出演】伊藤淳二、片飛鳥、萱怜子、中舘淳一郎、本山歩
MOKK 「case_1」
ダンスプロジェクト。ろうそくの炎が消えるシーンが最初にあって、そこからダンスが展開されていきます。鋭さを内側に折り込んだようなやわらかくしなやかない動きは、観客に対して挑むのではなく、観客のなにかを共振させるような強さを持っていて・・・。
それは、人とのつながりを具象化したものにも見える・。もたれたり、たよりあったりひっぱったり・・・。ダンサーたちの柔軟で微細な動きが、観客のイマジネーションを起こし、もみほぐし、絞り出していくような感じ。
ふたりの関係、3人の関係・・・、社会、新たに入ってくる人たち、共に時間を過ごす人たち・・・。それは15分の時間を枠組みにした窓から眺める人生の俯瞰にも思えて・・・。観ている方がぐいぐいと舞台に吸い込まれていく。
きちんと重量感があるのに刹那のようにすら感じた15分に魅了されてしまいました。
【出演】松元日奈子 手代木花野 寺杣彩 久野詠子 片ひとみ
intermission
青☆組 「恋女房」
お茶の間家庭劇かと思いきや・・・。
一夫多妻の生活の馴染み方に少々戸惑ってはみたものの、そうめん(冷麦?)が出てきた時点でその下世話さが持つ蜜のようなものに取り込まれてしまって・・・。
保険の営業マンを2代にわたって取り込み、さらにちょっと修羅場っぽくやってきた前の営業マンの奥さんまでも食虫草のように引き込んでしまうその家の雰囲気・・・・。観客にまで伝わってくる慰安の香りに、まるで甘い毒をなめるようなためらいと誘惑を感じてしまう。
なんていうのだろう・・・・、他人の家の匂いが自分の衣服につくような違和感を感じるのですが、一方でその違和感の先にあるものに取り込まれてみようとする自分を拒絶できないような感覚もあって・・・。
これ、なにげにけっこう凄いかもしれない・・・。
ぞくっと来てしまいました。
【作・演出】吉田小夏
【出演】木下祐子、藤川修二、松本享子、野中さやか、荒井志郎、中村真生
東京ネジ 「再開」(夏目漱石「夢十夜」第一夜より)
去年上演された「みみ」という作品が常ならぬほど印象に残っている劇団・・・。
冒頭の夏目漱石の「夢十夜」はものすごく昔に読んでいて記憶にもあったのですが、舞台上に描かれるとその世界をくすませていた魔法が解けたように新鮮な感覚がよみがえってきて。物語のもつ切なさをそのまま残して、ぬくもりと瑞々しさがゆっくりと客席を浸潤していきます。
時の流れに褪せない想いのようなものが、舞台から一呼吸おいて広がってくるのを感じて・・・。
それがアルゼンチンにいってしまった幼馴染を思う3人の女性のありふれたおしゃべりに重なるうちに、小説の世界と日々の風景がすっと溶けあっていく・・・。
佐々木なふみには、観ているものをすっと表現する温度に染めてしまうようなオーラがあって、東から昇り西へと沈む太陽の営みの繰り返しの下で芽生えたものへの感覚が、まるでおいしい水に渇きがいやされるごとく心に染みいってくる。
佐々木香与子、佐々木富貴子の鏡を隔てたような動きや会話も瑞々しくて・・・。
役者たちは終演のあとに、「またね」といって三方に分かれて舞台を降りるのですが、このなにげない一言にもやられた・・・。
こういう心の満たされ方って、ほんと、すごく残るのです。
【作】佐々木 なふみ
【演出】佐々木 香与子
【出演】佐々木 香与子、佐々木なふみ、佐々木 富貴子
DULL-COLORED POP「15分しかないの」
一つの人格を複数の人間が演じていくという手法は、最近いろいろなバリエーションで試みられているような気がしますが、この作品には他にないような斬新さがありました。
洗面所で鏡を観ているときに現れる自分の内心、仕事に追われぎりぎりの生活の中でわずか15分しか残されていない就寝前の自由時間・・・。
その中で自分を律しようとする想いと自分を解き放とうという想いが本人自身をはさみこんで具現化されていきます。
その15分間で何をしようかという迷い・・・、単純に想いが対立するのではなく、時にはユニゾンになったり、英会話のレッスンのように時系列に流れて行ったり・・・。意識と無意識の濃淡もしたたかにつけられて、そこに瞠目するような瑞々しいリアリティが現出していきます。くっきりとしたトーンの舞台、3人の女優たちの引き締まった芝居が3つのシグナルのように小気味よく色を発して、刹那ごとの彼女の感情から滲みを取り除いていきます。
そのデジタル画像のような解像度が元彼からの電話を受けた時に生きてくる。心の揺れや迷いが、3つの色によってあいまいさを廃して表現されていくのです。多数決のように動いていく心から、キャラクターの想いが鮮明に伝わってくる。一瞬多数決を超えた言葉から、彼女の理性を超えた感情がやってきて息を呑む。そこには驚くほどにピュアな一人の女性の内心が浮かび上がって・・・。瞠目しました。
観ている側に高揚感をあたえるほどに秀逸な作品だったと思います。
【作・演出・音源製作】谷賢一
【出演】堀奈津美、桑島亜希、境宏子、千葉淳
アフタートークもおもしろかったです。青☆組とMOKKの主宰(吉田小夏さん)・代表者(村本すみれさん)それぞれの魅力が塩梅良く引き出されていて・・。MOKKのHPを観にいくしっかりとした動機付けにもなって、コンテンツの映像作品にもはまってしまいました。
ほんと、良い試みだと思うのですよ。全体を通して作品自体のクオリティの高さにも感心したし、本公演を逃したくないと思った劇団も複数あったし・・・。
ただ、今回のレベルを維持しそれ以上のものを作りだすのは結構大変かも。今後は単純にレベルを上げるだけではなく、きっといろんな角度でのバリエーションも考えた作り方が必要になってくるのだろうなどと、観客の分際で老婆心ながらも思ってしまった事でした。
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