自転車キンクリートSTORE「29時」大人のコメディ
1月31日マチネにて自転車キンクリートSTORE「29時」を観ました。作・演出は飯島早苗。場所は廃館が決まっているシアターTOPS。ちょっと遅めにいったらほぼ満席・・・。周りのお客様の年齢層は割と高め・・・。こうしてみると暖かさがある良い劇場だなと実感。大きさも実に手ごろな感じで・・・。
この劇場、本当にいろんなお芝居を観ました。ちょっと郷愁を覚えながら開演を待って・・・。そして、なんとも上等なコメディの幕が開きます。
(ここからネタばれがあります。十分にご留意ください)
物語はとあるマンションの一室、一人の男が窓際にカメラをセットして何かを狙っている・・・。そこに訪れる別な男・・・。話がかみ合わないままにさらにイケメンの男が現れて・・・。さらに話が混沌とするなかで最後に40半ばの女性がジョギングから帰還・・・。次第にシチュエーションが明らかになっていきます。
そこにいるキャラクターたちの設定やシチュエーションが絶妙で・・・。他人のゴシップを追うことを趣味と実益を兼ねて生業にしている40代の男、何にも関心や愛情を持つことができない才能豊かな20代の若者、そしてそれなりに遊んだくせに家庭に縛りつけられているの30代社会人。女性は40代半ばの処女だという。ゴシップ好きの男は女性にその場所を借りてキラーショットを狙い、40代女性が翌日の友人の結婚式用のアニメを撮影する手伝いに呼ばれたのが二人の男・・・。
女性はアニメの作成中に挫折してしまいます・・・。結婚を祝福するアニメを作れないという。みれば机の上には惨殺されたウェディングケーキが・・・。
男性たちが彼女の気持ちを取りなしているうちに、さまざまなことが浮かび上がってきます。突飛な話、しみじみする話、滑稽な話。そのバランスというか物語の持って生き方がホントに上手い。飯島早苗は手練の手法で40代の女性の感情や恋愛への躊躇をタイトで豊かなエピソードを重ねて描いていきます。まるでオフブロードウェイのコメディを観ているよう。
女性の苦悩は同時に男たちが抱えるものを浮かび上がらせていく。誰もが自分が当事者となる辛さから逃げていること・・・。
戯曲が役者たちからいい出汁を引き出している感じ・・・。それがドロドロにならず、成熟した大人のコメディにまとめ上げられていて。男性のデリバリーとかホモセクシュアルなどちょっとディープな性が物語に織り込まれているのですが、一方で物語を腐らせない適度な善意が登場人物にあって・・・。世間のあるがごとくを絶妙にデフォルメした上品な中での下世話さがすごく的をついていて笑えるのです。
妄想シーンが何度か挿入されるのですが、その妙に白々しいアダルトさが鼻につかないところがまたよくて・・・。
また、主人公の女性の気持ちを一元的に定義していないところが舞台の懐を深くしています。今と過去を整理しないまま混在させて女性の想いにしているところに鮮やかなリアリティがあり男性達の心情を浮かび上がらせるトリガーにもなっていて・・・。その相乗効果がさらなる登場人物たちの一面を浮かび上がらせていく・・・。飯島の安定した筆力が観客をどんどんと物語に引き込んでいきます。
役者には文句のつけようがありません。堀越悦夫の得体の知れなさが物語を引っ張ります。意固地さにほんの少しの孤独が隠し味になっているのがよい。女性が昔彼を好きだったというサプライズにも十分に説得力を与えるバックグラウンドが作られていて・・・。塩田貞治もキャラクターにしっかりとした陰影をつけて、感情の薄いという青年をナチュラルに好演しました。デリバリーされるような世慣れ過ぎた部分と私生活のちょっと線の線の細い部分の不思議な調和に説得力があり、すぐれた洞察とナイーブな部分のアンマッチもすっきりと表現してみせる・・・。表面の繊細なお芝居のなかに中に骨太な演技力を何度も感じました。
櫻井智也はMCRの演技そのままにキャラクターを自分の手のひらに乗せて演じきります。その突っ込みの鋭さには客席の老若男女を総抱えにしてしまうようなふくらみがあって・・・。一方で本音をもらす姿に家庭でのよき夫や父のすがたがすっと浮かびあがる。彼自身の劇団での演技も秀逸ですが、客演の彼を観ていると役者としての天性が一層よくわかります。他の役者への絶妙なタイミングでの切り返しに客席をひっくりかえすことが何度もあって・・・。でも、その笑いには凛とした張りのようなものがあって、舞台の密度を決して落とさない・・・。よしんばそれが下ネタであろうとも、舞台を澱ませない力が彼にはあって、それが舞台の洒脱さにつながっていたような・・・。
歌川椎子は本当に久しぶりにみましたが、その演技力に衰えはなく、心情の微細な表現にはさらなる円熟を感じました。昔からずぶとさと繊細さを表裏にして演じるのが上手な女優さんでしたが、今回のような精神的カオスを表現するときの時の彼女にはさらに突き抜けたような力を感じます。以前と比べて多少体躯が丸くなった印象はありますが、台詞や動きの切れは抜群で、飯島が描く等身大の女性を手練の演技で演じて見せました。
最後に交わされる幽霊話はちょっと蛇足かなとも思いました。でも、一呼吸おいて考えるとその冗長な感じが29時のけだるさには妙に似合っていて・・・。2時間程度のドラマなのに、本当に徹夜をしたような奇妙な高揚やちょっとけだるい心地よさまで感じて・・・・。この一シーンで夜なべした時間の長さがぐっと伝わってくるようにも感じました。
飯島早苗が築き上げる物語に漂う彼女の慧眼やセンスのようなものに改めて惹かれ、役者たちの力に満たされて・・・。これほどまでに充実した空間を醸成してくれる劇場がなくなることに対するさびしさを覚えつつ、それでも大満足で見慣れた劇場の階段を下った事でした
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コメント
他って…なんだろう…?
投稿: BlogPetのr-rabi(ららびー) | 2009/02/04 14:31