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コマツ企画「汝、隣人に声をかけよ」個性の内側に引き込む力(ちょっと改訂)

2月7日ソワレにてコマツ企画「汝、隣人に声をかけよ」を観ました。冬の9と1/2俎板公演とのこと。コマツ企画は前回の「動転」がまさに観客を動転させるインパクトのあるお芝居で、けっこう次回をわくわく待ち焦がれていた劇団。今回は前回と異なる種類ではありましたが、やはり強いインパクトを持ったお芝居でありました。

(ここからネタばれがあります。十分にご留意ください)

作・演出はこまつみちる

対面式の客席、両側から見えるようにスクリーンが2枚。入口からみて舞台奥側にちょこっと机といす・・・。シンプルな舞台装置。

フライヤーとリンクするような映像が映し出され、役者たちが輪になって歩き始めます。映像上の言葉のやわらかさと音やしぐさに潜んださざめきのようなものにまずぞくっとさせられる。それは舞台全体がある種の質量に包まれる過程での重力のようにも思えて。

エピソードが次々と小気味よく演じられていきます。ボーイズバーの話、ボランティアによるリハビリ、踏切を待つ親子の風景、井戸端会議や会社でのおしゃべり、ゴミやしきの老人。スクリーンからの文字や舞台の空気と異なった視点での画像、あるいは内心の語り、舞台上での本音・・・、まるでシャガールの絵のようにいくつかのイメージや情報が一つの空間に現れる。個々のシーンの尻尾がところどころで次のシーンを呼び込むようにつながる部分があったり・・・。

シーンが重なるにつれて舞台の質感が観客を圧していきます。物語全体がみえるわけではなく、個々のシーンに驚くほどの重さがあるわけではない・・・。でも、それぞれのシーンにはニュアンスを伝えるいろんな針が内包されていて、観る者にしなやかに刺さっていくのです。不器用にすら思える人とのつながりの仕草や、いきちがいや本音の言葉が、時にはかるく、時には軋む音のように伝わってきます。

目が離せずに舞台を見つめていると、再び役者たちが輪になるシーンがやってくる。この表現がすごい。規則的な中に人が生きていく上での他の人間とのかかわりを想起させるような明確なトリガーがあって、気づいた瞬間あっと息を呑む・・・。

で、個々のキャラクターが抱えるものがダイレクトに観客を浸潤し始めます。エピソード間のくっつき感とばらつき感が絶妙で、いくつかの物語が不規則につながる中で個々のキャラクターの色や思いがまるで何かに抽出されるように滲みだしてきます。男女の会話の微細なニュアンスからごみ屋敷の内側の不思議な感覚までがダイレクトに観客にやってくる。宗教の勧誘などを切り取る視点の鋭さと表現の秀逸さに目を見開き、女性たちの個々の心情にもそのままうなずいてしまうような説得力を感じて・・・。

それぞれの個性から、透明度のあるニュアンスがあふれ舞台を浸潤していきます。抱えきれないほどの個性たちの広がりが舞台上を支配して観客はその中に引き込まれてしまうのです。

終盤のシーンにも目を見張りました。キャラクターが個々に別な歌を歌うそのノイズ感がまた圧巻。示唆に溢れたそのシーンがとても衝撃的で・・・。

そして歌が同じものに収束して再び役者たちが輪になる時、かすかな違和感を凌駕していくような安堵感がやってきてふたたびぞくっとするのです。

ラストの男女の風景にも、ひとつの歌への収斂に感じたのと同じ感覚がやわらかく湧き上がってきて・・・。かすかなためらいを打ち消すような会話のさりげなさに、何かが解き放たれたような不思議な気持ちが下りてくるのです

役者たちの演技も見事にコントロールされていました。個々のキャラクターから埋もれてしまいそうな表層の部分とどこか突き抜けた瑞々しい部分が表裏のように伝わってくる。奥野亮子、相馬加奈子、横山真弓といった女優陣からすっと浮かぶ内心にはそれぞれが抱える底知れぬ深さが感じられて。それも極端に色が染まるわけでなく中間色の演技の中に深淵の色が垣間見えるような。実に好演だったと思います。また、平間美貴の薄皮で隠されたような好奇心の表現もとてもヴィヴィドで強く印象に残りました。

男優陣には舞台の枠を固める力量がありました。東谷英人末原拓馬などの作る空気にはくっきりとした色があって、なおかつシーンの外枠を決める力みたいなものがあって・・・。成川知也は抑えめの演技ながら場面のトーンをしたたかに作り上げていました。特に女性を宗教に引きずり込む演技がつくりだす舞台の密度には包み抱くようなしなやかさと説得力がありました。

森田祐吏が演じた高校生が持つ従順さには実在感があって物語に肌理を与えていました。彼の演技からはその高校生の日々がふっと見えるような感じ。演じている時間につながる平らな前後までが見晴らせるというか・・・。台本のうまさもあるのでしょうけれど、抑えた演技でそれを表現する彼の力に北京蝶々の舞台時同様の非凡なものを感じたことでした。板倉チヒロはクロムモリブデンに加えて先日のカムヰヤッセンの父親役が非常に印象に残った役者ですが、今回は彼の個性がぐっと前に出る演技でした。狂気やずれを演じる時に芝居を軸ごと自分の領域に引っ張り込むような力が彼にはあって、その持ち味がうまく生かされていたように思います。

コマツ企画のメンバーの演技も光ります。こまつみちるの演じる母親には他の女性とは異なる分厚さがしっかりと作り込まれていました。演技の足腰の強さに高校生の子供を持つバツイチ主婦の実存感が降りてくる感じ。しかも繊細な心の揺れやコアから溢れるようなものがきちんと見える秀逸な演技でした。本井博之が演じるおじいちゃんは頑固さからぬくもりまでのシームレスな感触が実に秀逸。ボーイズバーの店員を演じているときの間にも空気をコントロールする力量を感じました。浦井大輔が演じる亮子の旦那が奥さん達の来訪を避けて寝ようとするときの描写の細かさに感心。大ちゃんのキャラクターにも有無を言わせぬ存在感がありました。川島潤哉が演じる市会議員のプライドや責任感とどこか投げやりな部分の揺れが醸し出すリアリティも目をひきました。

これだけの役者が演じる世界たちが、舞台に広げられて、しかもその個性が物語に塗りつぶされることなくそれぞれの形状を保ちながら一つのベクトルにおさまっていく。それはもう、魔法を観ているようにも思えて・・・・。

「動転」の時と同じようなべたな感想で申し訳ないのですが、こまつみちるさん、やっぱり只者ではありません。そして動転同様この作品にも、何か底知れないものを感じる・・・・。

今回の作品にはちょっとちがうバージョンがあるようなので、何とかもう一度観にいきたいと思っています。

この劇団のお芝居、その場にいないと分からない面白さに満ち溢れているのです。

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