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猫の会「クツシタの夜」猫的配偶者の気まぐれ

1月30日ソワレで猫の会#2「クツシタの夜」を観ました。戯曲:北村耕治 演出:村田与志行

、場所は下北沢「劇」小劇場。天気予報には豪雨とありましたが、幸い大雨という感じではなく、傘をさした方がいいかな・・・くらいの霧雨。案外こういうお天気ってじっくりと芝居を見るのには向いているような気もします。

(ここからネタばれがあります。十分ご留意の上お読みください)

冒頭、その家にはいろんな人が集まっていて、ちょっと危ない雰囲気。どうやらご主人は留守みたい・・・。女優と映画監督がいたり小説家の卵がいたり・・・。奥さんは浮気願望・・・。ラフな集まりの中で浮気がばれそうになったり。一方で猫と地域の共生を目指す組織があって、その家の旦那さんがかなり深く関与しているらしい・・・。

物語はさくさくと展開していきます。時間の流れがさりげなく巧妙に表現されて、その中で様々なことがあっけんからんとドラスティックに動いていく。その家の奥さんは駆け落ちをしてしまったらしい。監督の映画はうまくいかないらしい。獣医の友人もやってくる。シーン間の時間は結構飛ぶのですが、状況がすっと観客に入ってきて基調になる舞台のトーンもそのままに維持されて・・・。

さらに進むと奥さんは戻ってきて女優としての活動を目指す。駆け落ちした相手の奥さんが猫のことでその家にやってきて、小説家は売れ映画監督は事件を起こし、・・・・。

冷静に考えると結構波乱万丈な人間関係なのですが、それが当然の成り行きのようにしらっと物語に吸収できてしまっているところにこのお芝居の個性というか作劇の旨さを感じます。まわりから見る大変な出来事も当事者にとっては結構受け入れられてしまうというそのギャップ、さらには個々の、他が見えていなさ加減みたいなものが、デフォルメなく平たく確実に伝わってきて・・・。

一方で、物語の中で語られる猫たちの生態とその家の夫婦やその他の人間関係が、どこかオーバーラップするところも面白い。くっついたり離れたり放浪したり・・・・。平穏に暮らしているように見える人間も、猫道を気楽にお散歩しているように見えるにゃんこ達も、いろいろあるんだなって・・・。

がんばって仕事を見つけてきた女優の奥さんが自分のことに興味を示さない旦那に切れる・・・、旦那は結婚時の約束でやめたタバコを再び吸い始めたこともばれて別居されてしまいます。一旦縒りを戻した夫婦のちょっと理不尽だけれど妙に納得してしまう関係性に芽生えたこの説得力はなんだろうか。そこには奥さんの駆け落ちの話が微塵も出てこなかったり・・・。奥さんがごろごろと甘える一方でそれは気に入らないと爪を立ててぷいっとどこかへ行ってしまう猫の生態と重なり合い、なにか納得できてしまう・・・。

さらに、蝗の大群の描写と大量に狩られた猫の行方が見えないという話がベールのように物語全体をやわらかく覆って、今という時間やその家の出来事にやわらかい陰影をつけて・・・。暗転時に照らし出される猫の像も効果的。猫道から通行人・・・じゃなかった通行猫の感覚でふっと人間ががたたずんでいる今を外から眺めるような感覚があって。

いくつかもことをバランスよく重ね合わせて、力まずに今を観客に差し出すような語り口になにか魅入られてしまうのです。結果、観客の心に不思議な共鳴を誘発するような佳品に仕上がっていたように思います。

役者のこと、旨く表現できないのですが、良い意味で個々の役者から観客にやってくる質量に統一感がなくて・・・。そのばらばら感が見事に効を奏していたような。

一番印象が強かったのは大庭智子、彼女のリズムには他が相容れないような個性があって、目が離せませんでした。大塚秀記はナチュラルなのですが他の役者に比べて表現の画素がすこし多い感じ。やわらかい台詞の中にも苛立ちが何層にもわたって積もっている感じがダイレクトに伝わってきて。用松亮はテンションが微妙に強い。増井太郎は感情の加速度が若干とんがっている演技。これらの役者たちが流れの中にしつらえられた岩のような感じで、ドラマにアクセントをつけていく。一方高橋結子、高島七海、澤唯といったところは若干控えめな表現のなかにドラマの流れをつくっていく。増井太郎にもある種の味があって・・・。

そのようにして作られた流れの中で、その家の旦那を演じた畑雅之はキャラクターの持つ生真面目さをしたたかに表現していました。一方妻を演じた石井舞には流れに足をつけても色を染められないようなしなやかさがあって。彼女の表現する猫性にはあとからじわっとくるような魅力がありました。

この作品、奇妙な表現ではあるのですが、それぞれの個性や色がうまくずれあって、物語のトーンが不必要な重さを持たずに組み上げられていたような。それが出来る力量を持った役者さんがそろったということだろうし、まさにそれは演出の力でもあるのでしょうけれど・・・。

なにかクツシタ(猫・一時行方不明)の行く末とその夫婦の後日談をちょっと覗き見したくなるような・・・。そんな余韻をおみやげにいただいて霧雨の中を駅まで急いだことでした。

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