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4×1hProject #2作り手側の真摯さと熱と

1月25日ソワレにて、4×1hProject #2を観てまいりました。演目は「月並みなはなし」と「ソヴァージュばあさん」。

場所は新宿シアターミラクル、100席弱の劇場です。先日ワークインプログレスを観た黒澤演出の「ソヴァージュばあさん」と、どうなるのだろうとわくわくの中屋敷演出による「月並みなはなし」の豪華2本立て。

(ここからネタばれがあります。十分にご留意ください)

開演前にちょっとした工夫があります。役者とおぼしき人が冬の木立を連想させるような舞台にパネルを張っていく。木立の裏側には人影があって、なにか舞台を覗き見ているようにも見えて・・・。やがてその場はパネルに囲まれて近未来のある場所に姿を変えて・・。

☆月並みなはなし

作:黒澤世莉 演出:中屋敷法仁

ハンデをもらったというわけではないのですが、過去にこの戯曲の上演を観たことがあります。・・・(空ゼLabo 深寅芥演出)。それがずいぶんとこの芝居の理解を助けてくれました。

正直言うと、フライヤーのキャストを観た時にあれっと思ったのですよ。私が観たものよりキャストが明らかに多い。最初はダブルキャストかなとも思ったのですが、そんな記述はどこにもないし。とすれば、新しい役がてんこもりで増えているのか・・・。

まさか、多くのキャラクター二人ずつ同時に舞台で演じられていく仕組みだとはおもってもみませんでした。こういうのはなんて言うんでしょうね・・・、ツインキャスト???

近未来、初めての月への移民に応募してNGだった人たちの残念会、次々に現れるメンバーたち・・・。姉の結納に来て部屋を間違えたという女性(ミミ)がなぜかそこにいて・・・。

冒頭少しの間、舞台上に起こっていることの意味がわからなかったです。中屋敷メソッドで物語が語られ始める。メンバーが集まってくる情景、メンバーの一人の恋人が妊娠していること。ストーリーは予備知識の助けもあって入ってくるのですが、何故に舞台に現れた二人が同時に同じセリフを話すのかが理解できなかった・・・。

しかし、ミミの姉という移民局のスタッフ、ハナがブーイングを受けながら現れ、月への移住候補者に欠員ができたからチームから一人を月に行く代表者として選ぶようにと告げる場面あたりで、突然ルールというか舞台上にある秩序がすっと頭に入ってきて、ユニゾンで強調される物語のエッセンスに広がりと驚きが一度にやってきました。

役者が身につけた印というか記号がしっかりと機能します。キャラクターごとに、バンダナとかスカーフとか眼帯とかスカートとかは赤と黄色の色違いが一対づつ・・・。同じ記号をつけた役者たちどおしシンクロした演技で戯曲を伝えていく。観客を引きずり込むような硬質で早口のことばたち、身体の切れをもってデフォルメされた所作・・・、それらが二人同時に動くことでキャラクターの想いが強調される。

中央に位置するミミの存在も舞台の鍵のひとつ、ふたつのグループの中央に位置して前方と後方を行きかいながら耳を立て目を見開き、やがてグループの意思決定の投票にまで両手を上げて(ふたつのグループ両方に対しての挙手だから)関与していきます。そんな彼女に二つのクループが巧みにコントロールされているようにもみえて・・・。

後半になると、赤と黄色の間のシンメントリーな動きに乱れが生じてきます。時として赤と黄色の会話のタイミングがずれ始め、混乱すると赤と黄色が混じったりもする。でも、すべてはミミがしたたかにコントロールする枠の内側に収束して。駆け抜けるように代表が選ばれ、ハナが登場して選ばれた代表以外が移民として選定される。そしてあっけなく代表に選ばれた者だけが移民候補に選ばれ物語が終息していく。

終幕、拍手をしながら、中屋敷演劇に接したときにいつもやってくる駆け抜けたような充実感を感じて。で、気がつくと個々のキャラクターがしっかりと刻まれている。ます。なにか極上のキュビズムの絵を見たよう。

さらにそのあと、赤と黄色が同じようにたどり着いた結末に、この物語が、特別なものではないことに思いあたり・・・。 私がひねくれているだけなのかもしれませんが、登場人物たちにとっては特別な、移民に加わるための白熱した話し合いも、外側から見ると「月並みな」出来事だよという、中屋敷一流の鋭く醒めた感覚を感じ、やわらかくぞくっとしたり・・・。

役者は以下のとおり

浅見臣樹・石澤サトシ・江原大介・太田幸絵・大竹悠子・乙黒史誠・熊川ふみ・佐野功・猿田モンキー・椎名豊丸・二階堂瞳子・林佳代・星野奈穂子・緑川陽介・百花亜希・山本真由美

息を乱すことなくキャラクターを十分に表現した役者の方々はまさに猛者ぞろい・・。描かれるキャラクターの線の太さみたいなものがペアでしっかりとそろっていて・・・、それも躊躇しながら揃えているのではく攻めながらそろう感じがすごい。

中でもひと組だけツインカップルでないミミとハナの姉妹役を演じた百花亜希と二階堂瞳子の二人。オレンジの記号を背負うふたりは、なみいる役者たちの中でもひときわ目を引きました。百花の視線の強さ、まっすぐさ、さらには両手で耳を作るときの可憐さなどには常ならぬものがあって、でもその中にちょっと意地悪っぽい雰囲気をしっかり持たせて・・・。1×4hの前回で彼女が見せたいちこの演技も秀逸でしたが、それとは違った色で演じきる彼女の力にも舌を巻きました。二階堂瞳子は初見ですが、演技の懐がとてつもなくありそう。なにか底知れない力を感じた事でした。

それにつけても・・・、中屋敷氏の才、感嘆するばかりです。

☆ソヴァージュばあさん

作:谷賢人 演出:黒澤世履

21日のWIP(ワークインプログレス)にて拝見した作品です。

開演前には音楽が流れ、客電が落ちて最初は闇からのスタート。WIPのときより少しだけテンションを落とした語り口で物語が始まります。それはWIPのパフォーマンスから物語の視点を少しだけ変えてくれる・・・。一人の兵士の記憶として語られる北仏の風景が観客にも広がって、3人の兵士と一人の寡婦の物語が始まります。

物語の流れはWIPの時とまったく変わらないのですが、役者たちの演技はさらに豊潤に感じられます。役者たちの演技の肌理がさらに細かくなった感じ・・・。さらにLe Decoで体験した舞台に床の色、背景、照明、さらには兵士たちの衣裳が加わると、観ている側は役者の言葉を追うのに使っていた力をすこしだけ緩めることができて・・・、すると不思議なことに役者たちのせりふや動作がより深く観ている側に入り込んできます。

背景の映像が次第に舞台の時間を囲い込みます。少しずつ書き加えられていく部屋の風景の完成度が兵士たちとソヴァージュばあさんの関係の熟度とやわらかくシンクロして・・・。メトロノームの音がその時間に厳然とした実在感を加えて・・・。

上野友之はWIPのときよりも緩急をつけた演技で、舞台にしなやかなテンションを与えます。凛とした声や体の動きに物語の枠組みがしっかりと支えられて。坂巻誉洋からしなやかに伝わってくる兵士の素の人柄、短い台詞とさまざまな仕草から伝わってくるソヴァージュばあさんへの気持ちの変化が瞠目するほどにナチュラルで・・・。坂口辰平の表現する兵士のどこか愚直なところからも、兵士の占領した家での日々の感覚がすっと香り立つ。坂口が演じる兵士の心情の変化は、坂巻とも微妙に違う色にコントロールされていて・・・。

そこにソヴァージュばあさん役の菊池美里が表現するぶっきらぼうな暖かさが重なります。言葉、仕草・・・、いくつかのエピソード。菊池には兵士達の雰囲気が変化していくなかで、そのキャラクターの雰囲気をしっかり守り続けるような強さがあって。それは兵士たちに訪れた慰安の色を引き立てていたし、息子の訃報を聞いた時のかりそめの冷静さに大きな説得力を与えて・・・。終盤、台詞によって積み重ねられていくソヴァージュばあさんの心の色・・・。淡々とした口調に少しずつ質量を加え、やがては炎を導くに至る演技の秀逸さ・・、ほんとうに息を呑みました。

炎のあとの兵士のセリフのリプライズ・・・。冒頭のテンションの微妙なコントロールがここで生きて、縫物をする兵士とソバージュばあさんがその日々の記憶からやわらかく紡ぎだされて・・・。

WIPの時にも観終わって深い余韻が残っていたのですが、今回は、さらに奥行きのある余韻に浸り込んでしまいました。

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ちなみにこの公演は飲食自由ということでビールなどもロビーで売られていました。飲み物を飲みながらお芝居を楽しめる空間というのが今回のプロデューサーの菊地奈緒さんのこだわりなのだそう・・・。さすがに「月並みなはなし」の間に何かを嗜むというのは無理がありそうだけれど、今回のように休憩のあるお芝居などではその間に軽めのアルコールでブレイクというのもおしゃれな楽しみ方だなと思います。ブロードウェイやウェストエンドの劇場ってバーカウンターがあるところが多いですものね・・・。息をつめてストイックに舞台を凝視するだけが演劇の楽しみ方ではないはずだし・・・

造り手側がお芝居を楽しませるセンスや志を持った公演というのは、やっぱり魅力があるし良い作品がきちんと用意されている。今回の公演がよい証明なのだと思います。

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