ワークインプログレス 「ソヴァージュばあさん」 が導いてくれるもの
(この記事にはネタばれがあります。充分にご留意ください。)
1月21日夜、渋谷Le Decoにて ワークインプログレスとして、4×1h Project Play#2のうち「ソヴァージュばあさん」を拝見させていただきました。ワークインプログレスというのは、私にとって初めての経験。
そもそも、お芝居の制作現場というものを私はほとんど知らないわけで、何度も来たことのあるLe Decoなのに最初はなじみの薄い空間に足を踏み入れたようでなにかどきどき・・・。場内に満ちるやわらかいテンションを感じながら、席について・・・。演出や美術の方とお話をさせていただいたり、役者の方たちの動きや発声を見せていただきながら、やっとその場の空気に慣れてきたころ、役者の方たちがスタンバイ。
緊張感がすっと満ちるように高まり「ソヴァージュばあさん」が始まります。
舞台装置などはほとんどなし。途中から投射される画像以外は打ちっぱなしの床と壁。しかし、役者たちの秀逸な表現力は台詞と動きでたちまちそこに情景を作っていきます。それは魔法に近い・・・、冒頭の何行かの台詞を追っているだけで空気の匂いや温度までがフランスの田舎町へと塗り変わったように感られ、そこに登場人物たちが入り込む・・・。シンプルで豊かな表現から家が現れ登場人物たちが浮かび上がって。占領した家に暮らし始める3人の兵士と同じくらいの息子を戦場に送り出した1人の寡婦。
最初はぎくしゃくしていた兵士と寡婦。緊張が少しゆるみ、さらに時間の経過にしたがって登場人物間の空気が絶妙に変化していきます。動作、言葉、音・音・音・・・。ふんわりと積み重ねられていくエピソード。食べ物のこと、暮らしのこと、言葉のこと・・・。よしんば北仏でロケをした映画でもこの空気や温度は伝わってはこない・・・。観ていて物語に閉じ込められて、しかも、そのことにすら気が付かないほど惹きこまれる・・・、この人たち、凄い・・。
物語には伏線がシンプルに張られていて・・・、時が至り正確に機能します。トリガーが引かれて、淡々とした雰囲気に現れる物語の成り行きに息を呑む・・・。さらにソバージュばあさんの内なる想いが言葉としてやってきたとき、その感情の質感と、さらに奥に垣間見えた不可避で普遍的な部分に、観ている方までが行き場を失うような感覚に包まれて・・。
そりゃ、ほんの少しだけスムーズに追えない所や台詞の重なりはありましたが、それは演者も気付かれていたみたいだし、きっと本番までに修正されること。これに、舞台美術や照明などがはいり、なおかつ客席に闇が与えられると考えると・・・、これは本当に楽しみ。
このレベルの舞台になると、ただ物語を追うことだけが観客の楽しみではないのですよ。その物語に身をゆだね浸潤されることこそが演劇の場にいる客としての醍醐味。セコな芝居には観客がゆだねる部分がないけれど、この舞台には観るごとに膨らむような豊潤な世界がしっかりと広がっていて・・・。
原作:ギ・ド・モーパッサン 作:谷賢一 演出:黒澤世莉
出演 :上野友之 ・ 菊池美里 ・ 坂口辰平 ・ 坂巻誉洋
終演後、役者の方やプロデューサー・演出・美術・衣装などのスタッフ方とお話をさせていただいたのですが、これも観客にとってはとてもありがたく、また目から何枚か鱗が落ちたり・・・。本当に力のある方ってたおやかでしなやかなのですね。また、役者の上野友之氏が、実は先日拝見した「プリンに乾杯」の作・演出をされた方と知って思わず頭が下がったり(すごく印象に残っていたので・・・)
観る側にとって、このワークインプログレスは、作り手から作品を受け取るための、十分すぎるほどのコンテンツ・・・。
まあ、観客がそこまでのものをいただきながら、作り手側の方に少しでもメリットを差し上げられたかといわれるとその心当たりがまったくなかったりはするのですが・・・。おまけに、帰りにビール代を支払うのを忘れて帰ってしまったことに家に着いてから気がつく体たらくで・・・。申し訳ありません。本番を観にいったときに必ずお支払いしますので・・・。
べたな言い方だけれど、凄く良い体験をさせていただいたと思います。少なくとも一人の観客が本番でこの作品を従前よりずっと深く観ることができるようになったかと・・・。
ほんと、公演のある週末が半端でなく楽しみになりました。
R-Club
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