« ワークインプログレス 「ソヴァージュばあさん」 が導いてくれるもの | トップページ | 4×1hProject #2作り手側の真摯さと熱と »

métro「陰獣」もっと膨らむはず、きっと

1月23日ソワレにて観てまいりました。会場は神楽坂ディプラッツ。

métroは元宝塚の月船さららと元無名塾の出口結美子のユニット。今回が旗揚げ公演だそうで・・・。

客入れの口調などもどこか手作りでアットホーム。劇中のトイレはここを通ってと舞台の隅を指示された時には思わず吹いてしまいました。もしかしたら初日あたりにアクシデントがあったのかも・・・(そんなことはないか・・・)。

作は江戸川乱歩。演出・台本は映画監督として名高い天願大介

(ここからネタばれがあります。十分にご留意ください)

対面式の客席。後で知ったのですが、たまたまこの回はは俳優の佐野史郎氏をゲストにアフタートークが組まれていて、ちょうど舞台の向こうに座っていらっしゃいました。

冒頭の暗示的な部分があって、物語が始まります。ひとりの小説家の話と殺人の物語が並行にすすんでいくような感じ・・・。シャフルされたとも思える繋がりにくいシーンがやわらかめの暗転でつながれていきます。

一つずつのシーンでは役者たちにも力があってなかなか面白い部分もあるのですが、シーンがややぶっきらぼうに並べられているようにもみえて・・・。すこし乱雑にくり重ねられたカードを一枚ずつ見せられているような感じ・・・。

それでもエピソードがいくつかの塊になり始めると舞台には惹きつけられては来るのですが・・・。そこまでが以外に長い道のりで・・・。アフタートークで佐野氏がこちら側(私が座っている側の座席)で最高6人が寝ていたとおっしゃっていましたが、私も一瞬うつらうつらしてしまったかもしれません。記憶は全く飛んでいないつもりなのですが・・・。すっと別の世界に入りかけた時間があったかも・・・。

別に、時系列をきっちり守れとは言わないしランダムにシーンが並べられても構わない。一つの空間で二つの物語が進行していても驚かないのですが、個々のシーンの定義がわかりにくいのがちょいと辛い・・・。小劇場などでも最近は電光掲示板や映像すら使ったりするわけで、せめて一番外側の骨格だけでも観客側にしっかりと提示されていると、こちらも別の世界を垣間見なくてすんだかもしれません。特に背景がない今回のような対面式の舞台では、もう少し工夫があってもよかったかも・・・。

中盤、並行して描かれているように見えた二人の女性が、喪服をはだけ鞭に打たれるシーンひとりの女性として重なります。淫美の「美」が「淫」に侵食されていくようなそのシーン自体も圧巻、見ごたえがありました。ただ、その場面が持つ力がやや唐突に感じられるのが惜しい。というかこのシーンにいたるまでの積み重ねがもっと豊潤なものならば・・・。観客が思わず息をのむこの場面は、単なるお客様感謝のサービスシーンなどではなく観客が物語の本質を読み解くための鍵になるようなシーンであるわけで、その鍵を差し込むドアというか、そこに至るまでの舞台の密度がもっとあってもよいと思うのです。

後半、謎解きの部分になると、それまでの場面たちが撚り糸のようになって、物語が開けてきます。そうなると演じられている場所だけを温めていた役者たちの力が舞台全体にいきわたるようになる・・・。一旦謎解きにたどりついたあとの長い暗転とどんでんがえしは観客の心をぐぐっと舞台に引き入れていたように思います。でも、そこまでの一つずつのシーンが持つ質感という芝居を通しての密度が安定していないから、終幕の中で感じる「陰獣」の気配にはなにか飼いならされてしまっているようなものを感じてしまって・・。作品の内容からからすると、人の心のうちに潜むその獣はもっと猛々しく場内全体を凌駕するような力があってもよいような気がするのです。

役者のこと、丸山厚人の演技には胸板の厚さのようなものがあって、舞台の屋台骨をしっかりと支え切っていました。線の太い演技にも繊細な心の動きが観客に伝わってくるのです。細かくしなやかな演技の筋力のようなものを感じました。池下重大も好演、良い意味でフレキシビリティのある役者さんで、一見強さが先に立つような演技なのですが、そこにちゃんと華がある・・・。説明的になるような部分でも観客に押し付けるのではなく観客をちゃんと引き込んで物語を浸潤させるような力がありました。鴇巣直樹は舞台がほとんど初めてに近いとのことでしたがその存在感は抜群、舞台にしっかりと色をつけていました。

métroのふたりも、力があります。出口結美子は女性の表面上の美しさと内面の修羅をぶれなく演じて見せました。鋼のようというか演技の足腰がしっかりしているというか、感情を細線で緻密に表現する力に凛とした筋が通っていて観客を捉えるのです。その先には観客側にすっと浮かんでくるような実存感があって・・・。思わず見入ってしまう。一方の月船さららの演技には包み込むような柔らかさと内側の熱のようなものを感じます。今回、かなり多くの役を演じて見せましたが、その一つずつにしっかりと世界をつくる器用さがあって・・・。その一方で演技に華があって・・・。この二人ならさまざまな作品に取り組めるはず・・・。ニールサイモンあたりを演じても面白いだろうなとか、後藤ひろひとあたりの喜劇でも彼女たちは秀逸にこなしていけそうな・・・。

天願演出については、やはり映像的なアプローチが多いのだろうなと思います。トークショーなどのお話をうかがっていても、江戸川乱歩への造詣の深さが際立っていて舞台上のアイデアにもその裏打ちが感じられる。それを映像として表現するときには、非常にディープな雰囲気がスクリーン全体からあふれだすのだと思います。でも、舞台においては、役者の作る空気が観客を揺らさなければ伝わらないものがある・・・、その物語の息遣いのようなものが舞台から十分に感じ取れない。空気をもったままのシーンの移動など試みはわかるのですが、どうしても観客側でイメージが十分に膨らみ切れないのです。切れのよいシーンや妖艶な時間に思わず身を乗り出すことも何度かあり、描くものの深さも感じるのですが、それは肌に伝わるのではなく頭で作り出すこと。役者と同じ空間だからこそ感じるなにかとかどこか異質な気がするのです。

とはいうものの、きらっと光る宝石がいくつも埋もれているようなmétro、これからの展開が楽しみになる舞台ではありました。

R-Club

PS:アフタートークの佐野史郎氏、たっぷりのお話で、非常に興味深かったです。それと出演の役者たちへの絶妙な突っ込み・・・。役者たちや演出の素の部分をうまく引き出して・・・。これだけでも十分な聴きごたえがありました。

あ、それからパンプレットもよく作り込まれていて・・・。購入してしまいました。おまけのカレンダーがもうけもの。写真がおしゃれでよしんばお二人のファンでなくても十分に使用に耐えます。その上になにかたっぷりの色香が・・・。部屋に置いておくとちょっと目を惹きます。

|

« ワークインプログレス 「ソヴァージュばあさん」 が導いてくれるもの | トップページ | 4×1hProject #2作り手側の真摯さと熱と »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: métro「陰獣」もっと膨らむはず、きっと:

» 乱歩NO.74・・・演劇公演「陰獣 INSIDEBEAST」 [飾釦]
■日時:2009年2月24日(土)、17:00〜 ■劇場:神楽坂 die pratze ■原作:江戸川乱歩 ■演出・台本:天願大介 ■出演:月船さらら、出口結美子、丸山厚人、池下重大、鴇巣直樹 江戸川乱歩の小説を原作とした演劇公演「陰獣 INSIDEBEAST」を観ました。そいえいばボクのブログのタイトル「飾釦」は、乱歩の小説の「陰獣」からとったものでありました。それは小山田静子が大江春泥に屋根裏から生活を覗かれているとして小説家・寒川がその屋根裏に登り調べていて発見したボタン、乱歩の小説ではそ... [続きを読む]

受信: 2009/01/26 22:23

« ワークインプログレス 「ソヴァージュばあさん」 が導いてくれるもの | トップページ | 4×1hProject #2作り手側の真摯さと熱と »