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こゆび侍「飴をあげる」素の魅力

12月10日、ギャラリールデコにてこゆび侍の「飴をあげる」を観ました。3作の短編と1編の超短編・・・・。素材を生かしたお芝居を堪能いたしました。

(ここからネタばれがあります。十分にご留意ください)

ルデコの場内の奥側にふつうに作られた舞台。観客は30名くらいでもう超満員。途中休憩時用のアイテムを入口で配られて・・・。

☆亡骸をめぐる冒険

恋人の死に接した女性の感覚が、あからさまに描かれていきます。体温とともに沈んでいく感覚。そして死の原点に想いを馳せる・・・。

ミルフィーユのように重ねられていく氷の国と原始のシーンは、そのまま、亡骸によりそう女性の心をを去来するものに見えます。深い意味合いの提示や論理の積み上げもなく、ただ、女性の感性がそのまま舞台上に形として現れていく・・・。

原始人たちの死を見つめる感覚、氷の国での死の表現・・・。その脈絡のなさに死を受け入れることの本質が浮かび上がってくる・・・

最後のシーンの、ありふれた光景にこの短編の真価を感じた事でした。

・幕間

ちょっと小粋な男女の会話劇。深く考えないで、チョコレートの小粒を口の中で溶かすように楽しむのがよいかも・・・。

男と女の思惑がちょっとだけ交わるところで、なんともいえない可笑しさがやってきて・・・。

浅野千鶴と高木エルムのどこか人を喰ったようなゆとりと内側のどろっとした感じがが物語を豊潤に膨らませていました。

わずか数分の作品なのですけれど、その世界にどっぷりと浸り込めるようななにかがあって・・・。

個人的には大好きなひと品でございました。

飴をあげる

メルヘン・・・・。なのだと思います。登場するものが「カラス」に「猫」に「ゴミのネット」・・・。そのちょっと不思議な設定だけで、すでに物語が観客を舞台に引き寄せていく。佐藤みゆきの言いたてがいいんですよ。柿喰う客的な雰囲気を背負ってカラスの独りよがりで高揚感を持った恋心を描写していきます。カラスの価値観には居場所があって、それを冷静に見つめるおばさんキャラのゴミネットにも味わいがあり、クールな割にどこか温かさも感じる猫も舞台の色を引き締めて・・・。

異なる世界に住むカラスと男が同じゴミ捨て場で接点を持ち、恋をしたカラスが一歩足を踏み出したその先にあるもの・・・。カラスの盲目さと男の捨てた指輪をゴミ袋から漁るような器量の狭さが、なんともいえないペーソスを醸し出していきます・・・・。

擬人化したカラスから、理性の衣をかぶった理性に縛られない恋心が鮮烈に香り立つような・・・。また、シニカルというか苦甘いな結末で、物語のテイストをすっと観客側に収めてしまうところもすごくいい。

・うつせみ

モチーフ自体はそれほど目新しいものではない・・・・、でも、食べなれたものの味わいに改めて驚きを感じるというか・・・。

蝉(幼虫)の世界から人間界への概念の転換がすごくうまいのだと思います。革命はそのまま東南アジアやアフリカなどで実際に起きたことの末路を連想させて・・・。また、それはモラトリアムの放棄のその果てをも暗示するようで・・・。

その秀逸さを土台にして日々の実感が演じられていく。舞台上に世界観があるからその中で演じられる表層的な日常にも実存感が感じられる。新しいと思ったものは陳腐化し、変化への欲望を果たしたものは得たものを守ろうとする。その中で、根柢のシステムまでが次第に崩れ去っていく時、そこにある日常の味わい・・・。

音楽とダンスがすごく効果的にその世界を表現してみせます。硬直化していく世界のなかでの日々の暮らしや退屈さが、それらによってすっと浮かびあがってくる。

なんというか、物語に込められたさまざまなニュアンスがしっかりと味をもってやってくるのです。感覚が頭のなかで翻訳されることなくそのまま伝わってくるというか・・・・。一番感心したのは、1時間の上演時間のなかで作りだされた革命の顛末からやってくる時間感・・・。最後のスポットライトのショットに照らされたものに含有される物語の大きさと流れた時が重さを持って心に残っている。

ほんと、作品の色は違っても、それぞれに本質がいきなりあからさまにやってくるようなクオリティがあって・・・。食べ飽きないような満足感があとからじわっとやってくるのです。

役者達も、この観客数じゃあまりにもったいないと感じさせる充実ぶり。

廣瀬友美・佐藤みゆき・川連太陽・加藤律・福島崇之・浅野千鶴・小杉美香・高木エルム・中川鳶・丹波文子

ブレイクタイム用に配られたアイテムはよく意味がわからなかったのですが、なにか懐かしくてちょっとうれしかったりして・・・

こういうテイストの舞台、私は大好きです。

本公演は来年の3月とのこと・・・。来年の楽しみがまたひとつ増えました。

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