空間ゼリーの「真夏の夜の夢」の洗練
12月14日、池袋芸術劇場にて劇団たいしゅう小説家プレゼンツ「真夏の夜の夢」を観ました。脚本:坪田文、演出:深寅芥の空間ゼリーコンビ。そこには和の世界に築き上げられた、洗練された「真夏の夜の夢」の世界がありました。
(ここからネタバレします。十分にご留意の上お読みください)
会場にはいると、舞台上の遊郭のセットがまず目にはいります。朱色の柱が鮮やか。舞台の色使いに艶があって、なにかわくわくする・・・。
客電が落ちると狂言回しのいきなりの口上がはじまります。凛と通るその台詞に観客は一気に物語の世界へと引き入れられます。
物語は、ほぼシェークスピアの戯曲にそって進んでいきます。ただ、江戸時代の世界に置き換える中で、物語の骨格は取り込んでも原典の言葉はトリガーになるようなもの以外そぎ落としてしまうような潔さもあって・・・、結果脚本のセリフに物語のスピード感とわかりやすさが生まれていきます。原典が舞台を縛るのではなく、原点の骨組みによって物語が安定して広がる感じ。物語が希薄にならないぎりぎりの質量で舞台が軽やかに動いていく。教条的な部分を廃し、今様の価値観を織り込んで、さらには江戸の遊郭の世界の雰囲気をそのままに・・・。坪田文の描く物語の流れに揺るぎがなく統一感があるので、いくつかの世界や価値観が安定的に同居できる・・・。その流れの先に観客が成り行きを追いたくなるような一夜の物語が現出します。
演出の深寅芥も物語の骨格をくっきり浮き立たせるように、舞台を動かしていきます。個々にはシンプルなシーンが多いのですが、淡泊にならない工夫が随所にあって、遊び心あふれるシーンの引き入れ方も絶妙・・・。衣装や音楽、さらにセリフ回しや役者の動きを見事に構成し、観ているものを飽きさせません、ここ一番の役者の動きに彩を与え、時には可憐さを強調させる。場面の色や大きさに合わせてナチュラルな演技と原典から導いたけれんを切れよく組み合わせて舞台を進めていきます。猫目倶楽部の時にも思ったのですが、彼の作る舞台にはその座組みで作りうる、背伸びをしないもっとも効果的な質感が存在する・・・。衣装の美しさや、キャラクターの個性に合わせた台詞使いが、物語の進み方にしっかりと鮮やかな色をつけて・・・・。観客の目を美しく豊かな舞台にひきつけていきます。
終盤、物語は、一旦シェークスピアからやわらかく離脱して、坪田が独自に描く世界へと走り出します。そこには恋する心が発するピュアな熱があって・・・。真冬の「真夏の夜の夢」、でも坪田流の物語の終息は、観客の心をしっかりと満たして、季節の違和感までやわらかく消し去って・・・。しかも物語を閉じる直前に再びシェークスピアの色を戻すところにも、物語を貫くような洗練を感じます。そして洗練は上演中だけではなく上演後も、観客を強くやわらかく物語に浸していくのです。
役者もよかったです。
原作ではパックの役回りとなる浅利陽介の演技には見栄えと底力がありました。ぐっと物語全体を受け止めるような力を感じる。ふた組のカップルも好演、斎藤ナツ子は舞台にしっかりと深さや密度を作る演技、中盤の彼女の演技は舞台全体のトーンを形成していました。比較的広い会場に彼女の心の動きをしっかりと浸潤させて・・・。舞台のスムーズな流れの内側から溢れ出すように現れる彼女の想いから十分すぎる熱が伝わってきました。三津谷葉子のまっすぐな感情の出し方にもよどみがなく、特に前半の舞台を引っ張っていました。佐野大樹の演技も観ていて気持ちがいい。彼の演技には硬質な切れがあって・・・。一方渡部紘士ののびやかさも舞台のトーンをしっかりとコントロールしていたように思います。遊郭の主人を演じた小野剛民の気弱さと強欲な部分もしっかりと舞台になじんでいました
婚礼を行う大名役の宮原将護の台詞回しも物語の貴重なアクセント、身受けされる花魁役の清水ゆみ のセリフにも静かな説得力がありました。もののけの王役を演じたジェームス小野田には豪胆さに加えて人の良さがしっかりと出ていて、その部分が妻役の大林素子にうまくマッチしていて・・・。大林の背丈は、今回の舞台にとって一つの財産、もののけの女王としての威厳というか存在感がありました。二人とも十分に及第点の演技だったと思います。また、王に使える鳥のもののけを演じた竹下明希の細強い演技にも魅力があり、妻に使える花・風・月のもののけを演じた竹中里美、五十嵐れな、一戸恵梨子にはしなやかさがありました。可憐さを持ちながら、それぞれのセリフのタイミングがすごくよくて・・・。 眼福でもあり・・・。
道化役を演じていた高佐一慈と尾関高文は演技力もしっかりと持ち合わせていて、なにより舞台のテンポを作り上げていたように思います。あの劇中コントは日替わりなのでしょうかねえ・・・。舞台上の他の役者たちのナチュラルな笑いが劇場全体のぬくもりをさらに上げていたような・・・。
同じく道化役の駒谷仁美には不思議な実存感がありました。べたな言い方ですが観客の目をすっと引き寄せるような天性のものがあるように感じました。
この舞台、しいて言えば、ダンスが少し弱いかも知れません。しかし、それを補ってあまりあるものがこの舞台にはあると思います。
途中のThe Geeseのコントも、唐突さがなく、観客を舞台にひきつけるだけの力があって・・・。吉田摩奈美の衣装もポップでありながらキャラクターを現す舞台衣装としての機能をしっかり維持していて秀逸・・・・。見所がある芝居は観ていて楽しい・・・。
21日までの公演とのこと。エンターティメントとしてお勧めの一作です。
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