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アロッタファジャイナ「今日も、ふつう」小さな積み重ねの大きなパワー

12月12日、シアターモリエールでアロッタファジャイナ「今日も、ふつう」を観ました。前回と同じく対面に客席がしつらえられて、中央に赤の舞台・・・。

やわらかい緊張感がただよう場内・・・。良質の雰囲気が場内を包みます。そのなかで、物語が幕を開けます。

(ここからネタばれがあります。十分にご留意の上お読みいただきますようお願いいたします)

女子高生たちの、快活な会話シーンからはじまって、断片のような物語のかけらが積み上げられ始めます。

アロッタメソッドともいえるような半暗転でつないでいくシーン転換のなめらかさ、いくつもの物語が次々と現出して、次の物語にかさなって・・・。映画のカット割に近いようなシーン構成に最初はとまどいを感じたのですが、慣れてみるとそこに身をゆだねていくことが心地よくさえ思える。観客を緊張感とリラックスの絶妙なバランスの上において物語がすすんでいくのです。

バラバラに進んでいるように思えたエピソードによこのつながりが現出し始めると、物語は一気にふくらんでいきます。前半、観客に積み重なったものが崩れながら、いっぽうで真実が膨らんでいくような感覚。ありふれた日々が揺すぶられて、突然につけを払うような時間がやってくる・・・。日常が重ねられる中に差し込まれた非日常のカード・・・、一見唐突な設定にも違和感を感じさせないだけのふくらみが物語に用意されていて・・・。

物語全体を見渡すことができるまでにシーンが積み重なったとき、観客にやってくる人間のいくつもの業の生々しさ。そこには肌に染みいってくるような不可避の力があるのです。

後日談、耳慣れた音楽、その日常のナチュラルな雰囲気やたおやかさやに、人が抱えている非日常の色が再び呼び戻されて・・・。

作・演出の松枝佳紀が見つめる、繰り返しの日常に内包された、悲劇の構造が観客にやわらかく浸潤していくのです。

シーン中のディテールには、まだよくなるのだろうなと思う部分あったのも事実。役者の視線の位置や台詞の強さなどでふっとひっかかりを感じることがある。でも、それらも十分に許容範囲というか、シーンの意味を伝えようとする意図が役者から伝わってくるので、物語を損するものではなく・・・。

物語の流れに心を奪われる感覚をたっぷり味わうことができました。

役者のこと、要所に配された役者たちの地力のようなものにまず瞠目・・・。ナカヤマミチコの人を喰ったようなずぶとさと力感、青木ナナの清濁をさらっとのみほすような大人の深さ、三坂知絵子のずぶとさの内側にある繊細さ。彼女たちのキャパの大きな演技がそのまま舞台の安定感につながっていたように思います。その中で、井川千尋加藤沙織がキャラクターを鮮明にした演技を見せる。山本律磨乃木太郎の芝居には、表層と過去との対比に実存感があって見ごたえ十分。

阪田瑞穂、山川紗弥、清浦夏実も大健闘・・・。ヴィヴィドなだけでなくそれぞれの演じるキャラクターがしっかりと舞台になじんでいて、物語の横糸として十分すぎるほど。中間色のようなキャラクターたちのかかえるニュアンスまで、ダイレクトに観客に伝わってきました。橋本愛実の貫くような気持ちも観客を強く引き寄せる・・・。演技に太いしなやかさがあって物語のふくらみを支えていました。三元雅芸のストイックさにも力があって、終盤の物語に強いテンションを与えて・・・。峯尾晶の演じるある種の不安定さや竹内勇人が演じるキャラクターからにじむ野心、形は違っても斉藤新平木田友和からやってくるある種のまっすぐさ・・・。貞方邦介はキャラクターの色を舞台に染めるのに長け、キャラクターの雰囲気をしっかりと作っていました

それらの演技を背負って物語のコアを作ったのが菅野貴夫安川結花の二人・・・。菅野は隠すものとさらすもののメリハリがしっかりしていて、演技に歯ごたえがあるのです。それが、安川からあふれ出す想いをしっかりと受け止めていて・・・。一方の安川も感情がひたすらあふれ出すようなこれまでの演技ではなく、やわらかく染み出して高めていくような演技で、物語の時間軸をしっかりと表現していて・・・。そのなかでその奥に揮発性がなく逃げることができない主人公の想いをしっかりと観客に伝えていく・・・。

まあ、カーテンコールの安川さんのぐだぐださは相変わらずでしたが、でもそれもまたご愛敬。物語の余韻をもったまま、ゆっくりとモリエールの階段を降りた事でした。

で、ですね・・・、帰りの埼京線も座れて、ずっと物語を反芻していたわけですよ・・。買ったパンプレットをめくりながら・・・。で、青木さんのプロフィールを読ませていただいているうちに、前売りの予約時に劇団のブログに書いてあった前売り特典のことを突然思い出して・・・。忘れていた・・・。安川さんの最後の演技に記憶がすべて飛ばされていたようで・・。無意識の領域にも満足感が十分あったお芝居だったというか・・・。

まあ、芝居の満足感だけでも十分元はとっているわけなのですが、ちょっとだけしまったと我にかえったことでした。

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