笑福亭福笑独演会は師弟そろってのグルーブ感
2008年12月6日、横浜にぎわい亭で笑福亭福笑師匠の独演会を観ました。かなり早めに家をでて、中華街にてご飯を食べて・・・・。
2階席まで埋まったにぎわい亭で至芸をたっぷり楽しんでまいりました。
(ここからはネタバレがあります。ご留意の上お読みください)
・笑福亭たま 「くっしゃみ講釈」」」
観るたびにおなじみのショート落語なのですが、今回はびっくりするほど切れがよくなっていました。ほんとうに微妙な間がしっかりと観客をつかんでいく。観客がすっと乗せられるような感じ・・・。場内の笑いも一通りではなくいろんなバリエーションがあって・・・。なにか急に引出が増えた感じ・・・。
本編の「くっしゃみ講釈」も抜群の出来でした。のぞきからくりの部分だけでも十分に笑わせてもらえる・・・。瞬発力のある芸で会場にドッと網を投げ込んで有象無象をいっきにさらっていくような力があって・・・・。その強さがありながら、以前あったような芸のむらが見事に消えている・・・。
しかも、講釈の見事の見事さには目を見張るほど・・・。張り扇と小拍子のリズムにのせて、一気に語り始めるその姿の凜としていること。丁寧な演じ方が芸を小さくしていない。足をしっかりと地につけて語り上げていく感じ。講談だけでも十分に見ごたえがあるのです。ここで観客をうならせるから、トウガラシの煙を吸った時の語りとの落差がしっかりと出る。しかも、観客をいったんツボにはめるとそこからは上方落語のしつこさがたっぷりと出て、観客がアリ地獄に吸い込まれるように笑いにはまっていく。
福笑師匠の独演会であることがぽーんと頭から飛ぶほどそれはみごとな高座でありました。
・笑福亭福笑 「時うどん」
「時そば」とか「時うどん」というのは、古典なのでこういう言い方をするのもおかしいのかもしれませんが、丁寧にカットを施しデザインし磨けばとんでもない光を放つ宝石のようなネタなのかもしれません。先日、柳家喬太郎師匠の「時そば」をDVDで観てこれはすごいと唸ったのですが、この「時うどん」も勝るとも劣らぬ高座でした。
実は、福笑師匠の「時うどん」は、、天満天神繁盛亭のインターネットライブで一度拝見しているのですが、その時ともだいぶ印象が違う・・・。生であるか否かという部分ももちろんあるのでしょうけれど、それだけではない。たとえばインターネットライブのときは、噺に入っての冒頭に主人公の二人が都々逸の話しをしながら色街の冷やかしから帰るシーンがあったような気がするのですが、今回はその部分がそっくりカットされていて・・・。うどんやと主人公たちのやりとりだけにピンスポットを当てるように噺を運んでいるような印象。
だからといって素うどんで客を帰すようなことを福笑師匠がするはずがありません。被害者になるうどんやとのやりとりで助走をつけて、うどんの食べ方で噺を一気にはじけさせます。形容矛盾みたいな表現で申し訳ないのですが、一杯のうどんをめぐる、あんなにナチュラルにデフォルメされたバトルを観たことがない・・・。理屈とかすっとばした人間が根源にもっているような笑いがぐわっと湧いてくる・・・。肝心の支払いの部分をさらっと済ませておきながら、揺り戻しというかとどめをさすようなギャグで、観客を最後にもうひと煮立ちさせて・・・。
お手本の部分の仕込みがここまでしっかりとされているから、あほが昨夜どおりに事を運ぼうという部分で、その熱が少しも冷めないのですよ・・・。うどんのひどさでもう一度温められた観客は汁を飲むしぐさでさらなる笑いに突き落される・・・。冷静に考えたらあかんやろ・・・というようなまずいうどんやが、あほの背景色のように使われて常識人に思えるところが一段とおかしくて・・・。
最初にオチの詳細についての説明があるというとんでもない高座でもあったのですが、そこにも全く違和感がない。観客にはオチで噺のよさを気付かせるのではなく、そこまでに散々笑い疲れた客を噺の世界から救出するためにオチが仕込まれているような・・・あの江戸時代の時間の数え方教育はその段取りがすっと働くための仕込というか救命胴衣のようなものだったかと・・・。
「時うどん」というネタ、これまで特に聴きたいというような噺ではなかったのですが、がぜん好きになりました。
(中入り)
・松元ヒロ「一人コント」
松元ヒロさんの芸を生で観るのは2回目。前回も福笑師匠の独演会で・・・。
体の動きから質量が感じられないのですよ。最初にお面をモチーフにした、顔だけを固めて体が動く至芸、歴代の総理を演じる時にも、その表層的な部分がしっかりと生きていました。よしんば尊き方のお話であってもそこに重さがないから、すっと流せる・・・。しっかりとした印象や形はあるのですが、それが根をはやさないから観ているほうにもたれがないのです。
でも質量と切れは全く別物。まるで、一本の毛を2本裂くような芸の切れが随所にあって・・・。
最後、たまさんの疑似アナウンスで天気予報のマイムを見せたのですが、これはすごかった。なにかを通り越してもうおかしくて・・・。
こういう芸人さんって、観飽きません。
楽しませていただきました。
・笑福亭福笑 「はははぁ家族」
不眠をテーマにした新作落語。この噺、すごいんですよ。ある種のリズムがあって聴いているとなんとなく気持ちよーーく眠くなってくる。笑いこけながら眠くなってくる落語って初めて聴きました。
精神科でのやりとりがおけら参りの火縄のようになって、主人公が家に帰ってからの噺にやわらかく火をつける。眠るという作業に絡む妻や父・・・。派手に噺がふくらむというわけではなく、じわっとギャクが花を開いていく感じ・・。福笑師匠の毒がゆっくりと回ってくるような。完全燃焼系のネタではないのですが噺の芯の部分からゆっくりとおかしさが全体に広がっていくような高座に、福笑師匠のけれんない実直な芸の世界が垣間見えるのです。
すこしずつ笑いが積みあがっていくなかで、膨らんでいくというよりは密度が濃くなっていくような空間が現出して・・・。なにかふしぎな満足感がオチとともにやってくる。
どぎつさや大向こうを唸らせるようなけれんはないけれど、ええ噺やと思います。
福笑師匠、今回の独演会もほんとうに充実していました。にぎわい亭と福笑師匠の相性、すごくよかった。これからも半年に一度は福笑一門会を関東の地でお願いしたいものです。
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