カブ・牛乳や「革命前夜」スキームが見えた瞬間に・・・
12月27日ソワレにてカブ・牛乳や「革命前夜」を観てきました。劇団初見。役者もJACROWの蒻崎今日子以外はたぶん初見、それと南阿佐ヶ谷のシアターシャインも初めて・・・。作・演出の牧山佑大氏の作品も初見です。
劇場がわかりにくいと劇団のHPにあったのですが、地下鉄の駅からは意外に簡単に到着できました。三列の客席でステージがすごく近い・・・。満員の客席がゆっくりと暗くなり物語が始まります。
(ここからネタバレがあります。十分にご留意ください)
結婚式を翌日に控えたカップルのいちゃいちゃしたピロートークが最初のシーン、まあ下世話な言い方をすればアツアツのふたりがパジャマ姿でごろごろとしている・・・。で、翌日の結婚式で眠れないと言っていた新婦が無邪気な口調でとんでもないことを言い出します。彼女は小学生のころ、学校の先生の肉奴隷だったと・・・。何人かの成績の悪い女の子たちといっしょに先生の性のはけ口にされていたと・・・。
釈然としないながらも、翌日彼は式場に向かうため駅へと向かいます。電車の改札を抜けて、携帯電話を忘れたことに気がついて・・、一瞬の動揺から駅の階段を踏み外してしまう・・。そして意識は何十年か先の戦場へと・・。男女間の戦争が勃発していてそこは男性を監禁する捕虜収容所だというのです。彼が付き合ってきた女性の話は戦功として鉄格子のなかの男たちに伝わっていきます。その話に驚嘆するさまざまな個性の捕虜たち、職業と階級がそれぞれにつけられて・・・、新夫は影の実力者ということになってしまう・・・・。その場の状況もどかしいほどゆっくりと観客に提示されていきます。
そして尋問、女性たちの尋問は屈辱的で耐えられるものではないという・・・。やがて、女性たちによる尋問のシーンが始まって・・・。
この辺りまでは、正直、どうなることやらと思いました。女性の尋問というのがかなり露骨で、男性側から観た性への欲望が裏返しか具現化されている感じ・・・。しかも手練の役者さん達がしっかりとまっとうにそれを演じるから、どきっとするほど生々しい・・・。物語の枠組みがよくわからないままのシーンというのは位置づけのしようがなくて・・。なんとなくその場の筋を追えるとはいえ観客は不安にすらなる・・・。それでも物語は積みあがっていく・・。
しかし、回想シーンっぽく、冒頭の新夫がまだ恋人として付き合っているころに新婦に嘘をついて浮気をするシーンが挿入されて・・。夫と妻の電話でのやりとりから、物語の枠組みがすっと浮かんできて・・・。
{あっ・・・・、掴めた。}
その瞬間、それまで唐突に感じていたシーン達が驚愕するほどリアルに馴染んで見えてきます。時には良識が眉をひそめるような自由奔放な欲望、そして欲望の抑制に対して辛さ・・・・、赤裸々とも思える作り手側のイメージが、観る側で枠を持った瞬間に現実感とひろがりを持って伝わってきます。それまでは猥雑で、ときには稚拙とも思えた表現から、精緻な作り手の内面の描写が次々と現れ出てくるのです。
「ロミオとジュリエット」の謀りごとが、ちょっと見だと嘘っぽく、でも実はしたたかに挿入されていたり。「涼宮はるひの憂鬱」などもなにげに借景に使われていて・・・。なにか霧が晴れたような感じで、一つずつのシーンが具現化するものに、作者のしっかりとした意図を感じることができるようになる。そうするとこの芝居自体にもぞくっとするような興味が湧いてくる。
終盤、男は失っていた意識を回復します。結婚式はキャンセル。新妻に謝る新夫に妻は子供が授かったことを知らせて・・・・。同時に、忘れてきた携帯電話のメールを妻に見られてしまった事を夫は知る。そのあと場面は戦場の世界へと戻って、「ロミオとジュリエット」もどきのたくらみの最後のシーン、ジュリエットの毒薬はわずか30分で醒めて・・・・。そしてロミオの毒薬瓶を発見する・・・。口にいれることなくパラパラと床に落とされる薬の音がとても印象的で・・・。耳にずっと残るのです。
役者は以下のとおり、
廿浦裕介、田中まこと、祥野獣一、蒻崎今日子、平野卓、井上麻由子、佐久間大器、島津わかな、八敷勝、小野綾子、牧山祐大、世理
いずれもしっかりした演技で、しかもそれぞれに魅力的・・・。前半部分、物語がよく見えない中でも観客を引っ張っていけたのは、ひたすら役者の力量の賜物かと。男女ともいろんな個性のの役者たちがバランスよく集められた感じで・・・。それぞれのカラーが絶妙に舞台をふくらましていたように感じました。
まあ、万人にとってわかりやすいタイプの芝居ではないかと思います。難解というほどではないのですが、観る側にも舞台鑑賞のちょっとしたスキルがないと理解しずらい作品かと・・・。現に私が観た回については終演時の拍手にもなんとなく戸惑いが感じられたり・・・
でも、一旦味を覚えるとすごく豊潤な感覚を得ることができるお芝居でもあるかと思います。一度はまるとけっこう癖になるような色を、わずか一作を見ただけとはいえこの劇団からは感じるのです。
余談ですが、帰りの電車で差し込まれたパンフレットの表紙に書かれた文書を読み返して唖然。
「結婚式前夜、男と女は悩んでいた?僕は私は本当に、結婚していいのだろうか、と。男は戦争にたどりつき、女は、帰りを待っている。男は純愛に遭遇し、女は秘密に気づいてしまった。二人は幸せな結婚ができるのか?」そして、戦時下の愛はハッピーエンドを迎えることができるのだろうか」
開演前にはさらっと読み流してしまったこの文章、観終わって読んでみると、芝居のコンテンツそのままなのです。当たり前といえばあたりまえなのですけれどね・・・。でもそれって、喬太郎師匠や福笑師匠が「時そば/時うどん」を演じるときにサゲを最初に言ってしまうというのとおんなじことをしているような・・・。それを面白くするのが演者の腕と、枕の中で両師匠は見栄を切るわけですが・・・。
このお芝居も、前出しをして、それに耐えうるだけの内容をしっかりと内包していたことを、改めて悟った事でした。
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コメント
初めまして。
カブ・牛乳や「革命前夜」に出演した祥野と申します。
千代田霞ヶ関部隊所属課長補佐のデッパです。
すでにひとつき以上経過した今、初めてブログを拝見しました。
何と申しますか、このように観劇をしていただいたことに感激してしまい(あ、シャレじゃ無いです(笑))思わずコメントさせていただきました。
改めましてご来場ありがとうございました。
次回カブ・牛乳やにも参加しますので是非とも足をお運び下さい。
本当にありがとうございました!
突然のコメント失礼いたしました。
投稿: 祥野獣一 | 2009/02/05 03:16
祥野様
ブログ記事へのコメント、ありがとうございました。
中盤からほどけるように見えてくるお芝居の醍醐味、見入ってしまいました。
カブ牛乳や、次回も時間が合えばぜひにまた拝見したいと思います。
投稿: りいちろ | 2009/02/11 18:54