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劇団競泳水着「プリンで乾杯」乾杯という分岐点

12月14日ソワレにて劇団競泳水着「プリンで乾杯」を観ました。場所は王子小劇場・・・。

いきなりですが、余談をすこし・・・。先週末から本当によい舞台がてんこ盛りで、スケジュールを詰めても観れないほど・・・。10日ソワレで会社から渋谷に走り(こゆび侍)11日に終電までかかって溜まった仕事を片付けて12日のソワレ(アロッタファジャイナ)をたっぷり・・・。13日のマチソワ(ろりえ・喬太郎師匠)を経て14日マチネ(真夏の夜の夢)後にこの劇団競泳水着の観劇となったわけです。一週間に1+5連荘!途中にインフルエンザの予防接種と床屋(いずれも13日午前中)付・・・・。

筋金入りのえんげきマニアの方なら「べらぼうめ、へっちゃらだい!」てなものでしょうけれど、こちらはへたれの芝居好きですから、さすがにバテておりました。ペース配分などできるはずもなく、お昼の「真夏の夜の夢」もしっかりと入りこんで観てしまいましたしね・・・。王子小劇場に少し早くついて受付から開場までの時間、劇場のロビーには椅子もあったのですが、とりあえず寝込まないように立って待つ・・・。やばい・・・。強い睡魔が周期的に降りてくる・・・。目覚ましがてらちょっと外へ出てメールのチェック・・・。自分では気付かなかったですけれど、実は何分かこっくりこっくりと立ち寝をしていたかもしれません。

開場したのであわてて良席を確保・・・。座った時点ですっと睡魔がやってくる。しかし、しばらくして、私の右隣の席に来られた女性二人連れを見てびっくりしました。そこには、今年観たなかでも、私的にまちがいなく表彰台というお芝居の主演女優の方が・・・。フラッシュバックのようにそのお芝居が脳裏によみがえり、次の瞬間に訳のわからない緊張が降りてきました。なにか見つめてしまいそうで固まったというか・・・。客席では同じ観客の立場なのですから、緊張する方がおかしいですし、ミーハーな気持ちは全くないのですが、そのときの舞台の印象がよみがえる瞬間にすっと緊張に包まれる感じ・・・。秀逸な舞台に立つ女優の方のオーラのようなものなのでしょうね・・・。舞台が始まるまでその緊張は解けませんでした。こんなことは初めて・・・。

でも、おかげで、一気に目が覚めましたし、集中力を持ってお芝居に取り込まれることができました。もしかしたら彼女にはお芝居の神様が宿っているのかもしれません。

(ここからネタバレがあります。充分にご留意ください)

トレンディドラマ3部作の第3部とのこと。20代前半の男女が一つの家をルームシェアした約3年間を小気味よいテンポで綴っていきます。

物語は旅立ちのシーンから始まります。複数の男女が発展的に別れていく・・・・。もうすぐ取り壊されるその家で、タイトルどおりプリンで乾杯をするのです。

このシーンが冒頭にあることで、観客は様々なシーンを冒頭のシーンとの距離で見つめていくことになります。シーンは時々前後に揺らぎながらも、柔らかな時系列のなかですこしずつつみあがっていく。登場人物それぞれのエピソードがゆるく絡み合いながら、現在と過去を行き来するような感じ。

ふとしたことで別れた後に同じ屋根の下でルームシェアをすることになった男女を軸に、パリにいくことになる別の女性、子供ができて音楽をあきらめる男、就職をして北海道へ行くことになる男。さらには、主人公の親族や隣に住む女性、同居している家の近所のバーのマスターとバイトなどのエピソードが絡み合って・・・

登場人物たちのドラマが軽いタッチで小気味よく語られて、その家を中心に流れる時間が着実に観客に伝わっていく。

気がつけば、会場全体が時間の流れに浸されている。不思議なドラマとの一体感、まるで自分もその世界の内側で時間をシェアしているような感覚がやってきます。ドラスティックな変化ではなくても、少しずついろんなことが変わっていく。主人公の男は学生から就職して転職のチャンスをつかむ。女性は不倫に敗れそれでも立ちなおり始める。舞台上に流れる時間の軽さと重さ、そして歩いてきた時間とこれから歩いていくであろう時間の肌触りが不思議なくらいに生き生きと観客に伝わってくるのです。パリで暮らし始めた女性が、日本人の旅行者と話すうちにその頃の自分の時間の意味を確認するようなシーンも挿入されて・・。

舞台の世界、登場人物や主人公が行ったバーまでが、まるで自分の思い出のようにいとおしく思えてくるのです。時にはビターであるときにはコミカルなエピソードの積み重ね・・・。そのルーズなつながりにどきっとするようなリアリティがあって・・・。舞台のキャラクターと観客である自らの想いの間の垣根が、いつのまにか取り払われてしまっているような・・・。

役者もナチュラルな演技で観客の隣人のようにエピソードをつなぎます。主人公役の川村紗也のちょっと意地っ張りなところや、同じく主人公格を演じた澤田慎二のすこし不器用なところがすごく自然に観客をとらえていく。佐野功のバンドマンが持つ心根のあたたかさ、その妻になる堀奈津美の戸惑いと幸せの表現、さいとう篤史の強さともろさ、和知龍範境宏子須貝英の実存感。渡邉とかげの実直さも観客を世界に取り込みます。細野今日子の細さやちょっとずれたような生真面目さもとても魅力的。澤田との距離の表現も実にうまいとおもう。

大川翔子は4x1hproject「いそうろう」での鮮烈な演技が印象に残っている女優さん。今回も非常に懐の深い演技だったと思います。台詞の一言ずつがすごく丁寧に伝えられてくる感じ・・・。一方で言葉の重さを絶妙にコントロールするような部分もあって、それがまた溜息がでるほど自然なのです。

バーのバイト役、辻沢綾香は双数姉妹でのお芝居を何本か観ていますが、これまではそれほど強い印象を持っていませんでした。でも、今回、初めて彼女の真の力を見せつけられた気がします。地の強さを持った演技なのですが、それをコミカルにもプレーンにも出し入れができる。天性のものがあるのでしょうね・・・。今回のように両面を演じる役がしっかりはまる・・・。なかなかいそうでいないタイプというか貴重なバイプレーヤなのではないでしょうか・・・

マスター役の永山智明は、15minutesやMUなどでも好演でしたが、今回もそれらに負けない落ち着いた芝居で辻沢との絶妙のコンビを演じきりました。不思議な役者さんで、相手役の個性をを引き立てる力があって、でも演技が続くなかで自らの個性を魔法のように観客に伝えることもする。静かな演技のクオリティが高いというか・・・。一方でとても間口のひろい演技ができる役者さんだとも感じました。

終演後、しばらく舞台の世界への共感が残っていて・・・。派手さはないのですが、心に残る・・・。新しいタイプの静かな演劇という感じもして・・・。

第十回の公演にして初めて知った劇団・・・、もっと早く知っておけばというような出遅れ感まで感じてしまったことでした。。

R-Club

ところで、実は・・・。冒頭の余談には続きがありまして・・・。帰りの埼京線、寝過してしまいました。たっぷり5駅も乗り越し・・・しかも、面倒臭くなって終点までいってまた戻ってくるというていたらく。おまけに翌朝起きるとすごく体がだるい。特に熱もなかったので会社の仕事をだらだらとこなして、夜知り合いのお医者さんに診てもらったら、なんと「過労」とのこと・・・。点滴のお世話になりました。点滴を打ってもらうとすっと辛さが抜けます。それにしても芝居の観すぎで過労って・・・。

芝居って座って観ているだけかと思いきや、観るほうも精神的にはけっこう過酷な労働をしているのだそうで・・・・。実はちょっと甘いものや水分をとるのも大事なのだそう

冬休みはすこし体を鍛えようと心に誓った事でした。

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