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「Good Night Sleep Tight」冷徹さを包み込む絶品の表現力

11月29日、パルコ劇場にて三谷幸喜作・演出の「Good Night Sleep Tight」を観ました。会場は三谷幸喜のホームグラウンドともいえる渋谷パルコ劇場。当然に大入り満員の劇場で、期待にたがわぬ2人芝居が繰り広げられました。

(ここからはネタバレがあります。十分にご留意くださいませ)

場内に入ると舞台を覆うような半円柱のものがまず目に入ります。お芝居のタイトルがかかれた緞帳代わりのような大きな壁、ブロードウェイ風の文字が目をひきます。別に本谷有希子さんに刺激されたわけではないのでしょうけれど、三谷幸喜氏自らが開始前の諸注意を。品のよいジョークでゆっくりと観客を物語に引き込んでいく。ある意味後藤ひろひとなどと同じ手法でありやり方に目新しさはないのですが、彼一流の語り口にはとても魅力があって、観客の心がすっと舞台に向いていく。

物語は、離婚が決まった夫婦の風景から始まります。出ていく妻が荷物をまとめ終わって・・・。最後に残った荷物からの二人の会話。一冊の本から昔の海外旅行のあいまいな記憶が紡ぎだされていく・・。舞台上手側の上部に電光掲示板があって、夫婦が過ごした日数が表示される。なんとなくそれを365日で割って年数を出している間に二人が過ごした時間の重さに実感が生まれたり・・・。シーンごとに廻り舞台上のベットの距離が変化して二人の関係を暗示して・・・。

夫婦の過ごしてきた、熱く、あたたかく、冷たく、時には滑稽ですらある時間。さまざまな場面での二人の時間が電光掲示板の動作音とともに行っては戻ります。若いころのVividな時間は観客をときめかせ、熟した時間からはそれぞれを思いやる気持ちがじわっと観客に伝わって・・・。でも、個々のシーンに思い出がいっぱい詰まっていても、そのシーンに笑い転げたとしても、観客には二人の間で時とともに風化していったなにかが透けて見える。

若いころには試行錯誤を繰り返しながらも人生を渡るうちにだんだんと成功の道を見つけていく妻と、若いころの輝く才能と自信が次第に枯渇していく夫。シーンが変わるたびに衣装や雰囲気が変っていく妻と、その妻に着換えろと言われない限り着替えることも少なく、どちらかというとそのままの風貌で妻に対峙する夫。丸いステージは夫の心でそこでのドラマは夫の胸に宿る追憶のようにも思えて・・・。

戸田恵子中井貴一もキャラクターが内包する魅力を実に細密に演じていきます。まさに盤石の演技で、観客は魔法にでもかかったように二人が次々と演じる時間の雰囲気に導びかれていく。しかもそこには仕掛けがあって、ふたりの演技のなかに占める「時間とともに変化するもの」と「変わらないもの」の配分が意図的に変えてあるような・・・・。戸田恵子が妻の精神的な成熟や変化を絶妙なバランスで表現していくのに対して、中井喜一は時間や場が変わっても変わらない夫のコアをしっかり演じきっていく・・・。その差がベットの距離とともに二人の間に広がる溝や離婚の核心部分を観客に伝えていきます。怒りや憎しみや後悔では語り尽くせない、二人の関係に内在する離別の必然が、物語の進行とともにくっきりと浮かび上がっていきます。

ポラロイド写真のように色褪せていく記憶をたどる中で突然リアルによみがえる苦笑いと懐かしさがほどよく混じり合ったエピソードたち。三谷幸喜が仕掛けた複線たちが、ふたりが共有した日々に不思議なリアリティとふくらみを醸し出して・・・。やがてそれらは戻ることのできないものへのいとしさへと変わる。そのいとしさが、今度は揺り戻しのように10000を超える日々の重さを観客に伝えていきます。三谷幸喜のしたたかな脚本は、次々に現れては消えていくランダムな思い出の中で、透明感と軽さを持った二人の別れの質量を、結晶を育てるように形にしていくのです。。

でも、この作品の一番素晴らしい部分は、夫婦の関係にそこまでの表現を編みこみながら、単純に夫婦間の別れをテーマにした悲劇だと観客に感じさせないこと。前述の舞台装置からはじまって、荻野清子達の出しゃばらないウィットに溢れた音楽や効果音、舞台の内外の絶妙な使い分け、観客の心にやわらかく満ちる戸田恵子のボーカルやピリっとスパイスの効いたふたりのダンス、そしてもちろん三谷幸喜一流の洒脱で軽妙な会話とそれを舞台上に紡ぎあげる二人の時間。厳然と表現されたビターな別れを包み込む二人が過ごした一万を超える日々への控え目で豊潤な賛歌こそがまさにこの舞台の真骨頂。

これほどのお芝居だと、よかったという一言では表現できない。とても笑ってちょっとしんみりして深く満たされて、しばらくしてから感動が大きなうねりのようにやってくる。言葉では言えないやわらかく溢れだすようななにかがこの舞台にはあるのです。戸田恵子や中井貴一、そして三谷幸喜にとっても代表作のひとつとなるのだろうし、なによりも観客である私にとって生涯忘れえぬ作品となりました。

私自身への記録もかねて・・・・。

作・演出 : 三谷幸喜

出演   : 中井貴一/戸田恵子

作曲&演奏: 荻野清子(ピアノ)

       高桑英世(フルート)

       庄司知史(オーボエ)

       山根公男(クラリネット)

その他  : 亀のタローも好演・・

廻り舞台の使い方やシンプルな舞台美術もとてもよかった・・・。

東京公演は12月20日まで、年が明けた1月6日~20日に大阪での公演もあるようです。前売りは売り切れているだろうし当日券がでるのかもわかりませんが、とにかくお勧めの一作です。

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