柿喰う客企画公演2本立て、七味・玉置が醸成する高揚感のここちよさ
11月24日マチネにて柿喰う客企画公演、「いきなりベットシーン」と「いまさらキスシーン」を観て参りました。七味まゆ味と玉置玲央が演じるパワーに満ちた2本の独り芝居。たっぷりと堪能してまいりました。
(ここからネタばれがあります。十分にご留意の上お読み下さい)
2本のお芝居、別々の公演なのですが、内容的にどこかリンクしています。女子高生の生活を切り取ったような・・・・。「いきなりベットシーン」は何でも積極的にやろうとした主人公が、周りからいじめられて清水寺の舞台から身を投げるに至るおはなし。一方の「いまさらキスシーン」は高校生活を欲張って生きようとした才能あふれる女子高校生が虻蜂取らずになってしまうような物語。柿喰う客メソッドともいうべき降り注ぐようなセリフ回しが今回もたっぷりで、大量な言葉が小気味よく舞台から客席に撃ち込まれていきます。
どちらの舞台も観て聴いているだけである種の快感がやってきます。演技に観客のドーパミンを搾り出すようなリズムがあって、ぐいぐいと引き込まれていく。「清水の舞台から飛び降りてみました」とか「背筋をぴんと伸ばして脇をキュッと締めて」とかいう動作付きの台詞が冒頭や節目ごとにしっかりと決められて・・・。マシンガンのように発せられるセリフに舞台は熱を持ちトップギアで疾走をはじめます。語呂のよい台詞が転がるように膨らんで、台詞の遊び心がまき散らされ、リズムをしっかりと拡大する切れの良い動作とともに観客を席捲していきます。
それは猥雑な女子高生の妄想の世界にも思えるのですが、役者が語る支離滅裂な世界の向こう側には観客を納得させるほどにあっけんからんとした現実味が垣間見える。現実味は質感を生み、質感は役者の動作で次第に舞台の世界を具体化していく・・・。
とにかく役者のパワーに圧倒されます。七味まゆ味の演技には勢いと繊細さが絶妙の匙加減で共存していて、あふれ出すイメージも実にカラフルで豊潤。でもその彩りをコントロールするパワーもすごくて、彼女が客席に投げ続ける台詞が魔法のようにつながり制御されて観客を絡めとっていきます。
玉置玲央の演技にもひたすら息を呑むばかり。ジェンダーを超越したような骨格があって、その骨格に艶があるのです。艶が骨格の強さだけを良いとこどりして内に秘めた武骨さをやわらかく隠している感じ・・・。観客がその艶に気を許して誘われるように台詞の流れに身をゆだねると、すごい馬力で引きずられてあれよあれよと物語に巻き込まれてしまう。よい意味で観客に逃げ場を与えない演技がシームレスにシーンをつないでいく・・・。
芝居のスピードが縦横無尽に変化します。テンションを替えるときの鋭い切れ。でも決して勢いに任せただけの演技ではない・・・。アクセルを全開にしても沈黙や静寂にまでテンションを落としても舞台の密度が落ちないのは、彼らの芝居が口先だけの言い立てではなく、演じる世界の根にしっかりとつながってたっぷり熟した果実のようなものだから。彼らの演技には表層的な華やかさの下に、がっちりと作りこまれた描写が存在するのです。
早回しの講談のように物語のト書きの部分が語られて、落語のような会話が挿入されて・・・。言葉が言葉を呼び込んで、和風ラップのように言葉が踊って・・・。
でもただ走り終えてそれで大団円ににならないところが柿喰う客芝居の真骨頂。作・演出の中屋敷法仁は最後にそれぞれの物語の喧騒を、実在感をもったキャラクターに飲み込ませてしまいます。何行かの台詞や表情などで、観客を乗せたジェットコースターの終着駅に、空想の世界をもてあそぶ、七味や玉置にしか演じえない女子高生の覚醒した素顔を浮かび上がらせるのです。
夢落ちや妄想落ちの常習犯である中屋敷の面目躍如、ゆっくりやってくる暗転。観客側にも走り抜けた充実感のようなものが湧き上がる。中屋敷ワールドを確たる説得力をもって演じきった七味まゆ味や玉置玲央の演じる力のしなやかさにひたすら魅せられたことでした。大人数の「柿喰う客」にも強烈な魅力がありますが、一人芝居の「柿喰う客」にも麻薬のような魅力があって・・・。客出しをしていた七味まゆ味嬢の赤いコートも美しく、満足感一杯で王子小劇場の階段を上がらせていただきました。
R-Club
PS:ちなみにこの公演、「いきなりベットシーン」が12月1日、「いまさらキスシーン」が11月27~30日に大阪でもあるようです。どちらのお芝居も関西だと、さらにうけるかも・・・。
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