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JACROW「紅き野良犬」瞠目する時代劇

11月3日ソワレにてJACROW#11、「紅き野良犬」を観ました。会場はサンモールスタジオ。今回の公演が時代劇ときいたときにはちょっとびっくり。というのは前回観た作品は抜群の切れをもったサイコサスペンス。そもそもサンモールスタジオで時代劇なんて、想像できなくて・・・。しかし、そこにはびっくりするほど引込まれる、リアリティを持ったサスペンステイストの時代劇がありました。

(ここからネタバレがあります。十分にご留意ください)

導入部分、一人の百姓が殺されているところから物語が始まります。ある種の緊張感がすっと劇場全体を覆って・・・。そして、舞台に現れた役者たちに目を見張ることになります。

まず、関心を奪われたのは言葉・・・・。いかにもその時代の百姓といったアクセントの言葉がたちまち舞台に満ちる。悲嘆にくれる泣き声や怒りの声、相手をうかがうような声、それらは土を耕して生きてきた人々のもの・・・。役者たちの言葉に心が傾くと今度は百姓の所作がそれに見事に重なっていく・・・。少し栄養失調を思わせる緩慢な動き、全体に低く腰をかがめたなかでの足の運びや仕草、すばやさと臆病さ、さらには頑固さのようなもの、個々の役者の頭からつま先まで行き届いた演技に観客はタイムマシンに乗った自覚もなく見事にタイムスリップさせられてしまうのです。

単純に体を土で汚すだけの演技ではない・・・。体の芯から百姓を演じる役者たちの演技にどっぶりと浸されて・・・。昔の時代劇映画のイメージなども借景に使われて、気がつけば舞台に対する感覚が自然と時代劇の世界に書き換えられている・・・。たとえば迫害を逃れた村の人間たちの生きざまが、そのまま違和感なく観客の心を浸潤していきます。ムラのない百姓の演技があるから、物語が進んでいく中での侍や町人の姿も生きてくる・・・。登場する者すべてがその時代の風景にしなやかに溶け込んであるがままに動いていく感じ・・・

そこまで空間を時代に染めておいて・・・、作・演出の中村暢明の物語の繰り出しかたが本当にうまいのですよ・・・。少しずつ明らかになっていく物語の展開にノイズがない。場面ごとのメリハリがあって、目を奪われ気を取られている中ですうっとストーリーの展開が染み込んでくるような・・・。次第に明らかにされていく事実に、霧が晴れていくような印象があって、現れてきた物語の輪郭からさらにその向こうにあるものに興味を繋がれていく・・・。しかも役者たちの演技に十分なテンションがあるから物語が展開していく中で安っぽさがない。しっかりとした舞台の質量に惹かれて、観客はさらなる展開に心を躍らせるのです。

ここ一番の立ち回りの迫力も十分で、その臨場感に息をのむこともしばしば・・・。絶妙に膨らんだ物語が最後にはきれいに繋がって、大満足でカーテンコールの拍手をさせていただいたことでした。

記録も兼ねて、出演者は以下のとおり

三浦知之、祥野獣一、成川知也、平山寛人、菊地未来、長岡初奈、ヤナカケイスケ、蒻崎今日子、爺隠才蔵、前田彩子、椎谷陽一、湯田昌次、小安光海、岩☆ロック、

ナレーション:今里真

終演後、作者や役者の方とお話をさせていただいたのですが、時代劇のリアリティを作るための演技の構築には相当の苦労があったよう・・・。また、小道具などを作るのにもプロの技を取り入れる一方で実直な努力をされたそうです。草鞋なども自分たちで綯われたそうで・・・。そうしたて作り手側の積み重ねが、この舞台の肌理というか肌ざわりをさらに上質なものにしていたのだなと感じいったことでした。

また、立ち回りの激しい動きの中でやはり怪我などもあったとのこと。その体を張った演技は観客に熱として確実に伝わっていた・・・。

手を抜かない舞台って粒子の滑らかさや空気の濃さが違う・・・。こういう五感を超えた感覚というのは、作り手側が当たり前のようにする努力以上のなにかがないと得られないものなのかもしれません。JACROWの芝居作りのスタンスに心を惹かれ、次回作もとても楽しみになりました。

ちなみにこの公演は11月9日まで・・・。もちろんお勧めの一作でございます。

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