クロムモリブデン「テキサス芝刈り機」焦点が定まって息をのむ
かなり遅くなってしまったのですが(アップをし忘れていた)、11月8日ソワレでクロムモリブデン「テキサス芝刈り機」を観ました。前回の公演でかなり惹かれて、ちょっと心待ちにしていた作品・・・。次第に収束していく物語に息をのみました。
(ここからネタバレがあります。十分にご留意ください)
前回もそうであったように、導入部分の話は痴漢のエトセトラ・・・。電車通勤のなかでの冤罪の話や、男女それぞれの痴漢に関するニュアンスなどを罪もないというかたわいなく演じていく感じ・・・。切れのある軽快な感じでぐるぐると回っていく話にはリズムがあって、なにかほほえましくて・・・
しかし、痴漢に間違われたふたりがその場所に入ったとき事態は大きく変わっていきます・・・。そこは閉塞された出口のない世界・・・。チェーンソーで切られた鉄骨上のものが大きくそらへぶっとび、比喩に満ちた物語が展開していきます。
観客は最初、目の前の物語を追っていくだけ。唐突に現れる様々な事情をありのままに受け入れながら、刹那の面白さに心を奪われていくうちに、バラけて個々におもしろかったものがすっと一つの点に結びついてくる。ルーズに思えた閉塞感や意味のない繋がれ方、ゾンビの意味、携帯で話す内容。それらがバラバラであればあるほど、一点に集約したときのリアリティが増してくる。
サラリーマン、学生、OL・・・。さまざまな職業の人、みんな職業の仮面をかぶって、電車に乗り合わせているわけで・・・。それぞれの個性が押し込められたなかでカタストロフがやってくるという表現には、息をのむようなリアリティがあって・・・。
福知山線の駅名が告げられ、置き石という仮設が登場し、さらに、バラけた鉄骨上のものが、段階的にその場に迫ってくる。激しく揺さぶられる舞台の上で、修羅場がゆっくりと降りてくるのです。それが、あの夏の日、電車がマンションに突っ込むという前代未聞の事故現場に重なるとき・・・。正面の壁が開いてまぶしいライトの中にチェーンソーを持った救助隊の姿が浮かび上がる瞬間・・・・。より合わされてそこで切断された多くの人生の糸と、そこで奇跡的に切れることなく繋がった糸からみえる事故の重さに、自らの日々の生活のなにげない一瞬の軽さとはかなさがふっと浮かんでしまうのです。
作・演出 青木秀樹、出演:板橋薔薇之介、金沢涼恵、久保貫太郎、幸田尚子、奥田ワレタ、渡邉とかげ、木村美月、森下亮、板倉チヒロ
前回同様、役者たちの芸達者には目をみはるばかり。幸田尚子が新加入とのことでしたが、宝塚ばりにしっかりと歌えるところがけっこうすごく、その個性がぶれないところがもっとすごい。こういう人が加わるとクロロモリブデンにとっては鬼に金棒かも・・・。また、そんな彼女が浮かずに物語に吸収されるところにこの劇団の底力が感じられます。彼女の個性が羽根を一杯に広げるだけのできるだけの広さがこの劇団の舞台にはあって・・・。その大きさで表現するから、あの大事故が吸い込まれるように舞台に取り込まれていく。一直線ではなく、彼らの作品の全体的なふくらみからあふれだすテイストでしか表現しえないものが間違いなくあるのです。
前回のトップスほどの緻密さはなかったけれど、逆に青山円形の良さも十分に生かして、終わってみればずいぶんと見ごたえのある作品でありました。
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