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劇団スカッシュ「MOON」展開を切り開く女優陣の底力

11月22日ソワレにて劇団スカッシュ第12回公演、「MOON」を観ました。

場所は中野Westend Studio。ほんわりソリッドな中に瑞々しい思いをたたえた群像劇を楽しんでまいりました。

(ここからネタバレがあります。十分にご留意ください)

最近は少なくなったダンスがあって、物語が始まります。タイトルロール的な映像も見ていて楽しい。一時は小劇場演劇の象徴のごとく揶揄されたダンスですが、集団をモチーフにしたお芝居にはけっこう効果があります。

映像作家の元にかつての仲間がやってくる。彼は解散した映画作製チームの復活を願う・・・・。で、不治の病だからというのです。そこから離れ離れになったチームのベクトルがひとつに定まる・・・。しかし、映画作りは難航し始める・・・。

一度は集まったものの、徐々に想いのベクトルが異なっていく仲間たち。シーンごとにつづられる風景が積み重なっていくうちに、それぞれの想いの食い違いというか一つにならないいらだちのようなものが浮かび上がっていく。滑らかではないのですが、だんだんとモザイクを描く画素が細かくなっていくような・・・。

そして、登場人物が内に秘めていることがあちらこちらから噴出してくる。いろんなトラブルや行き違いが次第に集団を侵食していく。

MCRのようなタッチで場面が小刻みに展開していきます。ポップな音楽でドライに切り変わっていく場面、擬暗転する中その場の登場人物がポジションに立ち必要に応じてそこに座りこんで場が始まる。最後の瞬間に必要に音楽を変えてちょっとウェットに場をつなぐこともあったり。

ただ、このようなような手法をとっている他の劇団のお芝居とくらべると、いろんな意味で真正直な感じがします。暗転で区切られたユニットの内側にけれんがないというか、物語が素材のままにスライスされて伝えられていく。このことには功罪があって、暗転間の質量にかなりのばらつきが生まれているような・・・。すごく重いシーンがあったかと思うと、一方で中身がほとんどないシーンもあるのですが、その差に必然が感じられないのです。結果、中盤までの物語の展開がなんとなくぎくしゃくと感じられるのです。サクサク感はかなり出ているので観客がリズムを持って観ることはできているのですけれど、前半部分はは何かが模糊としている・・・。

しかし、中盤以降のふたりの女優たちの演技が一気に物語を進めます。彼女たちには閉塞した空気を切り裂くようなパワーがあって・・・・。

石沢美和の存在感は氷山が崩れるようにやってきます。抱えているものが次第に溶け出してあれよあれよというまに大量の想いになって舞台にあるものを流し出す感じ・・・。しかも感情の出し入れにゆがみがないので、観ているほうは彼女からやってくる感覚にすっと乗せられてしまう。彼女の視点で舞台が切り取られた瞬間、他の役者たちの芝居に不思議な存在感が生まれます。

牛水里美は刹那に細密な想いを表現できて、しかもその強さや質量を幾重にもコントロールできる役者さん。そんなに昔から拝見していたわけではないのですが、今年に入ってから続けさまに彼女の秀逸な演技を見て、その抑制された内側から伝わってくるさまざまに重ねられたような色の鮮やかさには目を奪われていました。とは言うものの、今回ほど、直情的に想いを解放した彼女の演技を観たのは初めて。

後半、特に終盤での力感のすごさには瞠目するばかり・・・。でも、箍が外れたような感情の露出の中でも、彼女の表現が持ち合わせているノーブルな色が濁ることはなく、感情のベクトルに寸分のぶれもでない。彼女の感情を解き放ったような演技がまっすぐに切り裂いたあとの舞台には、驚くほどそぎ落とされた登場人物たちの感情が浮かんできます

ひとつのまとまりと個々の想い、終わってみれば男優たちが重ねた演技がちゃんと舞台上に残っている・・・。前川健二、大塚裕也、藤原健一、大塚辰也、中田大地、亀岡孝洋、土屋壮、藤代知己、一人ひとりの演じる想いが女優陣の演技のあとにすっとそこにある。それぞれの立場や抱えているものがしっかりと可視化されているのです。

芝居の作りにラフな部分があったり前述のバランスの問題があるとはいえ、カーテンコール後の映像の作りもよくて、温かさのなかにどこか切なさの残る群像劇の終幕を体験することができました。

しかし、それにつけても牛水さん・・・、あのパワーってどこに潜んでいるのでしょうね。単純な演技の強さではないのです。滑らかな質感や籠りと抜けの絶妙なバランス、どこまでもくすむことなく下卑に落ちることがない色あい・・・、天から与えられた才能も人並みはずれてあるのでしょうけれど、それだけではなく、そう見せるための息をのむほどに緻密で地道な積み重ねを彼女の演技の裏側に感じるのです。それらをおくびにも出さず舞台上に存在させ続ける彼女の芝居力のようなものには驚嘆するしかない。来年の6月くらいまでずっと舞台の予定が詰まっていらっしゃるようですが、チケットが取れる限り彼女のお芝居を是非に追いかけてみたくなりました。

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