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劇団鹿殺し「電車は血で走る」手作りからほとばしる不思議な郷愁(ちょっと改訂)

遅くなりましたが、11月2日ソワレで劇団鹿殺し「電車は血で走る」を観ました。阪急宝塚沿線は私が幼稚園から高校までを過ごしたところで、いろんな想いが残るところ・・・。庄内には友人もいたしね・・・。

そんな場所を舞台にした物語は私にとって格別、心に染みるものになりました。

(ここからネタばれがあります。ご注意ください)

感想が遅れてしまったのは、舞台を観おわって、あとに残った感覚を表す言葉がうまく見つからなかったから・・・。なにか言葉の外にあるような感覚が、渾然となってやってきて・・・。青山円形劇場全体が、自分を投影する大きな脳の中のように思えました。

いろんな想いがおもちゃ箱のように詰まった作品。それは、私も知っている世界、阪急宝塚線沿線のにおいがしている・・・。鉄彦でなくても3000系とか6000系というと、マルーンブラウンと呼ばれた色の車に比較的大きく貼り付けられた車体番号を思い出す。新しい電車に乗れた時にはなんとなくついているような気がしたり・・・。

舞台に向かってやってくる電車・・・。管楽器の安定した演奏にますます沿線の光景がうかんでくる。円形の中央に白線で描かれた線路を電車が走ると、その時代が現実に交差していきます。

宝塚奇人歌劇団のパフォーマンスが絶妙、昔の新感線を思わせるけれど、かっこいいとかだけでなく、普通というか突き抜けきれない若者のかぶき方がすごくうまく表現されていて・・・。そもそも劇団名の付け方からして、昔の阪急宝塚線沿線に住んでいた人間には、ある種の感覚をもたらしてくれる・・・。阪急電車のつり広告に常にあった宝塚歌劇のイメージが子供のいたずら心でデフォルメされたような・・・。

織田信長のエピソードにも似た葬式のシーンや、地場のマスメディアへの憧れなどその町につながれた中でのどこかチープで泥臭い世界・・・。ド派手な衣装でのパフォーマンスに歌詞までパンフレットに記載して、破綻をものともせず突っ張って観客をひきつける物語の裏側に、すごくピュアな気持ちの表現がしっかり織り込まれているのです。電車事故の話や、さらにその向こうにある悦びや悔いのような感情に沈むような透明感があって、そのテイストが、主人公の思い出に染まりながら劇場全体に広がっていきます。

劇団の名前やポスター、フライヤーなどから弾けた感じや強いのりのイメージがある劇団鹿殺しですが、しっかりと切れている身体や、観客が共鳴するだけの深さと大きさもった感傷が作り出す色こそが真骨頂・・・・。醒めた視点で、現実のテイストをごまかすことなく取り込むデッサン力がベースにあって、その上に想いや遊びやこだわりをちりばめる・・・。新しい役者たちも前回公演から一気に安定感を増して、ちょっと言葉で表現しえない彼らの色を見事に支えていた事でした。

役者は以下のとおり、作・出演 丸尾丸一郎演出・出演葉月チョビ、出演、今奈良孝行・オレノグラフィティ・山岸門人、谷山知宏、橘輝、傳田うに、坂本けこ美、丸山チカ、高橋戦車、菅野家獏、木村和彦、神保良介、山本正平、山口加菜、木村知貴、緑川陽介。

大道具の移動から、楽団の音まで、手作りの温かみがたっぷり・・・、こういう姿勢で作られた舞台って、あとの印象もふわっとやわらかい・・・。その肌ざわりの良さのようなものが、一週間たってもまだ消えないのです。

作り手からあふれる真摯さって、ひたすら観客に伝わる力なのだと感じ入ったことでした。

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