「猫目倶楽部」シンプルだけれどきちんとしていて・・・、たのしい
11月29日お昼公演で「猫目倶楽部」を観ました。作:坪田文、演出:深寅芥の空間ゼリーコンビに劇団員の参加もあって・・・。どんな作品ができるのか、ちょっとわくわくしながら午前中からのお出かけで観てまいりました。
(ここからネタばれがあります。ご留意の上お読みください)
まずびっくりしたこと・・・。開演で会場が闇に包まれたとたんに拍手が起こりました。落語が始まるのかと思ってしまいました。
さて、細田喜加の厚みを持った演技から物語が始まります。
物語の骨格はとてもシンプルでした。というよりもわかりやすい。ちょっとテレビ的な部分があって演劇に慣れていなくてもこれならストーリが追えないということはまずない。でも作家の坪田文は、構造はシンプルにしても子供だましはしない・・・。物語の骨格に男女間や女性どうしの想いや心の変化を織り込んでちゃんと役者に仕事をさせる脚本を作り上げます。骨格がシンプルな分、個々の登場人物の心情をしっかりと描いていくのです、主人公の猫目倶楽部が活躍すれば物語が進むように仕組みを組み立てて、物語の流れを担保したうえで、男が陥りやすいずるさや男性を振り向かせたい女性の想いを冷徹に描いていきます。骨組がシンプルなので、テーマが重く感じられない。遊び心やマンガチックな部分もところどころに織り込んで・・・。老若男女が楽しめて、琴線に触れる部分が仕込まれた、ボリューム感と心地よいテイストをもった物語が舞台上を流れていきます。
演出の深寅芥もシンプルなつなぎで物語に流れを作っていく。暗転にたよらず、必要な要素をサクサクと提示していきます。シーンごとの重さの振り方が絶妙で、捨てシーンもなく役者たちに決して演技を端折らせていない。よしんば日替わりゲストの時間でも物語の尺と合わせた構成になっているので観客の中で物語が切れることがない。アイドル振りの歌も物語と乖離することなく、全体として統一感をもった1時間20分の舞台を楽しむことができました。
それはまあ、大人のエンターティメントとはちょっと言いにくい部分があることも事実。でも大人が口にしても甘ったるい感じはしない。ビターなテイストがまっとうに練り込まれていて・・・。観客の間口を大きくもった佳作となりました。
役者のこと、主役(猫目倶楽部)の3人のなかでは椎名法子の演技が一番目を引きました。筋金がはいったような強さが芝居にあって観ている側がリラックスして身を任せられる感じ・・・。関西弁のよさを生かした押しと明るさが舞台の輝度を上げていたように思います。弥香もくっきりと目鼻立ちのわかりやすい演技。アンドロイド役とでしたが、生まれてくる感情に繊細さがあって大好演でした。三好絵梨香は一番重い役どころ。強い演技は無難にこなしていました。ただ、弱く継続していくような演技がところどころで途切れてしまう・・・。想いを内に秘めるような演技でふっと感情の流れが空白になってしまうのです。とても魅力的な演技も多いだけにちょっと惜しいなと感じました。
龍弥の演技には切れがありました。また、力みなく想いの表現がすごく安定しているのです。共演者をすっと引き出すようなゆとりもあって観ていてすごく安心感がある・・・。TAKERUには感情の切り替えのうまさがありました。ただ、演技が強くなると台詞が若干不安定になるような。場数を踏めば改善されることなのかもしれませんが・・・。岡崎和寛の感情の出し入れや会話のスムーズさは観ていて気持ちがよかったです。ただ、もっとシーンの空気を広げられるだけのキャパが彼にはあるような気がします。たとえば、彼を挟んだふたりの女性の心の動きが際立つような空気をつくる力を彼には感じます。
つつみかよこの演技には先生としての奥行きのようなものがふくよかにありました。青山玲子の心の動きも客席にしっかりと伝わってきました。ふたりとも観ていてセリフに想いの重さがちゃんと載っていて物語をしっかりと支えていました。
空間ゼリーからの3人はさすがにうまい。細田喜加の切なさはダイレクトに客席を席捲します。また、相手の演技をしっかりと受けてそれが映えるように返していく。彼女が舞台にいるとそれだけで空間の密度が上がる感じ。猿田瑛に心情にふくらみがあって好演。台詞の大きさを超えて伝わってくる想いがある。前回空間ゼリーで観た公演よりもさらに大きく想いが客席に伝わっているように感じました
阿部イズムは狂言まわしのような役割でしたが、テンションが安定していて物語がきちんと観客につたわっていました。彼のリズムが舞台のリズムを作っている感じ・・・。舞台の屋台骨を支え切る気概のようなものも伝わってきて、見ごたえがありました。
物語も楽しめて、アイドル振りの魅力も久しぶりに体験できて・・・。
たまにはこんな舞台を見るのも悪くないとすら思わせてくれる。坪田ー深寅の底力、恐るべしです。
PS:私が観た会の日替わりゲストは保田圭と岡田唯。舞台あしらいも上手、観客をしっかりとひっぱりこむ技量もあって・・・。ただねぇ、怒られるかもしれませんがその魅力は・・・・色物のもの。一応褒め言葉として追記いたします。
それともう一つびっくりしたこと、その日は3回公演(私が観たのは1回目)だったのですが、公演が終わるとすぐに以降の公演のチケット売り場に列ができていた・・・。なにか底知れぬパワーに圧倒されてしまいました。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント