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「ベンドラー・ベンドラー・ベンドラー」、Piperの素敵な「寅さん」化

10月18日、Piperの「ベンドラー・ベンドラー・ベンドラー」を観てきました。開場すると場内は怪しげな雰囲気がいっぱい。でも舞台の構造はどこかで観たような・・・。そう、これはまごうことなき「スプーキーハウス」、「ひーはー」の系列を踏襲したお芝居でありました。

(ここからネタばれがあります。十分ご留意くださいませ)

この公演についてはまだ、大阪や地方公演があるそうなので、コンテンツにはなんとなく触れないように印象だけ列挙してみると・・・

そもそも、セットのレイアウトが前作の「ひーはー」と同じだものなぁ・・・・。

デザインはタイトル風になっているけれど・・・。導入部分の後藤ひろひとも同じ・・・。一品小道具を加えるところも前回と同様・・・。(「ひーはー」で仕掛けた拳銃にあたるものが今回もあった)

あの3人家族・・・・。3話を通じて設定をここまで貫きふくらませてくれるとなにかうれしくなってしまう。

まあ、設定を変えても3人家族がたのしくすごしているところにいろんな人がおしかけてくるというフレームも見事に3作同じ・・・。今回は焼き直しなどとおっしゃる方もいらっしゃったみたいだけれど、そういわれてもしょうがないかも・・・。

でもねぇ・・・。ぎりぎりのところまで前回作品を踏襲しながら、しっかりとおもしろいのですよ。同じパターンで笑わせる部分も多いのですが、ひとつずつの笑いがしたたかで、なおかつ丁寧に作られていて、しかも微妙にいろんなものが進化しているから、シリーズリピーターの観客もうまく乗せられてしまう・・・。というか禁断症状がでるような笑いのつぼがある・・・。

こういうキャラクターを引っ張り出してくるかねぇとおもうような設定で今回も着ぐるみ登場。名前つながりなのでしょうけれど、後藤ひろひとのセンスですよねぇ・・・。うまいと思う。またこのぬいぐるみが絶妙に場違いでかわゆかったり・・・。

あと、劇中でしなやかに多用されるくりかえし・・・。だんだんにはまるのですよ。あざといといえばそれまでだけれど、使えるものは無駄なく使うところには吉本興業的な粘りすら感じられる・・・。しかも回を重ねる中である種の洗練すら増しているような。

いっぽうでどっから思いつくのだろうというような設定もあたりまえにちりばめる。大福もちを目玉につけて目をみえなくするなんてどういう発想なのだろうとも思うのですが、それがしっかりと舞台で機能していることがまたすごい・・・。

結局、後藤ひろひと一流の緻密に作り込まれたいいかげんさにやられたのだと思います。伏線がしっかりと張られ、それが豊かな手法で次々に花開いていく。シリーズのパターンのかなでリピーターに見せるところはこれでもかというくらいに見せて笑いをとり、その笑いが初見の人にはそれなりに分かるように設定しておく奇跡のような作劇技術。悔しいけれど感動してしまう。

終わってみれば笑うだけ笑ってあとにはなにも残らないような不思議な感触・・・。気持ちよく笑っただけというか・・・。観客に負荷が残らずカーテンコールがすごく楽しく見れる・・・。

緻密という点では、たとえば三谷幸喜のように瞠目するような仕組みを作りえる作家はいるけれど、それでは三谷喜劇が後藤喜劇より上かといわれると、そうも思えない・・・。このレベルになると優劣が比較できないようにも感じます。どちらが優れているとかいう話ではなく、最上級のラムと焼酎、どっちがおいしい?みたいな話なのですよね・・・。

役者にしても、Piperの5人(川崎大洋、後藤ひろひと、山内圭哉、竹下宏太郎、腹筋善之介、)の演技は見ていても本当に安心できます。ホームグラウンドであることで緊張感を失うこともなく、でも型にはまらない大きさがあって・・・。そこにからむ楠見薫平田敦子も手練の芝居をたっぷり見せてくれます。けっこう卑怯なこともやっているのですが、ナチュラルに奇抜なので観客が引かないしボンボンと観客のツボをついていくような流れの作り方がほんとうにうまいのです。

鈴木蘭々もよかったです。平田あやの代役ということで急遽登板したこともあるのでしょうが他の役者とちょっと演技の色が違っていたのは事実、でもそれが意外な効果を生みました。彼女がそのトーンで竹下宏太郎の演技とからむと、ふたりの芝居がともに映えるのです。相乗効果と言ってもよい、竹下の演技の良さが今回すごくよくわかって、そこから鈴木の魅力がさらに引き出されていく感じ・・・。ましてや、この二人は踊れるわけで、流すようなダンスにぞくっとするような切れがひそんでいて見とれてしまいました。

松尾貴史もあいかわらず芸達者ですよね・・・。よい人と悪い人の出し入れの巧みさはたぶん彼でないとできないのではないでしょうか・・・。

本編のエンディングがさらに次回作を暗示して・・・、まあ、「Big Biz」は最上級までいって終わりでしたが・・・、こちらはいくらでも続けられるタイトル付けだから、寅さんのようにまだまだ続くのでしょうね・・・。

吉本新喜劇とどこか通じる、パターンをもった笑い・・・、後藤ひろひとが目指しているものの一つなのかなと思ったりもします。まあ、観客にとっては面白いことがよいことなわけで・・・。ちょっと失笑しながらも、その裏で次回作に期待をしてしまうのです。

あ、そうそう、カーテンコールで川崎大洋が話をしているときに平田敦子と鈴木蘭々がなにげに無視してあそんでいるような小芝居をしていて、これも妙におかしかった。こういう雰囲気の作り方、個人的に結構好き・・・。最後の最後まで楽しませてくれる舞台でありました。

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