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黒色綺譚カナリア派「そまりえ」デフォルメとフェイクであらわすもの(ちょっと改訂)

2008年10月5日ソワレにて黒色綺譚カナリア派の「そまりえ」を観ました。会場はザムサ阿佐ヶ谷・・・。ちょっと雨がぽつりぽつりと来かけたところで開場になり中へ・・・。土蔵のような独特の雰囲気に気圧されないように最前列に座って・・・・。さまざまなものが少しずつ小さくみえる舞台装置を不思議に思いながら開演を待ちました。

(ここからはネタばれがあります。お読みいただく方の観劇の妨げになることは心苦しく思いますので、何卒充分に留意の上お読みいただければと存じます)

戦前から高度成長期に入る前の昭和のかおりが残るころの話、女流画家とその贋作を描く少女、少女の叔父夫婦や少女に恋する若者、さらには女流画家の弟子に近所にすむ刑事までが加わって、そまりたる絵をめぐるミステリータッチの世界が展開します。

失踪した画家のついての謎解きにもなっているのですが、それより何かを作り上げる業を表現している色が強く、舞台の雰囲気に体がなれるに従って、物語の空気にだんだんと心が傾いていきます。

画家を扱ったその舞台自体に、生活空間の卑小さと生身の人間の大きさが強調されていて・・・。それだけでも、登場人物の建前からにじむ本音の想いのようなものが、やわらかく溢れ出してくる。

そして、赤澤ムックが今回仕掛けたこと・・・、キャストの男女逆転。最初はちょっとぎこちないかとおもったのですよ。しかし、物語が進んでいくうちに、これはしたたかだと思うようになりました。ジェンダーを変えての演技はキャラクターのニュアンスからなにかをそぎ落とす・・・。そして別のニュアンスが浮かび上がってきます。男性が隠す見栄のようなものも女性が演じると具象化されてでてくる。男性が演じると肌の厚さや筋肉に隠れてしまう本音のようなものも、女性が演じると血管が透けて見えるようにやわらかく浮かんでくる。逆に女性が演じるとゆっくりと出てくるような情念や感情を男性が演じるとまっすぐにその演技に現れてくる・・・。

もちろんそれは強いデフォルメですから、舞台全体はある種のトーンに彩られた戯画のようにも思えます。また、女性が女性を切り取る感覚が男性によって演じられることで、どろどろと入り混じった感情が水洗いをされたようにばらけてほどけて、なおかつ強い色に染められる。男性が演じる女性は女性が自然に隠すものを隠さない。まったく違和感がないわけではないのですが、逆に女性が表に出すと生臭くなるような感情には不自然さがないのです。一方男性の本分や建前が女性によって演じられることによって、その時代の男性が持つ気概のようなものから虚飾が形骸化して本音が透けていく。それらが今の時代にも滑稽に見えないのは、赤澤の抱くイメージにしっかりとした芯が通っているから・・・。女性が表現する情念や女性自身ががコアに持つ強さ、さらには女性から見た男性のコアの脆さが赤澤にとって歪められることなくしっかりと表現されていて・・・。赤澤的美学がスパイスのように効いて、美しさのなかにシニカルな視点を残した作品となりました。

芝原弘の演じる模倣作家の心の内側が、無垢なようで得体がしれなくてとてもよい。その兄役の山下恵の威厳というか突っ張り方に潜む滑稽さも魅力、一方で兄の妻役を演じた向井孝成の繊細になりえないような芯のずぶとさにも目を惹かれました。

牛水里美については、昨年暮れから何作かつづけて観ているのですが、その演技の幅の広さに驚かされます。柔らかさや弱さの中にもしっかりとテンションを持てる演技、それが若さというか青臭さのようなものに勢いを乗せて演じた升ノゾミとの絡みは、男女を超えたリアリティがありました。

人気画家役は日替わりで私が観た日は花組芝居の堀越涼、なんというか肝の据わり方がすごくいい。野郎歌舞伎のおやまが頑張って上品に演じているような風情が場にすごくあっていて・・・。

升ノゾミの友人役の吉田正宗も自分の場をしっかりと守った演技、刑事役の中村真季子にはちゃんと権威が感じられ、赤澤ムックが演じる刑事も場をしっかりと整えていました。赤澤は男役でもちょっと美しさがにじみ出てしまう感じはしましたが・・・。

なにか、その世界感を大上段に振りかぶらないで一定の圧力で観客に浸潤していく感じ。「とがった世界をやっています」というような昂りぶりもなく、一方で異なる趣向での男女の感性をたっぷりと味わせてもらった感じ。

少なくとも私的には、この感覚がかなり癖になってしまうのです。

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