@「吾妻橋ダンスクロッシング」
10月12日、気持ちの良い秋の日差しを浴びながら、久しぶりに浅草へ・・・。お正月でもないのに、仲見世は人通りが滞るほどの大混雑・・・。「末吉」のおみくじをひいたりとぷらぷらした後で吾妻橋を渡って・・・。
表現に満ち溢れた素敵な時間をたっぷりと楽しんでまいりました。
(ここから多少ネタばれが含まれます。ご留意くださいませ)
会場にはダンスのスペースがあったり、アーティストの物販があったり・・・。さすがアサヒビール系の建物ということでワンドリンクフリー&とても良心的な価格で売られていたり・・・。faifaiによるピタパンとスナック菓子の販売コーナーがあったり・・・。
そのなかをのびアニキ(金子良)がビデオランドセルを背負ってパフォーマンスをしながら歩き回っていたり、おやつテーブルのメンバーがお菓子をお盆に載せて配っていたり・・・・。
会場の壁面に大写しされるビジュアルも実に秀逸。。KyupiKyupiなどの表現と同系列なのですが、華やかな中にクラフィックアニメーションが持つ硬質な印象とアニメーションに含蓄されたユーモアのセンスなどが絶妙にバランスを保って・・・。みていて飽きませんでした。クレジットは稲葉まり+せきやすこのVJ,コモエスタ八重樫のDJ。
そして、頃合いが満ちてパフォーマンスが始まります。
・Mちゃん「エミネムさん」
ソロアクト。すっと舞台に立って、そのまま舞台に観客を引き込んでいきました。身体表現としてはシンプルなのですが、とてもバランスが良い。見る側に心情の襞のようなものがまっすぐに入り込んできます。観客に負荷がなく、でもなにかを残していく力がある・・・。
不思議な存在感に惹かれてしまいました。
「Line 京急 「ベルベラ・リーン」
出演 山縣太一、大谷能生
断片的な物語で柱をたてて、そこにコトバのリズムや音楽が絡んでいく。言葉と身体表現から重なりとずれにリズムが生まれ、そこに妄想や高揚が挟み込まれて舞台の密度が高められていきます。
山縣の言葉や動作にはメリハリときれがあり、言葉の繰り返しのなかですうっと現実のもやもやがすっと消えてシンプルでエキスがいっぱい詰まった世界が浮かび上がってくる・・・。
音楽、特に生サックスが効果的で、舞台をソリッドな感触とふくらみを与えていました。
・快快(faifai)「ファイファイマーチとpeter-pan」
一人の男性が現れてちょっと脱力感のあるシンプルなリズムを足音と手で刻みながら舞台を歩いていきます。なんとなくゆるい感じがするのですが、ある種のシークエンスがあって・・・。
続いて女性が加わる。同じような動作、シンプルだけれどしっかりと持続の意思を感じさせる・・・。ときより織り込まれる空気を一瞬引き締めるような素早い上半身の動作が舞台全体の世界を広げる。さらにひとり、それが2人となり3人となり・・・、それぞれのリズムがどんどん重なっていく・・・。そして舞台に明確な高揚感が生まれたところで、ロシア民謡が流れ出し・・・。
なにかが突き崩され、やがて現れる感覚の広がりに極上のユーモアのセンスが一気に湧き上がってきます。なにかとてつもなく面白くて逃げられない笑いが感動を道連れにしてこみあげてくる。これは凄い・・。
しかも、その笑いを引っ張りきらないセンスもすごくよくて・・・。やがて舞台からひとり、またひとりと去っていき・・・。あとに残るのは、なにか癖になりそうな不思議な感覚・・・。なにかすごい才能に巡り合ったような気がする・・。
そのあとのpeter-panの物語もめちゃくちゃおもしろかった。素敵にいい加減な物語の端折り方、そのぐたぐた感のなかでもピーターパンが宙を舞うという部分はしっかりとしたテクニックで守り通されていく・・・。その温度差にものすごいセンスを感じるのです。そして、後半、ピタパン繋がりで舞台からピタパンの売り場まで客席内に分解写真のように動作をつないでいくところもしっかりとしたテクニックに裏付けられていて・・・。
出演は 北川陽子、佐々木文美、篠田千明、大道寺梨乃、中林舞、野上絹代、藤谷香子、山崎皓司、加藤和也,NAGY OLGA。
夏に見損なった彼らの王子小劇場での公演が今更ながらに悔やまれたことでありました。
・康本雅子+戌井昭人+村上陽一「五輪さん」
今回も、康本雅子の動きには魅了されました。艶があり、下世話ななかに豊潤な世界観を感じる。細かい動作の連続が作り上げる下半身の豊かな動きが上半身で語る生活感や思いに安定感を与えていて・・・。
戌井昭人と村上陽一が作り上げる康本の妄想、アバウトにも見える表現を支えるきめ細かな創意、ナチュラルで純粋な想いが舞台にどんどんと膨らんでいく・・。
気取りなく普段着で過ぎていく夫婦の日常と、その中に織り込まれたピュアな想いのアラベスクに思わず見惚れてしまうのです。
ただ、なんとなく感じたこと、康本はもっと表現したかったのではないでしょうか。うまく言えないのですが、どんなに密度を上げても精緻を尽くしても、この尺の中には押し込めえないような力が彼女のコアから伝わってくるような気がするのです。
彼女のやりたい放題を無性に見たくなりました。
休憩
・ボクデス(小浜正寛)「ボク Tube」
映像とパフォーマンスのコラボレーション。透明なアクリル板を張った枠を使っての演技を中心にいくつかの物語やパロディを展開していきます。
映画館で上映前に流れる盗撮防止のCMをパロった冒頭のパフォーマンスにまず笑って、そのあとの映像を見事に取り込んだパフォーマンスをゆったりと楽しんで・・・。
脱力系なのですが、そのユニークさについひと膝乗り出してしまうような・・。特に交通標識をつかった物語には噴き出してしまいました。
・KENTARODX!!「nothin’」
圧倒的なステップワーク。久しぶりにその早さと滑らかさにぞくっときました。細かいステップワークには見惚れるばかり。タップを踏むような細かいステップが観客にリズムをたたき込んでいく。まさに靴が呼吸をしているように見える。
靴を脱いでさらに腕が脚に絡んでいくような動作に粘度が生まれ、流れるだけのダンスに複雑な広がりが生まれていく。滑らかでとどまらない動きが観客の心までときほくしていく感じ・・・・。
けれんのないダンスが常ならぬ域まで観客を押し上げ、まっすぐに突き抜けていくような感覚が演者から観客に伝わっていく。旬の極みを観たような・・・。
才能のほとばしりの中心で彼自身が本当に輝いていました。
・Chim↑Pom 「こっくりさん TATTOO」
背中にTATTOOをする時のペンをコックリさんをするように走らせていくというパフォーマンス。
遊び心に潜む苦痛の感覚を伝えていると考えると、確かにそこには表現が存在するのだと思います。また、能天気にこっくりさんを呼んだり返したりする部分には突き抜けたユーモアのセンスを感じます。
しかし、観ているほうからするとその苦痛にさまざまなノイズが入っているように感じられるのです。その感覚が観客に取り込まれるためにはもう一段の昇華が必要な気がする・・・。その昇華ベクトルの適性は苦痛を上げることではなくむしろ苦痛を引き気味にしていくあたりにあるような気がするのですが・・・。
・おやつテーブル「畳がない。」
年齢的には幅がある4人組のユニット。開演前や休息中に着物姿でお盆を持っておやつを配っているすがたは場内でもかなり目を引いていました。
パフォーマンスには実に豊かなぬくもりがあります。時間を愛でるような感覚がふわっと舞台から伝わってくる。着物の美しさに統一した演技と年齢によってことなる所作がさらに世界を広げていきます。ヴィヴィドですきっとした動きに含まれるゆとりになぜか心がなごみます。
一方で、着物の袖をそれぞれに縫い合わせていくなかに大きな世代のつながりのようなものが鮮やかに浮かぶ・・・・。また、その着物を3人が抜き捨てて、着物を着たままの一番年嵩の女性がその抜け殻になったような着物達をひきづって退場していく姿もとても暗示的でした。
出演者のなかの木村美那子はたかぎまゆさんなどと非常口で行ったパフォーマンスで観ていて、その力量は十分に承知しているのですが、今回のパフォーマンスではその力が切れだけに向かっているのではなく、全体を包括するような部分にも振り向けられているような・・・。彼女のキャパの大きさを痛感するとともに、休息中に彼女から羊羹をいただいたことがなにかうれしくなってしまいました。
他の出演者は岡田智代、おださちこ、まえだまなみ
フィナーレのあとでさらに演じられたおやつテーブル+のびアニキの石鹸で手を洗うパフォーマンスも本当に楽しくて・・・。その時間が生き生きと感じられる。石鹸の泡が舞台に飛び散った瞬間、ほんとうに素敵なエンディングでした。
会場を出て、ちょっと肌寒い空気がとても心地よくて・・・。てんこ盛りのすごい才能に火照った心がやわらかくクールダウンされていくように感じた事でした。
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