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「JANIS」DULL-COLORED POPのタイムマシン

10月13日マチネにてDULL-COLORED POP、第7回公演を観ました。場所は新宿2丁目のタイニィアリス。入場するとバーカウンターにてワンドリンクを引き換え・・・。Janis Joplinが大好きだったというサザン・コンフォートもちゃんと用意されていました。

Janis Joplin、60年代後半から70年代初頭にかけて彗星のように登場し、わずか27歳でこの世を去った伝説のロックシンガーです。歳がばれますけれど、彼女の歌をはじめて聴いたのは高校生のころ・・・。、友人から借りた「In Concert」という2枚組のアルバムでしたが、その時の衝撃は今でも忘れられません。理屈ではなく心を揺さぶるなにかに自分の心が共鳴していく感覚。そしてその奥にある慰安。その感覚はうん十年たった今、「Get it while you can」とかこの舞台のサブタイトルにも使われている「Ball & Chain」などを聴くたびに色あせることなくよみがえってきます。
時に観客の心を切り裂くように叫び、、語りかけるように口ずさみ、抱擁するように歌う彼女の声は、一度聴いたら烙印を押されたように耳から離れることはない・・・。

そんな彼女の最後の1か月を描いたというこの作品、客席には初老の方もちらほら・・・。中には、出演者のご家族という方もいらっしゃったかとは思うのですが、それ以上にJANISの歌を懐かしんでこられた方も多かったような・・・。
開演時間が過ぎて、まだざわつく場内、客電が消えるなかでJanisは姿を現わします。そして彼らの期待をはるかに超える奇跡のような舞台が始まるのです。

(ここからはネタバレがあります。十分にご留意の上お読みください)

最初のワンドリンクをお願いしたカウンターがそのまま舞台の一部になり、日々のレコーディングが続く中でのリラックスしたJanisや、彼女の最後のバンド、full tilt boogieとバーのマスターの打ち解けた会話が始まります。

最初、バンドのメンバー達の台詞にはちょっとぎこちなさを感じました。しかし、その店で1曲やるということになって、演奏が始まるとそんなことは一気にふっとんでしまいます。

すごい・・・。Janisを演じる武井翔子がマイクに向かい「Move Over」を歌い出した瞬間、ぶるっと体が震え息が止まりました。武井のヴォーカルは「Summer Time」の時、絞り出すようなファルセットの音程が若干上がりきらなかったことを除けば全編ほぼパーフェクト。シャウトする時の圧倒的な声量。硬質に変化する高音部・・・・。うなりが踏み込むようにやってくる中低音部、そして全体を凌駕するように伝わってくるパワー・・・。それはまさに私が昔から聴き続けていたJanis Joplin。誇張でもなんでもなく、Janisが憑依していることが確信できるほど、まさにそのものなのです。歌にしっかりと魂が乗り移っていました。彼女の歌が舞台上のすべてにJanisのいる世界のリアリティを与えていく。バンドの演奏も実に安定していて・・・・。最初の曲が終ったとき、私はすでに心の震えが止まりませんでした。

そのなかで物語はJANISが次第に孤独に苛まれていくすがたを、追いかけていきます。プロデューサーとの意見のすれ違い、ドラックやヘロインの誘惑との戦い、親友や恋人との確執・・・・・。武井のボーカルを聴いた後だと、ぎこちなく感じられたバンドメンバーの会話がふっとナチュラルなものに思えてきます。「Me and Boggy McGee」を歌う時の彼女の円熟したボーカル。それと引き換えのように打ったヘロインが彼女の命を奪っていく・・・。武井はその行き場のない孤独をしなやかに演じていきます。叫びたくなるような感情が降り積もるように観客に伝わってくる

そして、その孤独が武井のボーカルに一層の輝きを与えていきます。千葉淳(Dr)、岡部雅彦(g)、新戸崇史(b)のバンドは当時のfull tilt boogieを超える演奏で武井をしっかりと支えて、それをさらにブレイクするような武井のボーカルが場内を魅了していく。

NYのオフオフで良質なミュージカルを観ているような高揚感が何度もおとずれ、そして、それはレコードのJanisの歌とともに幻のように消えていくのです。

その他の役者たちのこと、彼女の愛情や孤独をもてあそぶ中村祥桑島亜紀にはきちんとその雰囲気があり、親友の衣裳デザイナーを演じた堀奈津美もアメリカ人的な頑固さがしっかりと出ていて好演でした。プロデューサーのポール・ロスチャイルド役を演じた齋藤豊からは典型的なアメリカ人のプロデューサーの雰囲気がよく出ていて、武井Janisとしっかり絡んでいました。

ホテルのベルボーイを演じた清水那保の慇懃さも印象に残りました。Janisの求める愛情のクオリティを浮かび上がらせ、特に最後近くのシーンではJanisの孤独を見事に際立たせて見せました。バーのマスターのドイツ人を演じた景山慎二の客との距離感もよかった。淡々と狂言回し的にドラマを進めていくその語り口はひとつの時代のトーンを絶妙に作り上げていたように思います。

私にとって、ものすごくうれしかったことをひとつ、生まれて初めて「生きながらブルースに葬られ(Buried Alive In The Blues)」をボーカル付きで聴くことができました。それも武井演じるJanisの声で・・・。なにか宿願が突然果たされたような気がして、舞台の物語を一瞬離れて、感動に浸ってしまいました。不思議に目頭が熱くなりました。

こういう、自分にとって100%ツボのようなお芝居って、もう理屈じゃない。まずは「すごくよかった」としか言葉が思いつかないんですよね・・・。

本当に、観に行ってよかったと思います。

R-Club

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