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浮世絵ベルギーロイヤルコレクション展

太田記念美術館は、今月が特別展、ベルギー王立歴史博物館とベルギー王立図書館からの浮世絵の逸品が大量に展示されるとのことで観てまいりました。まあ、太田美術館ですから、良いものだけお茶漬けさらさらで観てこようおもっていたら、とんでもない・・・・。そもそも、ベルギーの両施設だけで7500点ちかい浮世絵が非常によい状態で保存されているそうで・・・、その中のよりすぐりがたっぷり展示されていて・・・。流せるような作品がひとつもない・・・。それどころか足が棒になってもその場から離れられないような作品がいくつもありました。

まあ、ちょっと目の付けどころがおかしいのではといわれるかもしれませんが、とりあえずその中でも特に足を釘つけにされた作品をいくつかご紹介・・・。

・東洲斎写楽「初代谷村寅蔵の鷲塚八平治

写楽の役者絵(大首絵)がならんでいてそれは圧巻、歌舞伎にはうとい私ですが、一枚ずつの絵から湧き出してくる役者たちの人間描写の力のようなものにはやっぱり惹かれます。

決めの表情に、どこか人間味があって観る者をそらさない・・・。「ああ、この役者は舞台の上でもこんな魅力があったのだろうな」と思わせる・・・。写楽の恐ろしいほどの描写力は、人を圧倒するのではなく、そのまま絵の世界に誘い込んでいくのです。芝居の中ではそれほど大きな役でも人気があったわけではない敵役の絵姿なのだそうですが、でも、一種のペーソスがしみこんできてずっと眺めてしまう。端役といわれても板の上での豊かな表現力に間違いがない・・・、そういう役者の姿が浮かんでくるのです

・東洲斎写楽「初代中島和田衛門のぼうだら長左衛門と初代中村此蔵の船宿かな川やの権」

2人の役者が描かれた作品。吉原へ遊女を買いに行く長左衛門を船宿の権が案内するシーンとのことですが、大きく描かれた二人の人物のコントラストの見事のなこと・・・。陰と陽というか・・・。どこか生真面目で神経質な感じもする長左衛門の着物の色が微妙に浮くような枯れた表情も見事なら、案内をする権のどこかに含みを持った腰の低さ・・・。一枚の絵の中に、舞台のシーンの一瞬の色が鮮やかに浮かび上がっている・・・。qば、名人上手がここ一番の見せ場を描くものかとおもうとそうではない・・・。写楽は役者の姿をを通してその舞台の空気をしっかりと写し取っているような・・・。

この絵に関していえば、最初は権が古田新太さんに似ているなというくらいに眺めていたのですが、描かれた二人の対比を見れば見るほど絵の中の時間に取り込まれてしまう・・・。役柄の身分の上下と心の座り方の優劣の面白さが、まるで舞台を見ているように伝わってくる・・・。

上記2点以外にも写楽の役者絵は数がけっこうあるのですが、一つずつに役者が演じている世界が実に鮮やかで・・・。本当に見ごたえがありました。

・喜多川歌麿「高島おひさ」「富本豊ひな」「当時三美人」

江戸時代と今の美人という感覚は若干違うのでしょうけれど、少なくとも内側に凛としたものをもった女性には時代に関係ない美しさがあるわけで・・・。歌麿の描く女性の美しさにはどこかに内面のしっかりとした心意気のようなものを感じます。

「高島おひさ」は両国の水茶屋の看板娘、当時まだ10代だったといいますが、その若さが表情にしっかりと現れています。幼さではなく若さ・・・。ちょっと勝気な世間知らずさというか放埓さが魅力にとして、画面からにじみ出るような感じ・・。歌麿の筆が映したのは、彼女の容姿だけではない。彼女のしぐさからあふれるビビッドな雰囲気が強くやわらかく観る者を魅了するのです。

「富本豊ひな」は年齢的には「高島おひさ」より若干上らしく、やや艶を感じます。落ち着きの中に若さが潜んでいる感じ・・・。芯の強さも感じます。細い眼、小さな口、平面的とも思える描き方なのに、そこに血がしっかりと通っている感じガする不思議さ・・・。絵の前に立ち尽くす時間と彼女が存在する時間が解けるように重なって、どうしようもなく見入ってしまいました。

「当時三美人」は上記のふたりに難波屋きたを加えた3人の絵姿・・・。そこには一人ずつの世界がしっかりと描かれていると同時に、その3人が並び立つことによって生まれる美のしたたかさのようなものがあります。キャンディーズの3人が一つの歌を歌う時の迫力のようなもの・・・。それぞれのメンバーの魅力を離れたなにかがそこに存在するのです。清らかな艶やかさが混じり合ってある種のなまめかしさが生まれるような・・・。溜息がでるような豊潤さがあって・・

そりゃね、男のスケベ心の現れなんていわれたらその通りかもしれません。でもスケベ心だけじゃ、江戸時代のなまめかしさに取り込まれることがあっても絵に恋慕なんてできません。そこにあるある種の色に心が浸潤されるから、その場を離れがたくなるのです。この美女3人の絵には単純に美女が3人並んだというだけでなくむこうからやってくるような何かがあって・・、歌麿の筆力に立体的な常ならぬふくらみを感じたことでした。

・鈴木春信「漢詩を作る若者」「座舗八景 鏡台の秋月」

春信の描く人物の人間臭さからはいろんな物語が見えて・・観る者を魅了します。「漢詩を作る若者」は子供に硯を持たせて、ちょっと唯我独尊で気取って漢詩の創作たしなむ・・。揶揄するというわけではないのですが、その「気取り」と本人のまじめさみたいなもの、さらには子供の表情がとてもユーモラスに思えます。まるで、時間のここぞという瞬間をスライスしたような・・・。その時間のなんともいえない安息と豊かさが観ていてなんともいえず心地よくて・・・。

一方「鏡台の秋月」は時間をやや厚めに切り取った感じ。髪を結いあげている女性の時間に満月に見立てた鏡と窓の外のススキにすきとおった秋の空気が感じられて・。描かれてもいない虫の声が聞こえてくるような気さえする・・。淡々と髪を結っている姿に、なぜかある種の静寂の音を感じてしまう。

日々の暮らしの中のちょっとしたテイストが、なにかいとおしく感じられるような作品たち・・・。描かれている背景や人物の何気ないしぐさとか表情にいろんなテイストの香りが感じられて、いくら見ても飽きがこない作品がたくさんありました。

・葛飾北斎「鳥羽絵集 くつろぐ中間・転ぶ駕籠かき」

葛飾北斎というと、やっぱり富士山という印象が強いのですが、彼の作品って本当に多岐にわたること・・・・。画集を見たりあちらこちらの美術展に行くたびにびっくりさせられます。

化け物の意匠の個性的なこと、若いころの緻密な画風、もちろん風景画の世界のすばらしさ・・・、かと思えば北斎漫画のような世界ももっている・・・。

鳥羽絵というのは、日常生活に題材をとっておもしろおかしく表現したものだそうですが、これがすごく魅力的なのですよ。

くつろぐ中間というタイトルがついた作品には緩やかな時間があって、中間のあくびが持て余した時間のどうしようもなさが絵を観た人間にも伝染するような感じで・・・。脱力系というかリラックスの極みのような絵のなかに、自分の絵の会の看板を立て懸けることで闊達にいかないことへの自嘲がすごくよいスパイスになっていて・・・。ほんの少しだけ中間としての緊張感を保ちつつ9割5分は力を抜いている力加減に惹かれてしまう・・・。

転ぶ駕籠かきにしても、あっと声がでるような場面なのですが妙に緊迫感がない・・・。そこはかとないユーモアがあって、中に乗っている武士が背中から転げ出ようとしているのですが、そこに本来あるべきシリアスさがない・・・。絵の中の登場人物もさることながらその外側に漂う時間に、ここちよいけれどちょっと持て余すような、許容範囲の徳俵で悠然としているゆとりのようなものを感じるのです。

赤富士の雄大さも繊細な筆使いの芝居小屋の風景も、すべて葛飾北斎の懐の大きさのなせる技・・・。たとえば、古今亭志ん生の落語をCDなどで聞くと、師匠自身がもつ懐の深さから噺が湧き上がってくるような感じがあるじゃないですか・・。それと同じような深さが北斎の鳥羽絵集の作品群には隠し味になっているような・・・。

べたな言い方ですけれど、この絵は良いです。ほんと、ふっと肩のこりがとろけていくような温かさがありました。

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しかし、よくここまでというくらい粒のそろった展示でした。素人が観てもわかる保存状態のよさも魅力。緑とかの色がすごくきれいだったりあずき色のような赤にすごく気品があったりしてして・・・。上記以外でも一筆斎文調や鳥居清長、歌川国芳など、見ごたえ十分の作品群、前期は15日までだそうですけれど、そのあと、ほとんどの作品を入れ替えての後期の展示もあるそうな。これはいかずばなるまいて・・・。

ちなみに、今回の展示は、太田記念美術館での会期が終わった後は、来年初頭には京都に回り、ゴールデンウィークになると今度はお江戸日本橋高島屋に戻ってくるそうです。きっとリピーターの多い展示会になるのではと・・・。

とりあえず、お勧めも兼ねて・・・。

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